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黒の王  作者: カキネ
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終編 愚10

 2人の男の攻撃をマイはかろうじて致命傷を受けずにしのぐ。普通ならばとっくに倒れていてもおかしくないだろ。マイが立っていれる理由は、研ぎ澄まされた感覚が寸前で知らせてくれるからだ。だが、それでも無傷とはいかない、その証拠にマイの体は無数の傷があちこちにみてとれた。


 それでもマイは前に出て攻撃をするのを躊躇する。男の避けたはずの攻撃がマイの体を切り裂くのも未知数でもあるのも躊躇う一つではあるが、それよりも後ろにいるクレアの安全を最優先にした結果の行動。


「驚いた、あんたの能力は聞いていたが、まさかこれほどとは。だが、いつかは痛い一撃を食らって終わるぜ」


 剣を持った男が心底賞賛するような言葉を送る。


 マイは薄く笑む。男の賞賛を聞いたからではない。男は勘違いしていることに笑う。

 マイの能力がすでに発動していると思っている事に頬が緩んだのだ。

 確かにマイの感覚は常時研ぎ澄まされている。だがそれは能力の一端にすぎない。


 男はマイが笑った表情を見て訝しむ。

 マイは剣を前に出し、上下に動かし男にかかってこいと誘う。


 その挑発に乗るかの様に男が前に体を屈めた瞬間。


「マイ!」


 後方から声が掛けられ、マイは勢いよく視線を後ろに動かす。


 そこにいたのはマイが今まで近寄らせまいと守っていたクレアの姿がそこにある。


「クレア様!ご無事ですか?」


 大きく目を見開くマイを、クレアは大きく頷く。


「すまなんだ、妾はもう大丈夫じゃ。槍の男は妾が引き受けよう。マイは剣の男を倒せ」


「しかし・・・」


「聖王国の巫女として命令じゃ!マイ、剣の男を倒せ。よいか!」


 クレアの元気ない姿はそこにはもうなかった。あるのは今までマイが見てきた聖王国の巫女クレアの姿そのもの。


 嬉しそうにマイは元気になったクレアに頷き。


「はい!必ずや約束します」


 よし!と小さくつぶやき。それとと続けて。


「目の前にある姿だけに惑わされるでないぞ。黒の者の能力万物の力は、時すら操る。わかるな?」


「はい!助言感謝いたします」


 マイは剣の男に向き直る。クレアは槍の男を誘導し離れた位置に場所を変える。


 剣の男はマイと対峙し、違和感を感じる。先程戦った雰囲気とまるで違うことに焦りの色が出る。


 狼狽える男が可笑しかったのか、マイはニヤリと笑う。


 その笑顔は綺麗というよりも、獰猛な肉食獣が獲物を見定めている様に感じられた。男は冷や汗がダラダラと流れている事に気が付く。


 だが男は余程自分の能力に自信があるのか、すぐに冷静を取り戻し、攻撃に転ずる。


 駆け寄る男にマイは構えを解き、両腕をダラーと垂らしながらくるのを待つ。動揺を誘うためかと少し驚くが、能力を発動し、上段の大ぶりの攻撃をマイに向かって振る。マイは動かない、嫌動けるはずがない。男の能力は、時の流れを遅くする能力。


 この能力が発動すればどんな生物もほとんど動けずにやられるだけなのだから。


 男がマイを切ると確信した瞬間。


 突如マイの体が男と同じ速度で動き、横薙ぎに剣を振るう。


 絶対の信頼を置いてある能力だった。


 しかし、男の体はマイの剣により、大きくお腹を裂かれ地面に倒れる。


「グハッ」


 男は口から血を吐き出す。それを見下ろす様にマイが側にたつ。それを見て、息も絶え絶えな口からなんとか言葉を絞り出す。


「止めを刺す前に一つ聞かせてくれ。お前の能力はなんなんだ」


 罵声でも来るのかと思ったマイは男のそんな言葉に間抜けな顔をする。そして、表情を整え。


「私の能力は、お前と似ている。全ての知覚が常時研ぎ澄まされ、更に能力を発動すれば全てがまるで止まったように緩やかな世界になる。極限にまで研ぎ澄まされた感覚とはそうなるらしい」


 男は苦痛の中、ニヤリと笑う。


「そうかあ、成る程な。俺の人生最後がこんな結末なら悪くないな。満足だ。止めを刺してくれ」 


 首をかしげるマイは疑問を述べる。


「何故お前たちは・・・」


「見ての通り・・・だ。長くの時を生きてきた・・・。もう俺たちにゃ、他の道は選べねえ。だから最後まであの方に付き従うまでさ。さあやれ!」


 そうか、とマイはつぶやき。男の喉元に切っ先を構え止めを刺す。


 動かなくなった男の死体を見て、マイは思う。


 一つ違えばまたマイも同じ道を生きていたかもしれないと。




 クレアは槍の男と対峙する。


 クレアは戦闘には特化していない。それもその筈、聖王国の実質頂点であるクレアが戦闘する事は考慮されていない。しかし、クレアの表情には焦りの色は見えない。それどころか余裕さえ感じられる。


「いいのか?」


 男の問いかけはとても短い物ではあったが、クレアには理解できる。


 男はこう言いたいんだろう。


 未来予知で男の行動を見て、魔法で攻撃すると。


 そして男はその程度では倒すことができないと言っているのだ。


「確かにのう、妾は例え未来を見ても即時に行動できるほど戦闘に慣れておるわけではないが・・・。じゃが、何も方法がないわけじゃない。聖王国の巫女が何故そう呼ばれておるか、今見せてやろう」


「ほう」


 男は関心するように、何をするのか待っている。


 クレアはそれに答えるかのように、詠唱を開始する。


「聖王国の巫女たるクレアが所望す。妾を守る守護よ、今こそ現実に姿を現せ」


 詠唱とはあまりにも短めで、詠唱と呼ぶには自然界の言葉がないことに男は眉を顰め疑問を浮かべる。


 だがそんな男の疑問はすぐに消え、そこに現れた姿に目を大きく見開き、凝視する。


 男の前に姿を現したのはまさに天使。神話に語り継がれる天使そのものが姿を見せる。


 男は驚愕に顔を歪め、小さく口を開く。


「てん・・し、実在すると言うのか」


 男が驚く姿に満足したかの様に、クレアは満面の笑みでそれに答える。


「フハハハハ、これこそが!母様が妾の守り手として、作り出された。守護じゃ!」


 笑うクレアに男は苦渋の表情をする。勝算が一気に崩れた為だ。


 男の能力は一撃に特化したもの。どんな強固な盾すら粉砕すると自負している。そしてその武器も壊れないようかなりの固い鉱物で作られた槍。しかし、この能力の欠点は一点に特化しているため、凡庸性が他の能力者に比べて皆無に等しい。男は焦りの色を濃くする。


 それを見てとって、クレアは笑いを止め。


「安心するがいい、スレイン相手となれば勝敗はわからぬが、この守護相手にいかな能力者でも勝つことは不可能なのだから。なぜならばじゃ。これは黒き者が襲ってきた事を想定して作られた者なのだから」


 事実、ユマはクレアの身を案じ、万が一を想定してこれを作り出した。黒き者が聖王国を憎む者が現れないとは限らない。皆無に等しいのだが、万が一を想定して。ただの親バカの感情で作り出したわけでは多分ない。


「もう終わりにしよう。行け守護よ!男を倒すのじゃ」


 男は驚愕な表情を浮かべ、槍に力を込める。一撃さえ当たれば勝算がある。ただそれだけを信じて槍に能力の全てを込める。守護が男に向かい、綺麗な天使の翼を羽ばたかせながら突進してくる。


 勝負は一瞬だった。


 男の一撃は当たった。にも関わらず、守護はその原型を崩すことなく存在する。守護の能力の一つ、能力解析、更にその力を受け流す能力を保有している事を男は知らない。男は勝利を掴んだ表情が一気に、絶望へと変わり、守護の両腕に抱擁され、全身の骨を砕かれ悲鳴を一瞬上げ、絶命する。


 クレア自身、守護を使う機会はこれが初めてと言える。出したことは幾度かあったが、ユマに黒き者が襲ってくる場合を除いて戦う命令を出すことを禁じられていた。だからこそ、守護がまさかここまで一方的に勝利を収めたことにわずかながら驚く。

 

オーバーロードを読んで聖王国という国が出たことに驚いています。断じて名前はパクッていません。

感想お待ちしています(n‘∀‘)η

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