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黒の王  作者: カキネ
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終編 愚9

 ユマの問いかけに一同沈黙する。もう何が何だかわからなかった。思考が全く追いつかない。だが、そんな思考の坩堝に入る事を許さないかのように、ユマは更に言葉を発する。


「本当は納得して欲しかった・・・。でも無理なら・・・」


 そうユマは言うと、スレインの後ろに視線を送る。スレインにはその意図が当初読めなかった。だがすぐに理解した。その視線の先にはもう一人のユマが視界に入る。それが意味する事は、ユマの言った言葉が真実なのだと物語った。ユマはユマの細胞で作られた存在なのだと。


 後ろにいるユマが小さな物を操作している。そう認識した瞬間、一瞬の歪みが生じる。咄嗟の事で目をつむり開けた時、一同思考が真っ白になる。


 霊廟の中の部屋そこで座っていたはず、だが、今いる場所景色は全く身に覚えなのない世界が広がっている。


 スレイン達が立っている場所は一面の草原だった。建物等周囲にはなくただ広がる草原がそこにはあった。


「ありえ・・・ない」


 アリスがポツリと呟く。


 アリスの言葉はスレイン達の心境を表している。


 動揺し動けないスレイン達を置いていくように状況は刻々と変化する。いつのまにか3人の人物が姿を現す。フードで顔は見えず、男か女か判別もつかない。


 不意にユマは言葉を発する。


「無理ならこうするしか方法がない。動けないようにするだけ殺しはしない。だから・・・、抵抗はしないで」


 その言葉が引き金に、フードの3人がスレイン達に向かって走り武器を抜き去る。


 アリス、マイ、ティラは一斉に武器を抜き、構える。敵意は感じられない。でも武器を持ち向かってくる事を考慮すれば明らかに襲ってくると理解できる。


 スレインも対応しようとした時。


 魔法の光弾が爆発音と同時にスレインの足元に命中する。


「スレイン、あなたの相手は私」


 後ろにいたユマが指を向け、牽制する。


 躊躇している間に、周囲では武器の激突音が広がる。



 マイはクレアを守ろうと、体を前にだし2人のフードの人物と対峙する。

 フードの一人は剣を武器に、もう一人は槍を武器にマイに攻撃を掛けてくる。しかし、クレアに見出されたマイは第六感の力を使わなくても、いとも簡単にそれを弾き飛ばす。金属と金属の激しい音が当たりに響き渡る。


 マイ一人で2人の相手が十分可能だと思った瞬間、マイの鋭い感覚が警告音を発し危険を知らせる。咄嗟に後ろに下がる。攻撃等当たらないはずだった、全ての攻撃を防いでいたはずだった。だが、後方に下がったマイの肩口から熱い物が感じられ、それが痛みと共に切られたことを知らせる。


 マイが肩に視線をやると、薄く切られ血がにじみ出ている。


「避けたはず、だが確かに切られている」


 視認できない理由は2つ。何かの魔法を使われたか。そしてもう一つは、黒の力を使ったかのどちらかだ。そして魔法の流れが感じられない事を考慮すると。


「お前たち黒き者か、私と同じという訳か」


 マイの言葉に反応するかのように、正解だと言わんばかりにフードを脱ぐ。


 剣を持った人物は、黒目の青い髪をした男。そして槍を持っている人物は、黒目の緑色の髪をした男。


 素顔を見てマイは驚く。マイの予想が当たったからではない、男2人の素顔には年齢を感じさせる深い皺が見て取れたからだ。


 マイの驚く姿を気にする素振りも見せず、槍を持つ男は武器を振るう。マイはそれを受け流し、剣を持つ男がその隙を狙い剣を振る。そして先ほどと同じ様に危険を感じ更に後方に下がる。


 ズキッと痛みが走る。


 その痛みを探ると切り傷が腕をわずかにだが切られている。


 攻撃に転じればいいのだが、マイにはそれができない理由が後ろにある。それを守る為には前にでる事を躊躇してしまう。マイにとって後ろにいるクレアはそれほどまでに大事なのだ。


 幾度も同じ光景を繰り返す。それをクレアはただボーッと眺める。


 ジャリッとクレアの横で音がする。ゆっくりとクレアはそれを見ようと首を動かす。


 クレアの視線の先にいるのは今クレアが放心している理由の原因であるユマの姿がそこにある。


「あなたは戦わないの?」


 大好きなユマがそう言う。だけど、大好きなユマがユマじゃないと言われて、突き放されて、クレアには全てがもうどうでもよかった。


「あなたは何のためにここに来たの?助けるためじゃないの?皆必死に戦ってるのに、あなたはそのまま何もしないつもり?」


 クレアには分からなかった。助けるという事は、結論で言えばユマを止めないといけないという事だ。今目の前にいるのがユマ本人ではなくても、ユマ本人が残した物。それを止めるのはユマの想いを壊すということになる。クレアにはその判断ができるわけがない。ユマが生きていた頃、クレアはその言葉こそが正しいと動いてここまで来たのだ。それを止めるということは自分の今まで守って行動してきたことの意味がなくなってしまう。


 ユマは膝を折、放心しているクレアの頬を両手で挟み、厳しい表情を近づける。


 ビクッとクレアは驚く。


 クレアが悪い事したときにみせた厳しい表情が目の前にある。


「クレア!しっかりしなさい!あなたは人を導く聖王国の巫女なのでしょう?そんなあなたがここで放けてて人を導けるの?私をがっかりさせないで頂戴」


 ユマの言葉は、クレアの心に再び火が灯る。


「母様・・・・」


 ニコリとユマは笑む。


「これからはあなたが決め、進むの。助けたいのでしょう?なら動かなくては、そうでしょう?」


 ユマは指を指す。その方向にはマイがクレアを必死に守っている姿がある。


「あなたの大事な子供。私にとってあなたがそうであったように、あなたにとってあの子もそう。子にばかり戦わせてるつもり?さあ、行きなさい。未来を掴むのよ」


 優しくクレアの背中をユマは押す。


 その時、今まで悩んでいたのが一気に吹っ飛ぶ。


 そして、ユマが亡くなる前に最後に託した言葉が思い出される。


 この世界を導いて


 クレアは踏み出す。前に向かって。一歩一歩確実に前に向かって踏み出す。


 もう後ろを振り返らない。


 マイに向かって歩き出す。


オーバーロードの小説買って、読んでいました。遅くなりました。

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