終編 愚8
ユマは不敵な笑みを零す。何故この状況で笑えるのかスレインは不思議だった。だが、アリスはその笑いから自嘲めいた笑みに見えた。どうしてそう思うのかわからないが、アリスにはそう見えた。
それにスレインはクレアのことも気がかりではあった。マイに至っては恨めしそうな目つきでマイを睨んでいる。とてもゆっくり話せる状況ではないと言うのに、アリスは淡々と話す。それにユマも答える。この2人にはまるで今の状況が見えていないかのようだ。スレインがそう思考している間、アリスはアリスでまた必要な情報を聞き出そうと必死なのだ。戸惑っているティラをチラッと見てアリスはユマに視線をすぐ移す。
「さすがね」
ユマが小さな声で言う。
そこに込められたのは関心というよりも、当然そう出ると分かっての言葉に聞こえた。
アリスは片眉を少し上げ、表情を変えずに、ユマが話すのを待つ。
「ティラが死ぬ原因が知りたくてたまらなそうね。そうね、これからなにが起こるかわからないものね。ティラの死の理由は単純、世界を元に戻すため」
その言葉にアリスの目は見開く。
「つまり・・・、ティラを殺して前と同じ世界に戻すということか」
「勘違いししないで欲しい。消えてしまった大陸を世界から取り戻す、そこに人は含まれない。己の過ちから滅んでしまったのだから自業自得。そうでしょう?それに一度失った命は戻ることはない」
周囲に緊張が走る。
スレインにも理解が出来た。ユマは世界を取り戻すためにティラを望んでいるとそう言っているのだ。ティラを視界の端に入れ、身構える。
「私は別に貴方たちと敵対する気はない。これはユマが私達を作った目的の一つなのよ」
「目的だと?一つとは他にもあるのか」
「またユマも人間だったってことよ。兄であるトルンが亡くなったあの時、ユマは自分の死後も考えるようになった。そして人を導いて欲しいという言葉が守れるか、次第に焦り始める。そこからよ、ユマが壊れ始めたのは」
「壊れた?」
アリスが疑問を口に出したとき。
「そうユマは壊れた。今まで保っていた精神が崩壊したの。そこで黒き者を集め、協力な者を魔王に仕立て上げ世界の敵とする。そして、もう片方はユマの後援の元、勇者として魔王と戦う。彼ら彼女らは順々だった。当時のユマは聖母とまで呼ばれているほど、その言葉に例え世界の敵となろうとも理由を聞けば大人しく従ったわ。ユマは魔王側にも簡単に負けないよう援助をし、世界の秩序を維持する。クレアもその一人なのよ」
クレアの肩が震える。
「そんな・・・妾は・・・」
「だけど、クレアは他にない力があった。だから保険としてユマの傍に置き、ユマの死後の世界の監視者として育てる事にした」
「ひどい、同じ人間同士戦わせるなんて・・・」
ティラが手を口で抑え、信じられないとばかりにユマを見る。
「ふふ、そう兄が生きていれば考えもしない事をユマは平然とやり続けた。世界を安定するその為なら手段なんてどうでもよかった。例えば、8武神もユマがその目的の一つとして広めた者。そしてユマは死が近い事を未来を見る事で悟る。その時のユマはもう完全に壊れていた。片方では聖母として、そして片方で兄が眠る霊廟を研究室に造り変え、新たなるユマを創造するシステムを作る。それが私達」
アリスはユマを突き刺さる様に見る。
「作られた理由が世界の秩序の安定と、ティラの死を代償に世界を取り戻す事か」
「そいう事、だから納得して頂戴。ティラが死ねば私達の目的の一つが解決されるのよ」
「ふざけるな!」
スレインは激昂する。
「そんな理由でティラが死ぬ事を納得できると思うのか?世界の安定?大陸を取り戻す?それでティラが死んでいい訳があるわけがない!」
ユマは大きくため息をつく。
「やはり反対されるわよね。だけどアリス、あなたなら理解できるでしょ?」
アリスは一笑に付する。
「理解できんな、過去の人が起こした罪を何故今を生きる人が償わなければならない。ティラに咎があるわけでもなし、全く理解できんな」
ユマは驚く、想像してなかった返答のようだ。
「あら、それが本心?おかしいわね、ユマの魂を持つあなたがそう答えるなんて」
アリスの表情が一気に崩れ、驚愕する。
「な、なに?」
「あら、言ってなかったわね。アリスあなたはユマの生まれ変わり」
「ふざけるな、どこにそんな証拠があるというのだ」
「証拠は、貴方たち3人が揃っているから。レミリアの3つ目の願いは3人一緒にまたいれるようにと願ったからなのよ。それも、いい出会いではなかったでしょうけど」
アリスは動揺する。
「そもそもレミリアが何故そう思ったと思うのだ。根拠がなさすぎる」
「あら、簡単よ。レミリアの亡骸から残留思念を研究したからよ。それこそ時間はたくさんあった。ユマの技術とかつての魔法の融合はそんな事も可能なのよ。さらに言えば、黒き者という協力者も大勢いる」
アリスは次の言葉が出なかった。
「理解できたかしら?」




