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黒の王  作者: カキネ
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終編 愚12

 2人の視線は交わり、お互いの動きを観察する。

 スレインは内心焦る。ティラの命を狙う者達がいる中で、スレインが側に入れないことはとても不安に苛まれる。それにアリス、クレア、マイの安否も気になる。


 しかし、目の前の相手、もう一人のユマはそれを知っているかの様にスレインの行動を阻害する。今まで会話していたユマとは違い、明らかに雰囲気が違う。何度も感じたこの雰囲気は、こちらに敵対行為をとる殺意に近いものだ。だから、スレインはすぐに皆の元に行けなかった。殺意を持った相手を連れて仲間の所に行くことはできなかったのだ。


 スレインの額から汗が一雫流れる。


 これほどスレインが慎重になる理由は、スレインの力を知ってなお余裕の表情で、戦闘を開始しようとしているからだ。常人ならスレインと戦闘をしようなど思わないだろ。獣人の王クラスでやっと対等に渡り合える相手なのだから。


 このまま睨みあっているわけにもいかない。


 スレインは手のひらに光の玉を作り、それを相手に向けて放つ。それで相手の動きを探るための一手。

 しかし、放ったスレインが驚く。

 光の玉、その速さは常人ではとてもよけられない。だが、目の前のユマはまるで獣人かのように軽々と避け、まるで何事でもなかったかの様に平然と立つ。


「速い!」


 獣人王を彷彿させる動きに思わずスレインは言葉にする。


 反転してきた光の玉がユマに向かって再度襲う。背後を向いているユマ、当たると思われたその瞬間、何とユマは見もせずに光の玉を握りつぶす。高熱を発する光の玉が、肉を焼くような音を立てながら消滅する。


 手の平をユマは見て。


「さすがスレインこの肉体に火傷を負わせるなんて・・・」


 焦りの色をスレインは濃くする。光の玉を簡単に避け、そして握りつぶすなど獣人王以上かもしれないと。


 そんな心中を察してか。


「驚いているようね、では正解を答えましょう」


「正解だと?」


「ええ、私は確かに生身ならあなたに勝てない。だけど私達には永遠とも呼べる時の時間がそれを覆す事ができる。兄が試験体までしか作れなかった・・・」


 ユマはそう言葉を紡いでいる時、スレインの目は驚愕で大きく開く。


 ユマの肉体、女性のしなやかな肉体が急激に膨らんだのだ。それはどんどん膨らみ、人間の姿がまるで異質な者に変わっていく。肌の色、皮膚、筋肉の隆起、そして人であったはずのユマの顔がまるで・・・。


「まさか、獣人・・・。違う、これは夢でみたあの魔獣との融合・・・」


「正解。兄が出来なかった完全体。不完全だった兄の魔獣との融合は魔法の行使ができなかった。だけどね、人間形態であればそれも可能。魔獣形態は魔法など関係なく強いけれどね」


 ユマであったであろう、その獣は。見た目に反して涼やかな女性の声を響かせ、スレインを更に困惑させる。


「それでは、スレインさようなら」


 困惑するスレインに別れの言葉を告げ。目の前の獣は俊敏な動きでスレインの背後に周り、強烈な一撃とも言うべき獣の拳を打つ。咄嗟にスレインは守りの結界を張り、防ごうとする。


 だが、そんな物はないかの様にたやすく打ち壊され、スレインの腹部をユマの拳が入る。

 大きく後ろに飛ばされ何度も地面を転げ回り、地面に倒れる。


 数秒、数十秒その場でユマは観察し、動かない事を確認し。


「兄さん、さようなら」


 倒れているスレインに背を向け移動を開始する。


「ま・・・待て」


 その声にユマは身をビクッと震わせ、ゆっくりと背後に向き直る、


 ユマの視線の先には、今立ち上がろうとするスレインの姿が映し出される。


「なんで・・・なんでよ!なんで立ち上がれるの?にいさ・・・スレインあなたの肉体は普通の人間と変わらないはず!立ち上がれるはずない!」


 完全に地面に立ったスレインは自嘲気味に答える。


「僕は勘違いしていたんだ。グリモアの力は確かに人には制御できない力。でも、一部なら人でも制御できる。それは、過去にたくさんいた黒き者が証明してくれる。そして獣人王との戦いでトルンが僕に教えてくれた。全てを使いこなすのではなく、必要な分だけ使いこなせばいいと」


 ユマに視線を合わせる。


「君は確かに強いよ。獣人王よりもずっとずっとね。今の一撃は獣人王には出せない攻撃だった。獣人王と戦う前なら僕は恐らく死んでいただろう。だが、今の僕はそれでは倒せない。トルンと僕2人を倒すことはできない!」


 スレインは一歩一歩前に進む。


 それに怯えるように、ユマは後ずさる。


「終わりにしようユマ」


 スレインの言葉にユマは咆哮を上げ、後ろに下がる足を勢いよく前に出しスレインに襲いかかる。


 先程と同じ様に、強烈な一撃の連打が打たれる。


 しかし、先程と違うのはスレインは吹っ飛ぶ事なく、全てを素手で受け流している事だ。


「なんで!なんで!倒れてくれないの?倒れてよ!」


 ユマの悲鳴に似た声が周囲に木霊する。


 スレインは目と腕に力の発動を現在行っている。目の能力はユマ、そしてクレアが使っていた未来予知。そして、腕には初代トルンを模写した知識を秘め、ユマの攻撃を無効化している。


 しばらくユマの悲鳴と攻撃を受け続け。


「すまない」


 スレインがつぶやき。ユマの攻撃が一瞬止まった瞬間。


 スレインの手刀がユマの胸を貫く。


「カハッ」


 静かにまるでスローモーションの様にユマは倒れこむ。


 スレインは命尽きるユマを眺め。


「僕には正解がわからない、でも僕はティラを守ると誓ったんだ。だから、すまない」


 スレインの言葉に反応するかの様に、ユマの姿がユマ本来の人の姿に変貌する。


 そしてユマは微笑む。


「最後にお願い。兄さんと呼んでいいかしら?」


 静かにスレインは頷く。


 ユマは笑みを濃くし。


「兄さんありがとう。私を止めてくれて・・・。本当は戦いたくなかった・・・、でも私はユマの意思を受け継がなければいけなかった。だから、ありがとう」


 そして、小さく「さようなら」


 



次回最終話になります。タブン。ここまで読んでくださりありがとうございます。次回も読んで下されば幸いです。

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