夢
ああ・・・またいつもの夢だ・・・・。
また・・・あの悲しくも幸せな夢を見る・・・。
もう見たくないとも思う・・・また見たいと思う・・・。
忘れられない・・・あの過去の夢を・・・・。
この世界は残酷だ、耳が尖っているだけで世界は拒む。
それは彼にとっても同じこと。
悲しい記憶、嬉しい記憶。
すべてがあの時から始まった。
私が7歳の子供の頃、両親と森に住んでいた。
父親は狩人で毎日狩りにでかけていた。
母親は元は魔法使いで、いまは私の面倒と家庭の為に頑張っている。
私たちは人と違う姿をしていた。
人と違う耳の長さ、人よりも長く生きる寿命。
私たちはエルフの家族だった。
私たちは貧しくとも、楽しい生活を送っていた。
その生活もいとも簡単に壊された。
私の家に怪物が現れた。
それは本当に突然の事だった。
母は、魔法で応戦するよりも。
私を隠すことに必死になり。
命を落とした。
私は暗い、押入れの中で父が帰ってくるの待った。
父はそれから3時間ほどして帰ってきた。
父は私の無事がわかると、仇を打ちにでかけた。
父は帰ってこなかった。
違う、父は帰ってきた。
母とおそろいの腕輪をした腕だけが見つかったのだから。
それから私は、人里に降りた。
両親からなにかあれば村を頼れと言われていたから。
必死になって村にたどり着いた。
村の人に助けを求めた、だけど誰も助けてなんてくれなかった。
私が耳の尖ったエルフだったから。
それからも何度も助けを求めた。
何日も過ぎた、私は村の子供たちにいじめられるようになった。
殴られ、蹴られ、言葉で侮蔑された。
それでも私は、両親の言いつけ通り助けを求めた。
だけど、私を助けてくれる人はいなかった。
そしてまたいじめられた、そんな時、私の目の前に光が現れた。
光は人だった、黒髪の黒目の少年だった。
少年は私をいじめていた子供たちを追い払い私を助けてくれた。
少年は私に数枚の金貨をくれた。
私にとって少年はただひとり助けてくれた光だった。
なにも言葉を言ってくれなかったけど光だった。
私は少年のことが知りたくなった。
そして知った、少年も私と同じ境遇だと。
少年には家族がいた。
だけど少年には家族はいなかった。
少年には同年代の子供がいた。
少年には友達はいなかった。
少年は皆と違う、能力があった。
ただそれだけの違い、ただそれだけの違いで少年は一人だった。
少年は私と同じ一人だった。
そして少年は村を去った。
私はまた一人になった。
少年は冒険者になっていた。
私は少年の力になりたかった。
だからあちこちの森を探しエルフの隠れ里を見つけた。
私はそこで魔法を習った、私はそこで剣を教えてもらった。
私は強くなった。
そんな時に、露天で指輪を見つけた。
私はその指輪を少年からもらった大事な大事な金貨で買った。
私は少年を探して探して、そして見つけた。
それが私の悲しい夢、そして希望の夢。
ここサイラス国の統治はひどいものだった。
サイラス王は暗君だった、自分の栄耀栄華の為に政治をする暗君だった
それゆえに、このトルラン砦は5年もの間、山賊の住処となっていたわけだ
王は暗君ではあったが、宰相は優秀な人物だった。
王が認可しないこの事態に、冒険者を多く活用した。
報酬を多めに払い、治安を冒険者にまかせたのだ。
その為、このサイラス国は冒険者が非常に多い、そしてグレンはその筆頭ともいえた。
そのかいもあってか、トルラン砦はいまや若いものから熟年の経験者の者でにぎわっていた。
グレンが軍門にくだったこと、8武神のシークがくだったこと、そしてトルラン砦を落としたことがサイラス国中に広まったおかげである。
そして周辺の村々が山賊や盗賊からの襲撃の護衛をしてくれるよう依頼されることも多くなった。
その為、砦の経営は人手も増えたことにより、収入も安定してきたことで安定をすることになった。
しかしながらシークの仕事だけは異常に増えた。
シークの仕事は砦の経営全般、グレンの仕事は部下の管理訓練、アリスは我が儘担当、スレインは移動の時に能力を使い、最終決定を下すボスである。
そんな安定してきた砦経営に我が儘担当アリスは不機嫌であった。
そう自分だけ、仕事がないからである。
シークにしてみれば怪我をさせた後の事を考えると重要な仕事を任せられず、かといって家事全般をアリスにさせれば、まずアリスは怒るだろうし、スレインもよく思わないだろうという考えだからだ。
それゆえ、アリスは大変不機嫌なのだ。
しかしながら、アリスにも部下がついた。
レナという元冒険者の剣士である、容姿はお世辞にも美少女ではないが、人に好かれやすい笑顔をする青髪の女剣士がついた。
レナとアリスは友達のような感じで話す唯一の女性で同じ3階を寝床にしている。
アリスは不機嫌な顔でレナに話しかける。
「もう~どいうことなの?私だけ仕事がないなんて、兄様と2人で始めたことなのに、おかしいわ」
レナは困った表情をする。
レナは部下とはいえ、実際は護衛が主任務だった。
アリスに配属されたときに言われたシークの言葉は、命がけで護衛することだったからだ。
「レナもそう思うでしょ?外で皆働いているのに、レナは私の護衛、私は特にすることがないなんて」
アリスはレナに詰め寄る。
レナは自分の愚かさを呪う。
口が滑って、アリスの護衛のことをアリスにバラしてしまったのだ。
「私はアリス様の護衛につけることは、光栄なことだと思ってます」
レナは自信満々に言う。
レナにとってそれは謙遜でもなく本音なのだから。
しかしアリスにとってそれは気に食わない。
「私だけ護衛よ!兄様ですら護衛なんていないのに、私だけ護衛!」
レナは返答に困る。
アリスは諦めたような表情をして。
「兄様のところにいこうかしら」
とぽつりと漏らす。
レナは焦る。
今日は砦の主は大忙しなのだ。
急に仕事が増えた為、移動のためにあちこち飛び回っている、そこにアリスがいけばスレインはきっと時間を割くだろう、そうなればシークの計画が遅れる、レナは怒られてしまう。
「スレイン様は今日は忙しいので夕食の時にお話すればよろしいんではないでしょうか?」
レナは決死の覚悟で引き止める。
「はぁ・・・・わかりました、レナの言うとおりにします」
レナはホッとするその顔には安堵する表情が伺える。
「私、トイレで外しますわ。レナはそこで待っていて」
レナは頭を下げる。
それを確認してアリスは部屋をでる。
もちろんスレインに会いに行くために。
こうして我が儘お嬢様の一日がすぎていく。
その夜、夕食のあとに作戦会議が行われた。
主要メンバーはいつものスレイン、アリス、グレン、シークの4人であった
この砦の経営はシークが一手に引き受けていたため、部下達は最初はシークがボスなのかと勘違いさせることもあったが。
シークはそれはまずいと思いスレイン、そしてアリスの明確な立場をしっかり表明してからの入団方式にした。
その結果、今ではスレインが主ということを知らない者はいなかった。
そしてアリスはその次に偉いとしっかり覚えてもらう。なんで偉いかは妹だけという理由だけだが・・・・。
ここ砦の会議室のような部屋、円卓の机で主要メンバーは集まる。
「ゴホン、今日の作戦の議題は最強になるための道計画です」
いつのまにか変な名前がついた目的にスレイン以外苦笑いをする。
「最強になるためなのですから、8武神の1番目を倒せばいいと思うかもしれませんが、居場所がわからないので、今回は居場所がわかる相手ですこしずつ進もうと思ってます」
「居場所がわからねえのならそうするしかねえな」
グレンは賛同する。
アリス、スレインもそれに頷く。
それを確認して。
「砦経営も順調です、本来の目的を目指すべきだと私は思います。それでは、今居場所がわかる相手ですが、言わずもがな、8番目の武神は私です。なので7番目、5番目の居場所は調べによってわかってます。この中から誰を狙うかになりますが、スレインさんいかがしましょう?」
スレインは表情のない顔で、アリスを見る。
それに答えるようにアリスは席を立ち発言する。
「7番目にしましょう。全部倒せばいいと私は思いますわ」
シークは驚く。
「アリスさんのことですから、てっきり5番目にいくのかとおもってましたよ。
ではスレインさんそれでよろしいでしょうか?」
スレインは頷く。
それを確認してシークは発言する。
「では7番目のタレルに決定します。もう少し情報を集めてから本格的に作戦を決めましょう。解散でよろしいですか?」
皆がそれに賛同する。
「では解散とします。お疲れ様でした」
スレインは席を立ち去る。
それを見送ってグレンは困惑する。
「なあ、ボスなんだけどよ怒りもしないけどよ、笑いもしないよな」
シークはそれに同意する。
「確かにそうですね、過去の事がよほどトラウマなのでしょう」
アリスを見る、アリスの意見を求めて。
アリスは不安な表情で。
「兄様が笑おうが、怒ろうが私には関係ない・・・兄様さえいてくれたらそれでいい」
グレンはやれやれといった表情でアリスを見る。
「まあそうだな、ボスはボスだしな、俺が悪かった。まあなんだ、これからも頑張ろうぜ」
「そうですねスレインさんはスレインさんです、アリスさん今回の事はすみません」
2人は謝る。
自分達にはわからない思いだと理解して。
「私も強く言ったわ・・・兄様をこれからも支えてね。」
そう言ってアリスは席を立ち部屋を去る。
2人は驚愕する。
「アリスがあんなこと言うなんてよ・・・明日雨かもしれないな」
「それは言い過ぎですが、今日はアリスさん少し元気なかったですね」
アリスは考える。
兄様にはいい仲間ができたこと。
今まで孤独だった兄様が一人じゃなくなったことにアリスは嬉しくも寂しさも感じる。本当は、この目的を終わらないで欲しいと心底願う。
そうアリスは考える。