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黒の王  作者: カキネ
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終編 愚11

後、数話で終わる予定。終編が最初長すぎたため、もう少し削るか、他の話で細かく入れれば良かったなと反省。

 息を大きく乱しながらは走る。何かに逃げる様に走る2人の体には見て取れる程、無数の傷があたり一面にできている。背後に駆け寄る気配が遠くに感じ、安堵の一息を入れた瞬間。痛みで顔を歪める。


「まただ」


 アリスは呟く。痛みの原因は今まで何度も味わったフードをかぶった人物の攻撃だとは理解している。だがその攻撃方法がわからない。手には武器らしきものは見当たらず、また魔法を発動している動作はなかった。だからこそ、一度離れる事を選択し距離をとる事に成功したにも関わらず、謎の攻撃はなおもアリスとティラに襲いかかる。


 幸いとも言うべきか、殺傷能力はあまりないのかいまだ2人は地に足を踏みしめている。鋭利な刃物で切り裂かれた傷、深くはない、だがそれも疲弊と相まっていつまで立っていられるか、先が見えない戦いに精神も摩耗する。


「アリス!やはり接近戦しかない!このままじゃ、消耗するだけだわ」


 ティラの言葉にアリスも頷く。ただ問題が一つある。数分前の戦いで傷を作りながらも攻撃に出たにも関わらず、敵に傷一つ付ける事ができないという問題があった。魔法、剣での攻撃は何かに阻まれる様に防がれてしまったのだ。つまり、あっちは攻撃を当てる事はできるが、2人には当てる事ができないでは勝機がないに等しい。


「だが、どうやって?」


 アリスの質問は、ティラも理解している。


「とっておきを使うわ!これでダメなら本当に終わりだけど」


 ティラは疲れた表情で笑いながら言う様を見て、アリスも不敵な笑みを零す。


「そうか、なら私も温存している場合ではないな」


「ただ発動までに時間がかかる」


「わかった、その時間稼ごう」


 2人はわずかの時間で作戦を練、敵と正面で対峙する。


 アリスが一人で敵の全面でゆっくりと歩き、後方にいるティラを守る様に背で隠す。


 敵は一瞬、足を止め、正面にいるアリスに視点を定める。


 少し驚いた雰囲気がアリスに感じられた。それもそのはずだろう。攻撃手段もなければ、守る術がない2人。逃げに回っていたのもそれが理由なのに、対峙するのは愚かな者かはたまた攻撃手段を思いついたのかのどっちかだろう。


 フードの人物は無造作に手を空に切る。それは幾度となく見た敵の攻撃手段。ただその正体がわからない。目にみえない攻撃が痛みとともに傷を作る。だからこそ、アリスの全力、師匠から伝授された奥義を持ってこれに答える。


 敵の当たるであろうタイミングを計り、霞のごとくその身を移動させる。敵にしてみれば本当に霞の様に見えたであろう。当たるはずの攻撃が避けられ、驚いているのか狼狽える様子が感じ取れる。


 焦りなのか敵は手を何度も空に切り、攻撃を幾度も繰り返す。しかしその度にアリスは霞のごとく避ける。


 敵に焦りの色が見える様に、アリスにも焦りの色が出始める。奥義にはかなりの集中力が必要、今は避ける為の動作だけだから負担は少ないが、そこに敵の手のタイミングを見計らって避けるという集中力も追加される為、かなり精神を消耗する。直前で避けなければ、敵に移動先を狙われる事を考慮しての動きだが、想像以上に負担がでかかったことがアリスの期待を裏切る。


 幾度も幾度も繰り返され、ついにアリスの体に一つの傷を作り苦渋の表情を浮かべる。ニヤリと敵は笑い、更に追撃をしようとしたときだった。


「準備は終わったわ。アリス離れて」


 その声が引き金と同時に。アリスはすぐに後方に下がり。


「ソーラーレイン」 


 ティラの声が響き渡る。


 その瞬間、空から無数の光の雨が敵に降る。


 敵はすぐに防御をしたのだろう。敵に降る光の雨は体に当たる直前に何かに当たる様に、消滅する。


 だが消滅していく後から雨は振り続け、次第にその目に見えない防壁が壊れていっているのか、どんどん敵の足元付近まで降り注ぐ。


「ダメなの・・・?もう終わる」


 ティラの諦めにも似た声を。


「まだだ」


 アリスは勢いよく敵に駆け寄る。


 パアーン


 という音と同時に、雨は止む。


 安堵したのだろう。敵は頬を緩ませた瞬間、目を見開く。目と鼻の先にいなかったはずのアリスがそこにいたのだ。すぐに敵は手を切るが、アリスは霞の様に一瞬で消え。


「遅い!」


 一閃。


 敵の体を上段で切り裂く。勢いよく血が走り。誰が見ても致命傷とわかるほどの深手を負わせる。それと同時に敵のフードは取れ、その素顔が暴かれる。


 アリスは目を丸くする。今まで戦っていた相手を見て驚く。その素顔は端正な顔立ちをした黒髪のショートヘアの女性。目は青色で透き通っている。しかし年を感じさせる皺を無数にあり、老婆とまではいかないが若くないことが見て取れる。


「そいう事か・・・」


 アリスは呟く。何故、一言も声を発しなかったのか。それは女性だと悟らせないためなのだろうと。それと同時に駆け寄るティラの足音を聞きながら。


「何故本気を出さなかった。あなたなら最初の攻撃ですぐに殺せたはず」


 黒髪の女性は薄く笑う。息も絶え絶えに。


「これが私の今の本気。もう時間はそれほど残されてなかった。だけど最後に使命を果たせて良かった」


 アリスは手を握り締める。


「どうしてあなた程の人がこんな事を・・・、100年前に世界を救った風の勇者とまで言われたあなたが!!」


 駆け寄るティラはアリスの声に驚く。


「女性だったなんて、それも・・・」


「甘い・・のよ・・貴方たち。、最後に・・真剣に・・使命を・・・果たしたかった。だから・・・隠して・・たの、私は・・満足。ユマ様・・・」


 アリスは事切れた、目の前の相手を見ながら。怒りを顕にする。


「これが・・・、これが・・・、私がしたことだと言うのか。私は一体どれほどの事を」


「違う!」


 アリスはティラの大きな声に振り向く。


「これはあなたがしたことじゃない。ユマという人物がしたこと。魂は同じでも全くの別人よ!生き方が違えば、また生まれた時代も性格も違う。これはアリス!あなたがしたことじゃない」


 真剣なティラの言葉に。


「ありがとうティラ」


 そう小さく呟く。



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