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黒の王  作者: カキネ
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終編 愚7

 明らかになる真実。ティラを救えないかとここまで来た。だが、それは思わぬ真実を聞くことになるとは想像だにしなかった。


 スレインはふと気になることがあった。ユマはどうしてそこまで詳しく知っているのだろう。世界崩壊は当事者であるユマは知っているのは当然だが、自分がトルンの生まれ変わりと断定するもの、またティラをレミリアと断定する根拠はどこで見つけたのだろうか。そもそも目の前にいるユマは本当にユマなのか。全てを信じていいのか、スレインは考え込む。


 ユマはそれを見透かしたように、スレインを直視する。目と目が会った瞬間、ユマは優しく微笑む。


 それに気がついただろう、ティラはそれに嫉妬を覚え頬を膨らませる。ユマはティラにも微笑みかけ。


「ふふ、全てを信じろなんて言わない。私は言わなければいけなかった。そして3つ目の願いを言う前に、聞いて欲しい事がある。そしてごめんなさい。私はユマであってユマではない」


 ユマの言葉はどれも驚きの連続であったが、この言葉が一番驚く。特にクレアは瞬きをせず、ユマを見つめ微動だにしない。まるで人形の様に固まってしまう。


 誰もが言葉に出せなかった。


 当然、クレア以外はユマと会った事がないのだ。そしてすでに死んでいるはずのユマが今目の前にいる事は半信半疑でもあった。だがクレアだけはそれを信じて疑わなかった。


 固まるクレアにユマはゆっくりと頬を撫でる。


「ごめんなさい」


 頬を撫でられたクレアは強ばった表情を動かし。


「な、何を言っておるんじゃ、母様は冗談が上手いのう。妾が母様の姿を間違うはずがないじゃろ」


 必死にクレアは動かない顔を笑顔に変える。


 スレインはここで気が付く。


 クレアもまた、ユマが生きている事を完全に信じていた訳ではないのだ。でもクレアは信じるしかなかった。疑ってしまっては全てが壊れるとクレア自身悟っていたのだろう。その証拠にクレアの表情は笑顔とは程遠いのだから。


 ユマは寂しそうにクレアに微笑む。そして頭を撫でながら。


「私は・・・・」


 ユマが言葉を発した瞬間だった。


「言わんでくれ!」


 クレアの大声が部屋中に響き渡る。


「お願いじゃ母様、それ以上言わんでくれ・・・。妾は知りとうない。知りとうないんじゃ・・・」


 クレアは追い縋るようにユマの服をつまみ、大粒の涙を流す。


「お願いじゃ母様」


 クレアの懇願をユマは哀しそうに見つめる。


 マイもまた言葉が見つからなかった。ただクレアを心配そうに見るのが精一杯だった。


 ユマが沈黙を破るように表情を引き締め。


「お願いクレア聞いて頂戴。私はね、あなたの愛したユマではないの」


 ユマの言葉を遮るようにクレアは叫ぶ。


「嫌じゃ!嫌じゃ!聞きとうない!」


 駄々っ子の様に頭を振る。


 ユマは大きく息を吐いて。クレアの腕を振り払う。


 振り払われた勢いでクレアは地面に倒れこむ。それを見てマイはクレアに駆け寄り、支えようとするがクレアは振り払う。尚もユマにすがりつこうと手を伸ばすが、ユマはそれを無視するかの様に、スレイン達に視線を合わせる。


「母様・・・」


 クレアはユマに向かい声を出すが。その声には反応は返ってこなかった。


 その光景にマイはキッと睨みつけ、スレイン達は呆然と見てた。


 あまりの変貌ぶりに対応できなかったというのが本音かもしれない。


 ユマはまるで何事もなかったかのように、淡々と話し出す。その表情にはもう笑顔はなかった。


「私はユマであってユマではない。ユマの遺伝子により生み出された、クローンなのよ」


 クレアがユマの声を阻むように叫ぶが、ユマは言葉を止めない。


 スレインは場が騒然としたのを置いても、ユマの言葉を理解できなかった。


「クローン?それは一体・・・」


 アリスが聞き返す。


「言ったでしょ?魔獣融合の実験をしたと。私はその研究結果から生み出された者。形式番号はYTRー31」


 アリスの質問した返答は余計に理解できない言葉が返ってくる。


「私が言いたいことは、オリジナルのユマではないと理解してもらえればいいわ。あなたたちが疑問に思っているとおり、私は偽物なの」


 スレインたちは冷や汗をかく。雰囲気の変わったユマ、そして偽物という言葉。一気に状況が変わった気がしたからだ。


「偽物は理解した。だがそれが私達となにか関わりがあるというのですか?例え、ユマ様が偽物であろうと、本物であろうとティラが救い出せるのなら」


 アリスもまた冷静に返答する。剣士であるアリスは相手がどう動くのか探りの一手をいれることを熟知しているからだ。激昂させることだけは避けたかった。


 クレアには酷なことをアリスは言っているのは分かっている。クレアのことを考えるなら、話を進めるべきではない。だが状況からそれが許さない。恐らく、目の前のユマは今何かをしようとしている。それが言葉なのか行動なのかわからない。ただユマはまだ重要なことを話してない素振りを見せている。それを聞くまでは事態は動かないはず、そしてそれまでに相手の考えを理解できれば、対応できるとアリスは考えている。


 それにティラを救い出せるのかを聞き出せていない。


 それを聞くまでは動くに動けない。


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