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第二十三話 寺への道ゆき


「お寺へ行くのも久しぶりだねぇ」

 ふんわりと雪の積もった通りを歩む、草草そうそうの足取りは軽い。両隣を、足元を、眺める顔は楽しげだ。

 坊ちゃんの機嫌が良さそうだからか。狼君ろうくんの鋭い眼光は常より和らぎ、虹蛇こうだは綺麗に笑ってうなずく。

 足元の、まん丸な猫、白玉はくぎょくも弾んだ声でニャアと鳴いた。


 草草たちは今、街外れにある徳の高い和尚の寺へ、向かっていた。

 数日前、ひょろりとした猫背の僧が薬仙堂にやって来て、寺へ遊びに来ないかと誘ってくれたからだ。


 和尚が、

『私は東市のお寺に呼ばれていて、その日は帰ってこないからね。お前もたまには友達でも招いて、ゆっくり羽を伸ばすといいよ』

 と、長いお顔に笑みを浮かせ、こう言ってくれたのだそうだ。


 では、喜んで伺おう。

 従兄もどうかと聞いてみれば、残念そうに首をふられた。ここしばらく、心優しい恋しい娘に会うために、店を空けることが多かったので遠慮したらしい。いや、従兄を向く伯父の目が、どことなく据わっていたせいか。

 僧は、寺近くの竹林に住む、化け狸の狸休りきゅう兄妹も呼んであげたいという。

 ならばこちらも遠慮なく、妖猫、白玉を連れていこう。食べ物など持ち寄って、みなで楽しい一夜を過ごそう、となったわけだ。


 ちらり。草草は、狼君の背に背負われた大きな荷物へ目を向けた。入っているのは餅に重箱、少々の酒。そして、坊ちゃんの着替えである。

 この守役の「坊ちゃんが風邪をひくといけない」と、相方の「坊ちゃんに毎日同じ着物なんて着せられないよ」を満たした結果、大荷物になってしまった。ついでに端から『坊ちゃんの朝の日課』、素振りのための木刀まで覗いている。


 虹蛇はといえば、ふところにお布施の包みを収めた他は、身軽であった。いつ、どこからやって来るかわからない何ものかから、草草を守るための役割分担であるらしい。

 歩きつつ、ときおり上を気にしているのは、『屋根に積もった雪が坊ちゃんの上に落ちてこないように』とでも警戒しているからだろう。

 守役たちの守備範囲は広く、細かい。


 まあ、彼らはいつもどおりか。それより今宵が楽しみだ。草草は頬をほころばせると、次は足元を向いた。


「白玉、寒くない?」

「ニャア!」

 ――大丈夫!


 白玉も、このお出かけが嬉しいのか、見上げた拍子に尻尾がピンと立ち上がる。そんな白猫に、ふふ、と笑った坊ちゃんの、顔がななめに傾いた。

 今、道には雪がある。真っ白なのでわかりにくいが、四つの足が埋もれたことで、丸い腹まで雪に埋まっているような……


「白玉、お腹が冷えるといけないから、おいで」

「ニャアン、ニャ?」

 草草の伸べた手に、白玉は嬉しそうに寄ってくる。しかしそばから狼君が、ひょいと猫を抱えてしまった。


「坊ちゃん、白玉は重いので腕が疲れるといけません。俺が持ちます」

「ニャ……」

「坊ちゃんも我の背に負ぶさりますか? そうすれば寒くありませんよ」

「ああ、それがいいですね。それなら疲れないし、滑って転ぶこともない。靴に雪が入る心配もありません」

「坊ちゃんは軽いですからねぇ。さ、遠慮なくどうぞ」

「ニャッ?」


 重いと言われたせいだろう、しょぼんとしていた白猫が、坊ちゃんは軽いと聞くと驚いた風にこちらを向いた。

 草草は「白玉のほうが軽いから」と、ぬるく笑って首をふる。間に入ったたくさんの心配はいつものことと流しつつ、重さなど気にしなくていいのだと白い背中をなでてやる。と……


「おお、草草殿、どこかへ行くのか?」

 声の主は、無骨そうな眉をきりりと持ち上げた、真面目そうな役人であった。



「寺へ、泊まりに行くのか……そうか」

 挨拶を終えると、役人の顔が不思議そうに傾いた。その目は狼君が背負う、大きな荷物に向いている。

 おそらく、たった一泊なのになぜそれほど荷が必要なのか、とでも思っているのだろう。

 またもやぬるく笑った草草は、しかし首を傾ける。寺か、と繰り返した太い眉の端っこが、徐々に下がっていったからだ。


「どうかしたんですか?」

「ぬぅむ……実はだな」

「あんたさ、また妙な事件が起きたんだろうけど、そういうのは自分で解決しなよ」

「坊ちゃん、早く行きましょう。日が暮れてしまいます」

「ちょ、ちょっと待ってくれ!」


 言語不明瞭なうなりをもらし、太い眉を、一本につながりそうなほど寄せて下げる。この顔は困り事があるときだ。

 針のように尖った目が、ギラリと煌めく眼光が、焦った風な役人を射抜く。

 これをまあまあと草草がなだめ、聞いた話はこうだった。


 近ごろ、東市にある立派な寺に盗賊が押し入る、といった事件がいくつか続けて起きていた。何人もで忍びこみ、出くわした僧侶を殴りつけ、金目の物はあらかた持ち去る。

 そんな荒い手口が手がかりとなったのか。この盗賊一味はほぼ、捕まえることができたそうだ。


「ほぼ?」

「う、ぬ……ほぼ、だ」

 小首をかしげた草草に、役人は渋い顔でうなずいた。

 盗賊の、かしらがまだ逃げている。けれど必ず捕まえる、と大きな拳がふり上がる。


「あんたたち役人が捕まえるなら、坊ちゃんには関係ないじゃないか」

「いっ、いや、まだ続きがあるんだ」

 役人は、一方の眉をつり上げた虹蛇に首をふり、もう歩き始めそうな狼君を「待て待て」と止めにかかる。

 坊ちゃんは引き続き、ぬるく笑って話を促す。

 守役の腕に納まる白玉は、話に、あるいは役人に、さして興味がないらしい。うとうとしているようだった。


「その盗賊がだな、ある寺から厄介な物を盗んだんだ。それがまだ見つかっていない」

 役人の話は続く。


 それは仙人から授かったとか、外術使いが作ったとかのいわれがある、『影武者鏡』とも『人喰い鏡』とも呼ばれる品であるという。

 自身の姿を鏡に映すと、そっくりな人物が現れる。この人物を身代わり、つまり影武者としてそばに置く。古くは皇帝が用いた物であるそうだ。

 ところが、いつからか、鏡から人が現れることはなくなった。代わりに映った者が呑みこまれる。

 鏡からは、戻ってきた者もあれば、消えてしまった者もいる。このことが由来となったのか、『試練の鏡』などという名も伝わっているらしい。


「その鏡はいつも影武者を務め、命まで狙われていたんだ。きっと、人の身代わりになるのが嫌になったんだろうな」

 役人は訳知り顔で首をふる。だからもし、妙な鏡を見つけることがあったなら、取り戻すなり教えるなりしてほしいと締めくくった。


 草草は、ほぅ、と声をもらした。いや、役人の鏡を思いやる考察に感心したのではない。和尚の目論見に気づいたからだ。

 力ある和尚は今日、東市の寺に行っている。おそらくその、厄介な鏡を探すためであるのだろう。

 すると街外れにある和尚の寺は、猫背の僧と小坊主だけになってしまう。


 盗賊は、まだかしらが逃げている。役人に追われるかしらは、押し入るのに慣れた寺へ、人気のない和尚の寺へ、やって来るかもしれない。

 この寺は以前、盗人に入られ、鬼の角やら何やらを盗まれてしまった。という残念な実績も、ある。

 だから。


 和尚は『お前もたまには友達でも招いて――』と僧に言い、草草たちを呼び寄せたわけだ。


 長いお顔を思いだすと、ふふ、と笑みがこぼれた。やられたとも感じたし、これまで世話になったので、ちょうど良いお礼になるとも思ったのだ。

 ではご希望どおり、今宵一晩、僧と寺を守ってみせよう。


「僕たちにお任せください」

 草草が力強く請け負うと、役人は「ありがたい!」と相好を崩す。

 役人は『厄介な鏡』について頼んだのだ。つまり、この会話はちっともかみ合っていないのだが、まあいいかと坊ちゃんは、気にせず笑ってうなずいた。





「狸休たち、元気かな?」

 竹林が見えてきたところで、草草は雪道を進む足を止め、ニコニコしながら辺りを見た。

 陽も傾き、雪に覆われ、竹林はうす暗い。

 冬の間、化け狸の兄妹は山にいた頃と同じよう、穴にこもって過ごしている。まだ人に慣れない狸休にとって、乳飲み子の子狸にとって、そのほうがいいだろうとなったのだ。


 狸休たちを紹介した当初、化け狸だと教えると、怖がりな僧はやはり「ひぃ」と悲鳴を上げた。

 そして狸休も、力ある和尚と僧の前で緊張していたのだろう、僧の声に驚いたのだろう。同じく「ひぃ」と声を出し、ぱたり、倒れてしまった。

 しかしこれが良かったのか。僧はおろおろ心配し、母狸が亡くなったと聞けば小さな目を潤ませる。すぐに二人は打ち解けた。


 僧はときおり食べ物を持って様子を見に行ってくれ、また、狸休も僧が訪ねれば顔を出して挨拶する。春になったら狸休たちは人の世を学ぶため、寺へ通うとも決まっていた。

 今日も朝から寺へ行ったそうだから、仲良くやっているのだろう。


「きっと元気ですよ。これもみんな、坊ちゃんのおかげですねぇ」

 虹蛇が綺麗に笑って褒めたたえると、狼君も誇らしげに同意する。

 確かに、竹林で暮らせるよう計らったのは草草だが、今、何かと世話してくれているのは僧のほうだ。

 それに、山から下りてきた狸休が、男に騙され『金袋』を失くして困っていたときのこと。

 菓子屋の従姉夫婦と藤狐とうこは、この兄妹を泊めてくれた。金袋を取り戻す際は、二人の仙の力も借りた。


「ううん、みんなのおかげだよ」

 坊ちゃんは、ふうわり笑って感謝まじりの甘えた瞳をふり向ける。すると狼君の目は嬉しそうに細められ、虹蛇の耳はいつものごとく赤く染まった。

 ちなみに金袋を取り戻したとき、騙した男を捜すのに役人の力も借りたのだが、この辺り、坊ちゃんはすっかり忘れてしまっている。


「さ、行こうか」

 寺へ行き、みなで楽しい一夜を過ごそう。

 前を向いた草草の足は、しかしその場に留まった。目はじっと、寺へと続く雪道を見る。


「ねえ、雪が降ってたのって、今日の朝までだったよね?」

「ええ、そうでしたね。素振りのときは窓の外に雪がちらついてて、寒かったですねぇ」

「ですが、それから天気が良くなりました。今日の遠出にはちょうどよかったです」

 さすが坊ちゃんだ。日頃の行いが良いのだ。守役たちは胸を張って競い、のたまう。その横で、草草の首が傾いた。


 雪道にはいくつかの足跡があった。雪は今朝まで降っていたから、それ以降ついたものだ。

 まずはこちらへ、寺から街へ、来たものが二つあるか。歩調は整っており、うち一つは小さい。東市の寺へ向かった和尚と、おそらく小坊主のものだろう。お供として連れていったようだ。

 足跡は、仲良く並んで続いていた。


 そして街から寺のほうへ、行ったものが一つ。こちらは走ったのか、歩幅が大きく、乱れてもいた。

 人に化けた狸休のもの、ではないはずだ。彼は今朝、子狸を抱えて寺を訪ねただろう。それは雪がやむより前だったのか後なのか、わからない。だが、ここは兄妹の暮らす竹林よりも手前、狸休が通る必要はないのだ。

 となれば、ほかの者の足跡となる。戻った形跡はないから、この者はまだ寺にいる。しかしもうすぐ陽は暮れる。寺へ参ったとして、とうに帰っていい頃ではないか。

 するとこの者は――草草の眉根が寄っていく、と。



「坊ちゃん!」

 鋭い声が横から飛んだ。何事かと顔を上げれば、思わず「あっ」と声がもれる。


 竹林の向こう、寺から、妙なものが立ちのぼっていた。

 うす暗い空に、さらに暗い影が広がっている。低いうなりのような音が、わずか竹林をざわめかせる。

 よく見れば、影は人がいくつも連なっているようであった。中には獣の姿もあるか。帯のように長いもの、毬だろうか丸いもの、細長い棒のようなものも見える。


 あれは封じられた霊であり、妖物であり、物の怪だ。

 あの寺は代々、力ある和尚が継いできた。人を害したものを封じ、長い時をかけて鎮め、そうして御仏の元へと送る。

 寺には本堂とは別に、名もないお堂が一つある。ここに封じてあるのだろう。それを誰かが解いたのだ。

 つまりあの影は、まだ鎮まっていないものども――


「狼君、虹蛇!」

 守役たちを向くと、いつの間にか狼君は、その姿を大狼へと変えていた。

 すぐ隣で白玉が、雪に埋まりながらもフシャーと毛を逆立てる。大狼と並ぶせいだろう、ちんまりとして心許ないが、戦う気であるらしい。

 虹蛇はといえば、草草のそばをしっかり陣取りながら、狼君から受け取ったのだろう、荷物を片手に持っていた。きっと、雪道に置いたら坊ちゃんの着物が濡れてしまう、との配慮だ。


「狼君、大丈夫? 白玉、危ないからこっちへおいで。僕は……これかな?」

 草草は大狼のうなずきを確認すると、あらぶる白猫を回収する。

 それから荷物へ手を突っこみ、はら巻――仙山から送られた、下界のものを締め上げてしまうはら巻だ、を出してサッと身構える。


「坊ちゃん、我がやりますよ」

 そして虹蛇に奪われた。


 ――おおおおおぅ


 寺の上で、渦巻いていた暗い影は、ようやく封じが解けたと気づいたのか。人のたくさんいるほうへ、こちらへ向かって飛んでくる。不気味なうなりが竹を揺るがす。

 呼応して、ごうと吠えた大狼は、地を蹴り上げると体は数倍大きくなった。風をまとい舞い上がり、牙をむいて影を蹴散らす。

 逃げようとする影は、虹蛇の振るうはら巻がムチのように鋭くしなり、うめきながら巻かれていく。


「さすがだねぇ」

 守役たちの雄姿を眺め、坊ちゃんは誇らしげに笑った。

「ニャッ、ニャッ、ニャッ」

 しゃがむ草草に抱えられ、その場に留まる白玉は、雪をぼすぼす踏みしめる。

 あの影には敵わないと幼いながらに悟ったのだろう。しかし怯む様子はなく、闘志を燃やしているらしい。

 これは将来有望だと、にっこり笑って白い背中をなでてやる、と。


「坊ちゃん、来ます」

「え?」

 はら巻を振りながらも案外余裕な虹蛇の声に、草草は何だろうと顔を上げた。


 ――ぐにゃり


 雄々しく舞う大狼の向こうが、空が、奇妙にねじ曲がる。

 暗く澱んだ宙から出たのは、見覚えのある大きな手だ。毛むくじゃらの、黒光りする爪の生えた鬼の手だ。壺らしき物も持っている。


《草神様、その妖猫、しばし抱えておられよ》


「ちょっと、何する気だい!?」

 聞き覚えのある声に、虹蛇の焦った風な怒鳴り声。大狼も咥えた影を放りだし、こちらへ向かって駆けてくる。

「白玉、おいで!」

 これは何かが起こりそうだと草草は、少々重たい白猫をしっかり胸に抱き寄せた。

 と、かぱり、壺のふたが開く。


 ――ごおおおおぅ


「ミギャッ!」

 途端、すさまじい風が巻き起こり、腕の白猫が奪われそうになった。

 大きな手が持つ壺の中へ、影が次々吸いこまれる。おそらく、霊や妖物、物の怪を捕らえる品であるのだろう。妖猫も、危ない。

 目をつむり、腕に力をこめて耐える。白玉も、爪を伸ばして必死にすがる。

 一人と一匹を守るように巻きついたのは、虹蛇の腕か、大狼の尾か、はたまた仙山のはら巻か。


 ――ひょぉ、ぉ、ぅ


「坊ちゃん、大丈夫ですか?」

 気がつけば、辺りは静かになっていた。心配そうな美麗な顔と大きなままの狼が、そろってこちらをうかがっている。


「ん、大丈夫……ちょっと苦しいかも」

「ニャ……」

 坊ちゃんと白玉に巻きついていたのは、腕と尾とぐるぐる巻きのはら巻、そのすべてであった。



「あんたね! 坊ちゃんが怪我でもしたらどうするんだい! 白玉だって危なかったんだよ!」

「そうだ! あんな壺じゃなく、もっと他にもあっただろう!」

「フギャー!」


 静まり返った竹林に、守役たちの、白猫の、怒声と雄たけびがとどろいた。

 虹蛇の眉はきりきり上がり、狼君の眉間にしわが寄る。白玉の毛はぶわりと逆立つ。剣呑な眼差しが、ギラリと光る眼光が、つり上がった大きな目が、一方をきつく睨みつける。

 その先にいるのは――


「いや、申し訳なかった。なにぶん急いでおったゆえ」

 長い、馬の顔がヒヒンとゆれた。

 それは筋骨隆々とした体に腰巻だけをまとい、頭に一本角の生えた、閻魔様に仕える鬼。地獄の獄卒、馬頭鬼めずきである。


「馬頭鬼殿、お久しぶりですね」

 怒り心頭の守役たちと白猫を、精いっぱいの笑顔でなだめ、なでてやり、草草はようやく鬼を向いた。

 それから小首をかしげてみせる。


「今日は和尚様に呼ばれたんですか?」

 以前、寺から鬼の角が盗まれて、やはり馬頭鬼は現れた。彼は和尚の祖父でもあるから、その祈祷に応えたのだろう。しかし、だ。

 この間に、角を粉にして飲んだ女は鬼に変じ、ゴロツキの幾人かが命を落としてもいた。徳の高いあの和尚が、のんびり見ていたはずはない。

 つまり、和尚の祈祷から馬頭鬼が現れるまで、この世からあの世へ、呼ぶ声が届くまで、いくらかの時がかかるということだ。

 それなのに、封じの解けた今はすぐに現れた。これはどうした事なのか。


「いや、腰巻が切れて、な」

「え?」

 ここでなぜ、腰巻なのか。

 坊ちゃんの首がなおさら傾く。ヒン、と馬頭鬼はうなずきしゃべる。


「あの寺のお堂を封ずる結界は、腰巻と同じ布で出来ておる」

 本堂とは別の、霊や妖物、物の怪を封じていたお堂だろう。このお堂の結界が切れると、馬頭鬼の腰巻も切れるらしい。それで寺の異変を察し、壺を持って現れたわけだ。

 それは大変便利だと思う、が。


 坊ちゃんは、馬頭鬼の腰をじっと見た。

 地獄で亡者を相手取る怖ろしげな鬼の、腰巻が突如、切れてストンと地に落ちる。いや……

 ふるりとひと振り、考えなかったことにした。


「せっかくお会いできたのに、申し訳ありませんが、僕たちは寺へ急ぎますので」

 ついつい思いついた疑問を問うてしまったが、今は寺へ、僧と狸休兄妹の無事を確かめに行かなければならない。


 雪道には、一つ、妙な足跡があった。そして寺の封じが解けた。

 僧の仕業とは思えない。狸休たちでもない。封じのことなど知らなかったかもしれないが、彼らは妖物なのだ。きっと何がしかの力を感じ、近づくことも嫌っただろう。

 ならばお堂の腰巻を、いや、結界を切ったのは、妙な足跡の主しかいない。この所業を考えるに招かれざる客人、逃げる盗賊のかしら――の、可能性があるのだ。


「閻魔様にもよろしくお伝えください」

 では、と礼をとった草草を、待たれよ、と馬頭鬼が引き止める。

「この世に近づいてからというもの、孫の声が耳に届く。孫の念が目に映る。鏡を探しておるようだが、それがどうも、寺に落ちておった物に似ているような」

「え」

 ぱちり、草草はまたたいた。


 孫の声に孫の念、これは東市の寺にいる、和尚の祈祷のことだろう。和尚が探しているのは、盗賊が盗んだという『厄介な鏡』だ。

 それが、街外れの和尚の寺に落ちていた。今、寺には招かれざる者もいる。これはどう考えても――


「盗賊のおかしら、だよねぇ」

 草草は眉を下げ、みなを見まわしこの考えを述べてみた。すると虹蛇がニヤリと笑う。


「馬頭鬼、ちょうどいいじゃないか。鏡と一緒に、盗賊のかしらも地獄へ連れていきなよ。そうすれば、あんたの孫の頼みも叶うし、坊さんたちも助かる。坊ちゃんの手間もかからないんだ。盗賊が一人くらい死んだって誰も文句は言わないさ」

「いい考えだな」

 狼君も、早く行けと言わんばかりに勢いよく寺を指す。白玉のニャアは、それでみんな幸せ、だそうだ。

 が、馬の顔はヒヒンとななめに傾いた。


「あの鏡、生者を呑みこんでいるようであった。わしが地獄へ持ち去れば、その者らも命を失う」

 誰を、幾人、呑みこんでいるのか。そこまではわからないが、それで良いかと馬頭鬼は言う。

 ちっとも良くない。僧や狸休兄妹だったらどうするのか。


「僕たちにお任せください」

 首をふりふり坊ちゃんは、力強く請け負った。先ほど別れた役人にも、同じ返事をした気がする。





「ごめんください。お坊様? 狸休?」

 本堂の隣、和尚や僧の寝起きする僧坊をのぞく草草の、声に応える者はない。


「誰もいないようです」

「ですが、人がいた気配はありますねぇ」

「ニャン」

 ――いない、です。


 すん、と狼君の鼻が鳴り、虹蛇の目は辺りをめぐらす。

 ひげをピンと立てた白玉は、律儀にこちらを見上げてくる。坊ちゃんはにっこり笑ってうなずき返した。


 ここは人気ひとけのなかった本堂とは違い、どことなく暖かかった。

 おそらく部屋に、火鉢でも炊いてあるのだろう。僧と狸休は茶でもすすり、語り合い、草草たちの到着を待っていたのかもしれない。

 そこへ、盗賊のかしらが押し入った。いや、今のかしらに仲間はいない。きっとそっと忍びこむ。役人に追われているのだ、隠れていられる場所を探す。

 そう広くないこの寺には、本堂があり、僧坊がある。それから裏にもう一つ。


「お堂のほうへ行ってみようか」

 狸休はあれでも妖物だ。妙な音でも聞いたかもしれない。

 あるいは、先にかしらが結界を切り、封じていたものが放たれた。あれほどの異変なら、狸休だけでなく力ある僧も察しただろう。

 そうして、彼らは様子を見に行ったはずなのだ。


 荷物を下ろした狼君を先頭にして、草草のわきを虹蛇が固める。一行はお堂へ向かう。


「白玉、何があるかわからないから、狼君より前に出ちゃダメだよ」

「ニャア」

 やる気満々、駆けだしそうだった白玉は、素直にうなずきボンッと飛ぶ。その着地先は、狼君の、肩の上だ。

 すばらしい跳ねっぷりであったし、確かにそこは狼君よりも前ではない。が、後ろでもないのだが……


 聞きわけの良い白猫を褒めるべきかどうなのか。

 坊ちゃんは顔をあいまいに揺らしつつ、裏のお堂へ足を運んだ。



 一行が裏手に着くと、お堂の扉は開いていた。

 建物を茶色の縄がぐるりと囲み、一部が切れて垂れている。これが、馬頭鬼の腰巻と同じ布で出来ているそうな、結界だろう。

 お堂の手前、雪の上には、荷物が落としたように散らばっていた。

 その中に、黒縁の円い鏡が並んで二つ。いや、二枚で一組なのだろう。二つは金具でつながっており、開いたり閉じたりできるらしい。今は開き、鏡面が上を向いて置いてあった。

 こちらが『影武者鏡』とも『人喰い鏡』とも呼ばれる、厄介な鏡のようだ。


「やっぱり誰もいないねぇ」

 草草は辺りを見まわし、ふむ、とうなずく。


 おそらく、こんな風だった。

 まず、何も知らない盗賊のかしらが結界を切り、お堂へ入った。封じは解け、霊や妖物、物の怪が、暗い影がいくつもいくつも現れる。

 かしらは恐れおののき、ほうほうの体で逃げただろう。そこへ、異変を察した僧と狸休兄妹がやって来た。

 彼らはぶつかりでもしたのか、とにかく慌てていただろう。かしらは持っていた荷物を落としてしまう。厄介な鏡は開いてしまう。

 そして、みな、鏡の中へ――


「白玉、呑みこまれるといけないから、鏡に映らないようにね」

「坊ちゃん、何かあるといけないので、下がっててくださいね」

 草草は白猫を心配し、守役たちは坊ちゃんを心配する。心配に心配が重なり、この面々では鏡に寄るのも時間がかかる。

 それでも、何だかんだでようやく近づき、上から覗きこんでみる、と。


「あ」

 ――そっ、草草様!

 ――え? あ、草草様!

 ――きゅう!

 ――助けてくれ!


 鏡に、僧の、狸休と子狸の、ついでに見知らぬ男――盗賊のかしらだろう、の、必死な姿が映っていた。

 しかし、だ。


 この鏡は二枚で一組、その両方に、僧たち四つの姿があった。右の鏡にも僧や狸休たちがいて、左の鏡にも僧や狸休たちがいる、ということだ。

 古い品であるからか。割れたのだろう、左の鏡はひびも一筋入っている。

 そして、鏡の上部はゆらりと揺らぎ『選』の文字が浮いていた。


「坊ちゃん、これはどういう意味でしょう?」

「どちらかを選べってことですかねぇ?」

 鏡の物の怪からの挑戦と受け取ったのか。不機嫌そうな仏頂面と、面倒臭そうな美麗な顔が、草草をうかがってくる。

 虹蛇の言ったとおり、正しいほうを選べ、という意味だろう。正しく選べば僧らは戻り、間違ってしまうとみなが消える。


「うぅん……」

 草草は、うなった。

 二つの鏡の僧たちは、左右が反転したほかは同じように動いている。一方が本物で、一方が鏡像なのだろう。

 右の鏡の僧たちは、どことなく違和感があった。なじみがあるのは左の鏡の僧たちだ。

 もちろん、初めて見る盗賊のかしらは、どちらだろうと親しめないが。


「坊ちゃん、この『選』の字、右の鏡は逆になってます」

 狼君が右の鏡の上部を指す。

 揺らぎながら浮く文字は、確かに右が鏡文字、左の鏡の字が正しい。


「坊ちゃん、我も左が正しいと思いますよ。字もそうですが……ちょっと盗賊のあんた、邪魔だよ、そこをどきな! ほら、子狸をくるんでる着物の柄、右の鏡は逆ですよ」

 虹蛇は盗賊のかしらを睨みつけると、左右の鏡を交互に指す。

 狸休が抱く、子狸をくるむぶ厚い着物は初めて出会ったとき、この仙が彼らにあげた品だ。着物にこだわりのある虹蛇は、しっかり覚えていたようだ。


 なるほど、と坊ちゃんは、鏡に向かって手を振ってみた。

 草草たちの顔を見て、少しは安心したらしい。僧と狸休ものん気な感じで振り返してくる。返ってきた手の振りは、右の鏡が左手で、左の鏡は右手であった。僧も狸休も右利きである。

 やはり、右の鏡は鏡像で、左の鏡が本物か。しかし、と草草は首をひねる。


「この鏡、『影武者鏡』なんだよねぇ。鏡像が現れたら、偽者だってすぐにバレない?」

 今見ているだけでも顔立ちに違和感があり、その上、利き手まで違うのだ。これで影武者が務まるだろうか。たとえば、片側に大きなほくろでもあったなら、一目で偽物とわかってしまう。


 こう問うと、守役たちの顔も傾く。鏡に映ってしまわないよう遠巻きにしていた白玉も、可愛げに首がかしいでいる。

 ふふ、と口元をゆるめつつ、くるり、坊ちゃんの目の玉はまわり始めた。


 この鏡の物の怪は、どうして人を呑みこむようになったのだろう。なぜ、『影武者鏡』から『人喰い鏡』に変わってしまったのだろう。

 左の鏡にはひびがある。物の怪にとっては、自身を傷つけられたと同じこと。これが原因で本性がねじ曲がってしまった、とも考えられる。

 だがそれなら、ただ人を呑めばいい。わざわざ選ばせる理由がわからない。


「ねえ、狼君。この鏡、臭くはないんだよね?」

「はい、臭くはありません」

 ひょいと見上げてうかがうと、仏頂面がうなずいた。

 考えの違う物の怪は、厄介だとでも思ったのだろう。僧らを呑みこんだ今も、鏡は悪意を抱いていないのだ。

 するとこの鏡は、根性がねじくれて人を呑むようになったのでも、意地悪く人を試してやろうと思っているのでも、ない。


 ここまでを考え、ふと、草草は思いだした。

 この鏡にはもう一つ、別の名前が伝わっていた。それは『試練の鏡』だ。

 自分たちは今、右の鏡か、左の鏡か、選ぶよう試されている。だが、『選』の鏡文字に顔立ちの違和感、そして利き手の違い。本物と鏡像の判断は、そう難しいものでもない。

 ならば何が試練なのか。この鏡は、いつ、誰を、どのように試そうとしたのか。


 鏡の、変わっていないはずの本性に、『影武者鏡』『人喰い鏡』『試練の鏡』の三つの呼び名――


「うん。正しいのは、こっちだね」

 坊ちゃんの白い手が、本物であろう姿の映る左の鏡、ではなく、鏡像が映しだされた右の鏡にぺたりと乗る。


 ――ぶわり


 途端、白いもやが湧き上がり、四つの姿が現れた。





 鏡から無事戻り、助かったと泣く僧らをなぐさめ、草草を似ていたらしい母だと思っているのだろう、甘えてくる子狸を目いっぱいなでてやる。

 そろり。逃げようとした盗賊のかしらは、ふん捕まえ、切れた腰巻、いや、結界の縄でぐるぐる巻きにし、狼君が役人の下へひとっ飛び。その間、みなで宴の支度に励む。

 そんなこんなで騒ぎもようやく収まった、夜。


「さ、坊ちゃん、どうぞ」

 右手の杯に、酒がトトトとそそがれた。一口飲めば鼻をすぅっと、爽やかな香りが通り抜ける。

 これは仙山の雪水で作った雪晶酒。甘すぎず、のどを焼くこともないスッキリとした味わいだ。

 ポッと頬の染まった坊ちゃんは、注いでくれた虹蛇にも「どうぞ」と徳利を傾ける。


「坊ちゃん、ごま餅を取りましょうか」

 次は左手から、ごま餡のかかった餅をもらい、ぱくりと一口、頬がゆるんだ。

 僧坊の一室には重箱がいくつも並べられ、色とりどりの料理で華やぐ。こちらは薬仙堂の面々が、腕によりをかけて作ってくれたものだ。僧のため、凝った精進料理も入っている。

 坊ちゃんは餅をごくりと飲みこむと、今度は狼君へ、肉をどんと取り分ける。


「この白湯、おいしいですね」

 向かいでは、僧の元から小さな目が、なくなりそうなほど細くなる。彼が飲んでいるのはただのお湯。だが、仙山の湧水を沸かしたものだ。

 隣には、雪晶酒を一口飲んだだけなのに、真っ赤になった狸休がいた。どうやら酒には弱いらしい。今は白湯の入った湯のみを持ち、嬉しそうに料理を頬ばる。

 白猫と子狸は、きっと疲れていたのだろう。丸い体を二つすり寄せ、ぶ厚い着物に包まれて、仲良くすぅすぅ眠っていた。



「あの、それで草草様、その、先ほどの鏡ですが、あれはどういう事だったのでございますか?」

 少しして、口も腹も落ち着くと、僧がおずおずうかがってきた。

 みなも気にはなるらしい。鋭くはない眼光が、優しそうな切れ長の目が、不思議そうな丸い目が、そろってこちらを向いてくる。酒と料理を前にして、すっかり忘れていると思った。

 草草は杯を置き、そうですね、としゃべりだす。


「あの鏡って、本当はどう使われてたんでしょう? 伝わっていた三つの名前から、僕はこうじゃないかと思ったんです」

 使い方としては、まずは鏡を開き、姿を映す。すると映った者は、右の鏡に呑みこまれる。


「え、呑みこまれるんですか?」

 僧の小さな目が、結構大きくなった。くすり、草草はうなずく。

 あの鏡の本性は変わっていないはずなのだ。となれば、鏡にとっては正しい行いをしたのであり、呑みこまれるのが正常なこと。

 これで『人喰い鏡』となる。


 次に鏡は、呑みこんだ右の鏡の鏡像を、左の鏡に映す。左右を反転させるため、違和感のない、利き手も同じ、完璧な影武者を作るためだ。

 これは『影武者鏡』の一つの仕組みと言えばいいか。

 最後に、鏡の外にいる者が、右の鏡か、左の鏡か、これを選ぶこととなる。


「どうして選ばせるんですか?」

「昔は代々、皇帝が使ってたんですよね? それなら仕組みもわかってるだろうし、面倒なだけだと思いますがねぇ」

 狼君と虹蛇の、いや、僧と狸休の顔も、四つそろってななめに傾く。


「そこが『試練の鏡』なんだよ」

 みなを見まわす坊ちゃんの指が、ピン、と立った。


 あの鏡は、古くは皇帝が用いていたという。皇帝が鏡に呑みこまれたのち、外で選ぶ者は誰だろう。皇子か、皇后か、もしくは臣下か。

 このとき、この者はどう思っただろう。影武者が映った左の鏡を選ぶだけで、一国の皇帝を消し去ることができるのだ。


「で、では、その者の忠誠心を試すため、でしょうか?」

 話を聞くうち怖ろしくなってきたのか。おどおど背中を丸めた僧に、草草はふるりと首をふる。

「試されているのは、皇帝のほうだと思います」


 人を呑んで消し去ることもでき、偽者を作ることもできる。こんな力のある鏡なら、きっと悪用する者も現れる。だから心正しい持ち主へ、忠誠を向けてもらえる立派な皇帝へ。

 外で選ぶ者を決めるのも、皇帝だろう。ならば皇帝の人を見る目も、試しているかもしれない。

 あるいは、人を信頼し、人に命を預けることもできる。そんな性根を測るための、試金石であったかもしれない。


 そうして、外の者が正しいほう、右の鏡を選べば、呑まれた皇帝は外へ戻り、左の鏡からは影武者が現れる。

 これで『影武者鏡』の役目も果たす。


「影武者が現れなくなったのは、左の鏡にひびが入ってしまったから、でしょうね」

 鏡には、この世と別の世界をつなぐ道、といった逸話が残っている。

 左の鏡からこの世へ。けれどひびが入ったことで、その道は壊れてしまった。だから影武者も、出てくることができなかった。それだけの事なのだ。


 あの鏡は、何も変わったりしていない。今も与えられた役割を、ただ静かに果たしている。

 和尚様にそうお伝えください、と僧を向き、草草は話を締めくくった。



「さすがは坊ちゃんです」

「いつもながら賢いですねぇ」

 聞き終えると、狼君は力強く大きくうなずき、虹蛇はほほ笑み、どうぞどうぞと酒を注いだ。

 草草は遠慮なく、ありがとうと酒をすする。


「そうだったのですか……」

 僧と狸休はといえば、どことなくしんみりした感じだ。

 自身は傷つき、人にはいとわれ、それでも役目を果たし続ける愚直なまでの鏡を、哀れに思っているのかもしれない。

 草草は元気づけるよう、ふうわり笑みをふりまいてみせる。急ぎ、料理も取り分けてやる。


「にゃ……」

「ん? 白玉、起きたの?」

 足元で、寝ぼけた風な白猫が、こちらをのろりと見上げていた。

 どうやら、料理の乗った皿を見ているようだ。先ほど結構食べたはずだが、腹が減っているのだろうか。


「白玉も、お食べ」

「にゃ……」

 しかし皿を差しだしてみると、鼻先でぐっと押し戻してくる。

 もしかすると、寺へ来る途中、狼君が言った『白玉は重い』を気にしているのだろうか。


「気にしなくていいんだよ、お食べ」

 にっこり笑って差しだすも、皿はふたたび押し戻される。

「にゃぁ、ぁん」

 ――草草様、食べる。


 皿を間に、じっと見上げられて、じっと見下ろす。

 もしかして、この白猫が気にしているのは、虹蛇の発言『坊ちゃんは軽い』のほうなのか。

 白玉が起きたとき、草草はちょうど、僧と狸休に料理を取ってやっていた。これを見て、『草草様は軽いんだから、ちゃんと食べなくちゃ』とでも心配しているのか。


「にゃぁ、ぁん」

「……」

「にゃぁ、ぁん」

「……」


 実は今、わりと腹はいっぱいであったが、見上げてくる白猫に、とろりと寝ぼけたつぶらな瞳に――ぱくり。

 坊ちゃんは、負けてしまった。



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