終編 愚
4人はその日、聖王国へ泊まる事になった。というのもクレアにとって母なる山に行くということは、大変な難事だったからだ。そもそも祭事以外で行くことは本来禁じられている。それは聖王国の巫女クレアにとっても同じことだった。それほどそこは神聖な場所であり、禁じられた場所。何故クレアがそこまでしてスレイン達を連れて行ってくれるのかわからない。ただスレイン達は感謝するしかない。
ここ聖王国は始まりの地である。災厄後のあの日、絶望した人類をユマが人を導いた土地。
クレアがここに国を建てたのも頷ける。そして国の名前は人を導いたユマ、獣人を導いたガルムが眠っていることから、聖王が眠る国としてクレアが着けたものである。人にとっても、獣人にとってもここは神聖な地として崇められている。それゆえ、1年に1度行われる祭事もクレアにとって失敗できないものであり、人が1年に1度だけ入ることが許されている。
翌日になってもクレアは姿を現さなかった。スレイン達の傍に控えるマイは複雑な表情をしている。恐らく理由を知っているのだ。だがスレイン達はあえて理由を聞かなかった。聞かなくても昨日のクレアの話で大方察しがついてしまった。夕刻になってもクレアは姿を現さなかった。さすがのスレインも申し訳ないと思うがじれったく感じ、焦る気持ちが出始める。
そんな時だった。マイが呼ばれ、戻ってきた時。マイの表情は明るい表情に戻っていたのを見てとって、ようやく許可が下りたことを悟る。
「クレア様が重鎮をやっと説得した、頭の固い重鎮を説得するのは骨が折れただろう。でも明日だ、明日1日だけ入る事が許された」
マイのいつもの陽気な声にスレイン達は気持ちが盛り上がる。
「僕たちの為にクレア様には迷惑かけっぱなしで本当すまない」
マイは急に神妙な顔をして。
「実はな、何故クレア様がお前達をあそこに連れて行く判断をされたのかわからないのだ。クレア様にとっても入って欲しくない場所なんだあそこは」
それは少し意外だった。
昨日のクレアはそんなに嫌な顔をせず、決めたように見えたからだ。
「どうしてクレア様はそんな場所に・・・」
ティラの申し訳なさそうな声が聞こえる。
マイは少し悩む仕草をとり。
「クレア様には内緒だが。ああみえて淋しがり屋なんだ。だけど人を導かなければならない。人には甘えた姿は見せられないんだ。だけど、私やお前達には本当の自分を出せると言っていた。あと・・・」
手招きして、すぐ傍に寄るよう伝える。
「これは独り言でたまたま聞いてしまったんだけど、アリスはどこか母様に似てるって言ってた。もしかしたらそのせいかもしれないな。クレア様はユマ様の頼み断れない人だったらしいから」
アリスはびっくりする。
そんなすごい人と似てると言われて、まさかと驚く。
マイは笑顔で。
「まあ、出発は明日だ。明日の為に今日ははやく寝てくれ。明日は早いぞ、何しろ山登りをしなくちゃいけないし、人の手はほとんど入ってない場所なんだ。唯一人工物があるのが、霊廟なんだ。そこ以外は禁忌として手が入ってない。何しろユマ様の言葉だから入れられないんだ。それに、霊廟すらユマ様がお作りなされた物なんだ。だから、中は誰もわからない」
「えっ、ユマ様眠るときに人は入らなかったの?」
マイは困った顔をして。
「あそこは入れないんだ。術がかけられていて。ユマ様がお眠りなさる時は、迎えの者が来てその人達が連れて行ったらしい」
「迎えの者って・・・、素性の知れない人が連れていったってこと?」
「遺言なんだ。クレア様はユマ様の言葉には逆らえない。だから、大人しく従ったそうだ。でも本音は最後まで一緒にいたかっただろうな」
マイは悲しそうな顔を浮かべる。
だが、マイ意外それは信じられなかった。遺言とはいえ、知らない誰かがユマを埋葬しに来ることを許す、更に中の構造ももしかしたらクレア自身わからない等、想像だにしていなかった。
その日の夜は眠りについた。
明け方早朝、マイに起こされ眠り眼で起き上がる。まだ夜が白み始めたばかりだ。すぐに朝食を取らされ、出発をする。
クレアとマイも同道し街道を馬車で行き、神山の麓で下ろされる。そこから見える光景はまさに人の手が入らぬ山だった。クレアの話では、約4,5時間程登れば着くとの事であったが。ティラの表情からは元気がなくなっていた。
木々が生い茂る道なき道を、切り傷を作りながら進む。2時間ばかり歩いた頃にティラの進む速度が落ちた為、小休止をとることになる。
「なんじゃだらしないのう、それでよく軍属でいられるものじゃ」
クレアの呆れた声がティラの耳に入る。
ティラは頬を膨らませ、クレアがなんで子供の様な体型なのに体力があるのか、納得がいかなかった。
「クレア様その辺で。ところで、昨日少し聞いたのですが、霊廟の中は術がかけられているとか?」
クレアはティラをいじりながら話す。
「そうじゃよ、妾も中は知らぬ。というよりも入れぬのじゃ」
やはりかとスレイン達は思う。
「でも、ユマ様が眠られた時、本当に霊廟に連れていくか不安ではありませんでしたか?」
その事か、とあまり気にもしない表情でいう。
「遺言であったしな、それにもちろん本当に連れて行くのか気になっていた。後を着けたのは言うまでもないし、しっかり霊廟へ連れて行ってたしな」
一同驚く。もちろんクレアとマイを除いてだが。
「霊廟は開いたのですか?」
「うむ、開いたそうじゃ」
「その連れて行った人の素性は気になりませんでしたか?」
「ローブで顔を隠しておったしな、それに後を着いたのは実は妾じゃ。観察する限り、中から出てきた様子もなかったな」
おかしいと思う。それは皆同じだろ。それを守るクレアもそうだが、中を知らないという事が一層、おかしさに拍車がかかる。
小休止を経て、山登りを再開する。時間で言えば5時間というところだろ。
果たして、霊廟の前にたどり着く。麓では気づかなかったが、木々に囲まれた霊廟は異様な程、不自然だった。人の手で作ったにしては精巧すぎたし、今の建築技術で作れる物とも思えない程、しっかりしていた。この世界ではあまりにも不自然な建築物。それをスレインは夢の中の建築物と重ね合わせる。似ているのだ、夢の建物と。形は違えど、建築方法が酷似しているのだ。
しばらく霊廟の前に立ち尽くす。
ここに原因を探るためにやってきた、しかしその異様さで考えは吹っ飛んでしまった。呆然と霊廟を眺めていた時だった。
霊廟のドアらしきものが横にスライドし、開く。
一同、それに驚きのあまり注目する。
暗闇から、誰かが出てくるのが分かった。
それは少しずつ姿が見え、全貌が見える。
ローブを纏った人が出てきた。
「いらっしゃい、お客さんが大勢ね」
女性の声だった。
その声を聞いた時、横目でもクレアがかなり動揺しているのが見て取れた。肩を震わせ、目を丸くする。今にも崩れ落ちそうなほど、膝がガクガクと揺れている。
その出てきた女性は何の返事もしない、スレイン達に顔を見せるためなのだろう。頭にかかっているフードをゆっくりと脱ぐ。
女性の顔がはっきり見えた時だった。
クレアはとうとう支えきれなくなったのか地面に膝を着ける。
そして泣いていた。
まるで子供の様に大粒の涙を流している。
明日からいつ書けるかわからなくなるので、一気に書いちゃいました。拙いところあるかもしれませんが、楽しんでいただけたら幸いです。




