未来3
ティラが落ち着くまでしばらくの間、各々考え込む。それはティラに寄り添うスレインも同じだった。問題の核心の概要が未だ掴めない以上、ティラの説明からなにかきっかけを掴みたかった。皆真剣な表情で考え込むのがスレインには見て取れた。それと同時に皆に感謝する。
恐らくスレイン一人では解決できなかっただろう。だが、皆が付いていれば解決できるかもしれない。
スレインは考える。
何故、ティラは死を感じるのか。そしてクレア様の予言。それに結びつくものは一体なんなのか。
どのくらいの時が流れただろうか。夜は深まり、そろそろ眠らなくては明日に差し支えようというのに誰ひとり、考えるのはやめない。
そんな時だろう。ティラが落ち着き。スレインは腕を離す。
そして皆の顔をひとりずつ確かめるように真剣な眼差しで確認する。
「皆、ごめん。一人で結論だして自分勝手だったよね。アリスには今まで私のわがままに付き合わせてしまって、アリスの性格から内緒にするのは大変だったよね。本当にごめんね。そしてありがとう」
ティラが部屋内に響き通るようにはっきりと声に出す。その表情にはもう迷いがない。
「もう一つ話してないことがある。私はよく夢を見るの。子供の時は、ぼんやりとそして時間が経つごとにはっきりとなっていった。真っ暗な暗闇の中で、私が兄様に救われた夢。だけど私が12歳の時、そうエルフの村で安穏とした日々を暮らしてたとき、兄様に救われた夢の後に必ずでてくるようになった。最初は朧げで、わからなかったけど。次第に鮮明になり、暗闇の中から女の人が出てきて言うの」
「なんて言ったのですか?」
シークはティラに話の続きの催促をするように、口に出す。
「最初は出てきたときは、悲しそうな表情で。あなたはこれでいいの?って。意味がわからなかった」
ティラは頭を振る。
「違う、分かってた。だけど、子供の私になにかできると思えなかった。時間が経つごとに、夢は段々と朧げになっていった。多分私がこのままエルフの村にいれば、夢は終わってたと思う。でも13歳になったとき、久しぶりに夢を見たの。その夢はいつもと違って、まるで今を写している様な夢だった。兄様は平然と行動しているだけの夢。だけどそこにいた兄様は、とても辛そうに見えた。最後にまた彼女が出てきて、また言うの。これでいいの?って」
一同、考え込みながらその話を聞く。
「私はいてもたってもいられなくなり。動き出した。そして兄様と会うことができた。それから兄様と行動する様になり、夢の彼女は嬉しそうな表情で、私に語りかけるの」
ティラは俯く。俯く理由は大体の人には理解できた。そこがティラの死の所以なのだろうと。
アリスが辛そうなティラに「それ以上はもう言わなくていい」と口を開きかけ、すぐに噤む。アリス自身それでは問題の解決に繋がらないとすぐに判断する。
「彼女は、スレインの望みを叶えてあげたい?と聞いてきて。私はそれに頷き、それを見た彼女は本当に嬉しそうに言うの。スレインの望みを抱いて死になさいって」
「なっ!」
一同驚愕する。
「本当は誰の望みでもいいらしいの。だけど私もしらない誰かの為に死にたくないだろうって彼女は言うの。私もそれに同意した。それから夢には彼女がそれをずっと言うようになった。夢だと最初は信じなかったけど、クレア様の話を聞いて。あれは真実なんだと確信してしまった。だから、私は・・・」
「ティラさん、一つ疑問なんですが聞いてもよろしいですか?」
クロノスの質問にティラは頷く。
「その彼女とは一体誰なんですか?姿はどういった感じなんですか?」
「彼女は、兄様と似てる。黒髪と黒目で髪型は私と似てる、ショートカットの女の人。名前をその子に聞いた事があるの。レミリアと名乗っていた。でも彼女はこの姿は朧と同じでかつての記憶の形とも」
「理解が追いつきませんね」
シークは顎をなぞりながらそう言う。
「そんなの無視すればいいんじゃねえか、夢なんだろ?」
グレンの言葉に一同呆れる。
「そうはいかないから悩んでるんだろ!クレア様にもすでに死を予言されているのだから」
アリスの叱責に。
「そうだった、わりい」
バツが悪そうに頭をかく。
「レミリアという子は実在するのですか?実在するのでしたら黒の特徴から見ても、なにかしらの力でそうさせている線もあるのでは?」
「その線もありますね。捜索をさせたほうがよさそうです」
カインの言葉にシークは賛同する。
ティラの話を聞いて、各々の意見を出し。場は先ほどの静けさとは裏腹に活気に満ちる。しかし、スレイン一人だけ意見を出さず、一人考え込む。
アリスはその様子に首を傾げる。スレインならティラの為にと、もっと精力的に動くと思っていたからだ。
「どうした兄さん、そんな深く考え込んで」
アリスに気がついたスレインは難しい顔をしたまま。
「いや、気になることがあるんだ」
「気になること?」
「うん、レミリア。僕はこの名前をどこかで聞いた気がする」
その言葉にアリスは一瞬驚く。
「それは、どこで聞いたんだ?」
「それは・・・、うまく思い出せないんだ」
「まさか兄さんも夢の中で会ったなんて言わないでくれ」
アリスの少し冗談交じりの言葉にスレインの目は見開く。
「そう!それだ。夢なんだ、夢で聞いた。たしか・・・」
アリスの冗談が正解だとは思わず、少し焦りながら追求する。
「兄さんゆっくり思い出してくれ、今重要なのは断片じゃないんだ。正確な情報なんだ」
「わかってる。確かあれは・・・」
スレインは考え込む。アリスはそれを邪魔しないように傍にたち、スレインに助言になることがないか考える。
スレインは次第に夢を思い出す。レミリアと名前を出したのは、あの獣人の様な男。そして、獣人の様な男が名前を言う前、そう帰還するときに見た夢、獣人の様な男が獣人の様な姿になる前に男に止めに入っていたあの子が・・・・。もしかしたらレミリアかもしれない。だとすると・・・。
「どうした、兄さん。顔色がわるいぞ」
「いや、思い出したんだ。もし僕の予想が当たっていたら、レミリアという女の人はすでにこの世にいない」
「なに!この世にいないという事はすでに死んでいるのか?」
アリスの焦った声が木霊する。それに周囲は一斉に視線を2人に向ける。
「レミリアは、亡くなっているんだ。恐らくはかつての災厄で」
スレイン自身半信半疑の言葉を言っているのは重々承知している。だけどティラが見た夢とスレインが見た夢は無関係じゃない気がした。
スレインの言葉は周囲の活気を一気に鎮火させた。




