終編 愚5
ユマが語り始める。この世界がどうしてこうなったか、その全てを。
紅茶を一口入れ、少し間を置き。
「私達3人はいつも一緒だった。兄トルンがいて、私がいて、レミリアがいた。兄トルンは魔道士の道を。私は技術者の道を。レミリアも兄に着いていくように魔道士の道に進んだ。トルンは常常、この世界の在りように疑問を思っていた。いずれ問題が起きるだろうとトルンは知っていた。兄トルンは、万が一を考えて一つの計画を建てた」
次の言葉を言わないユマにスレインは不思議そうに見る。
ユマの表情から微笑みは消えていた。その表情は何とも表し難い、表情。
「後悔しているんですね」
クレアがユマに問いかける。
「私も同じく後悔しました。だからわかるんです。ユマ様が今どう思っているかを」
ユマは優しく微笑む。
「ええ、そう。私は後悔している。どうして止められなかったのかと。唯一止めたのがレミリアだった。そうすれば私達は一緒に行けたかもしれないのに。私達の住む国、この今住んでいるあなたたちが大陸だと思っている島は、人と動植物の共存が比較的出来ていた。他国に比べればね。それでもいずれ類に漏れず、滅びの道に向かっていくだろうけど、まだ時間はあったの」
皆が驚く。
「島・・・、今住んでいるこの大陸がですか?」
ユマは静かに頷く。
「かつての世界はこの島よりも、ずっと大きな大陸があったの。それこそ何十倍も大きな大陸がね。だけどこの世界では、この島より大きな島はないから、ここを大陸と呼んでいるけど」
さすがに全員驚きで顔が隠せない。クレアも知らされてないのだろう。驚きの表情を浮かべている。
ユマはそれに構わず話を続ける。
「時間のある私達の国はまだ余裕があった。だけど他国はそうはいかなかった。他国には時間はそう残らされてなかった。そこでトルンはまずは自国を守ろうとした。それが、兄トルンが計画した、召喚術で呼び出した魔獣との融合計画だった。残念な事に、私達の国は国防意識が低かったの。例え国が事実を知って軍事力を上げようとしても民の理解は得られない。私達の国はいつだって他国の出来事は観戦するだけの傍観者だったから。だから兄はその計画を立案した。少数でも戦況を変えられるその力を手に入れるために。私は反対しなかった。反対出来なかった。状況を理解してしまったから。レミリアも当初反対はしなかった」
「レミリアさんは反対してたと聞いていましたが」
スレインがユマに尋ねる。
ユマは自重めいた笑みを零す。
「それはそうよ、だって試験体が兄トルンの体で行われるなんて聞かされてなかったんですもの。私は薄々知っていた。だって兄はそいう人だもの、いつだって自分を犠牲にすればいいと思っている。周りの事なんて考えない」
その言葉はユマの悲痛の叫びに聞こえた。スレイン達の心にもその気持ちが痛いほど伝わる。
誰も次の言葉がでなかった。
ユマは慌てて。
「ごめんなさいね思い出したら、少し取り乱しちゃった」
ユマは表情を笑顔に戻し。
「融合実験、召喚実験を何度も重ねたわ。それは気の遠くなるほどの失敗の連続。とても人間に対して試験できる代物ではなかった。でも、その失敗の副産物としてある物が生まれた。それがあなたたちが良く知っている物」
ユマは全員を見渡す。それは皆に答えを言って欲しいと思っての行動。
沈黙が続き。クレアが肩を落とす。
「なんでわからんかのう。答えはグリモアの書じゃろ。というよりもじゃ、お前たちにもここで出てくる話を前にしたはずじゃがな・・・。いくら過程が違うとは言っても、何故わからんのか」
クレアは呆れた様にぶっきらぼうに話す。
クレアに言われて初めて、皆それに思い当たり、なる程と関心する。
ユマは苦笑しつつ。
「クレアが正解ね。そうグリモアの書よ。本来はグリモアの書を現実世界に召喚する事は不可能だった。近くにあって近くにないものそれがグリモアの書。でも私達はそれを現実に呼び出す事に成功したの。それから実験は魔獣との融合は2の次になり、グリモアの書に希望を見出した。でもそれはすぐに頓挫する事になる」
「何故ですか?」
「グリモアの書は、ただ呼び出すだけでは願いを叶えてくれない。その為には何かが必要だった。でもそれがわからなかった。グリモアの書を調べていくうちに月日が流れ、とうとう世界が混沌とした時。使い方がわかった。それはレミリアの夢がヒントだった。夢でレミリアは良く命を落とす夢を見るというのは知っていた。でも決まって最後には皆笑顔になるという者」
スレイン達はすぐに気が付く。ティラの見た夢ではないか命を落とす所までそっくりだ。だがそれで何故幸せになるのか理解ができない。
「そんなのただの夢ではないですか?まさかそれを信じたというのですか?」
突然スレインが席を立ち、大声を張り上げる。
ユマはまるでスレインがそう出ると分かっていたかのように、平然とする。
「落ち着きなさい、まだ話は終わってない。座りなさい」
だがユマの表情はどこか嬉しそうに頬が緩んでいる。
スレインは我に返り、椅子に座り直す。
「すみません」
「構わないわ、それにさっきも言ったけどそれはヒントに過ぎない。何故私達が確信したのか、それはグリモアの書に接した者もまた夢を見たから。恐らくレミリアと私達、そしてグリモアの書の呼び出し。これは偶然ではない、必然なの。私達がレミリアと全く同じ夢を見る。ただ違うのはレミリアはその夢の意味を理解してなかった事。レミリアの説明は本質ではなかった。夢は実際は誰かの願いを聞き、それを胸に抱き死ぬ事でグリモアの書がその願いを叶え笑顔になるという話」
それに皆は絶句する。
「レミリアはグリモアの書の鍵なのよ、グリモアの書の錠を開けるにはレミリアの魂という鍵が必要。皆はこう思っているでしょうね。どうしてレミリアなのか、どうしてティラなのかと。それはグリモアの書にそう作られたとしか言えない。そしてティラあなたはレミリアの生まれ変わりでもあるのよ」
スレインの表情から血の気が失せる。
「何故ティラの夢にレミリアが出てきたのか、それはグリモアの書がレミリアのかつて在りし頃の姿と記憶で、ティラに伝える為だったのでしょうね。グリモアの書は前回うまく伝えられなかった、だからレミリアの姿でそれを伝えた。まあ、それでもうまく伝わらなかったみたいだけど。あと、夢のレミリアが嬉しそうにティラの死を望んだのか・・・」
ユマは少し躊躇する。ユマも辛いのか少し時間を置いて。
「レミリアはね。最後に死ぬとき、トルンの願いを叶えることなく死んだから。今度は叶えたかったんだと思うわ・・・、だって兄トルンはそれを知って、グリモアの書を使う事をやめたのだから」
うわわわ、1話で真相語るつもりが、3話かかっても終わらない。今日中に終わらせようとしたのに。話ばかりで申し訳ないです。




