未来
スレインはアリスから話を聞いてから、翌朝になるまで一睡も眠れなかった。どうしてもっと早く聞き出さなかったのか、何か解決策はあるのか。不安と後悔が波の様に押し寄せてくるのが一番の要因かもしれない。何度目かの身動ぎをして、はたと気が付く。空が白み始めていたのだ。
「朝になってしまったか・・・」
結局の所、今スレインにできる事は話を聞く手段しか解決策を模索する方法がなかった。
だがその前にシークとクロノスに事情を話す必要がある。スレインは王なのだ。本来は責任ある立場の者がまた国を離れるかもしれない事を話す必要があった。
スレインはベッドから起き上がり、身辺の世話をする近侍の者にシークとクロノスが起きたら会議室に呼ぶよう伝え、自分は会議室へ向かい2人が来るのを待つことにした。
早朝にも関わらず、しばらくして2人は姿を現す。
「陛下、ご加減は如何ですか?」
クロノスが挨拶変わりに健康を聞く。横に立つシークはそれを難しい顔で眺めている。数年共にしているシークはこんな朝早くに呼び出されたという意味を重く受け止めているのだ。
「すまない、こんな朝早くに呼び出して。まずは座ってくれ。大事な話がある」
2人は促されるまま、スレインの対面に座る。
そして、先に口を開けたのはシークだった。
「また難題事ですか?」
難しい表情を緩めず、スレインに問う。
スレインは動揺をし、ジワリと汗をかく。シークのこの表情は怒っていると分かっているからだ。クロノスは両者を見て困惑する。
少し間を置いて。
「すまない、2人には留守の間も迷惑をかけっぱなしなのに、また迷惑をかける事になった」
そう言って、スレインは椅子に座りながら頭だけを下げる。それを見て慌てたクロノスはスレインに頭を上げるよう声を掛ける。
「陛下、頭をお上げください。臣下に頭を下げるのは陛下に責があるときだけです。私共は多少忙しくはなっていますが、それは初めからわかっていたことです」
しかしシークは慌てる様子なく、更なる質問をする。
「まずは話を聞いてからです。一体今度は何があったのですか?」
スレインは頭を上げ、シークに視線を合わせ。昨日アリスから聞いた話を2人に話す。そして、国をまた留守にするかもしれない事を説明する。
話を聞いて、狼狽えたのはクロノスだった。
「また国を離れられるのですか?ティラさんの事情はわかりましたが、しかし、陛下には民という子がおります。ここ1ヶ月でかなり問題が山積しています。民を見捨てられるおつもりですか?」
スレインは分かっていたことだが、クロノスに大勢の民ではなく、ティラを優先するのかと直接言われると胸に突き刺さる思いだった。だが、それでもスレインは表情を変えずまた頭を下げる。
クロノスはそれを見て、天を仰ぐように落胆する。
それまで黙っていたシークがため息をつく。
「はぁ・・・、陛下に付いてくると決めてから波乱万丈とは覚悟していましたが、予想よりも上でした」
スレインは申し訳なさそうに頭を更に下げる。
「陛下、今回の問題を片付けたらしばらくは眠る暇もないと思っていてください」
それを聞いてスレインは頭を勢いよく上げ、シークを見る。
「陛下、私もティラさんは大事です。ですがまた民も同じく思っています。しかしながら、ティラさんの問題を片付けないと、陛下は仕事に身が入らないでしょう。ならば結論は自ずとでます」
シークは横にいるクロノスに向き直り。
「こいうお方です。運が悪かったと諦めなさい」
クロノスはしばらく手を組んで考え込み。
諦めたような表情で。
「分かりました、ですが今日の朝議で重大な案件を決め、更に山の様な書類に王印で決済は最低でもしてもらいます。これが私にできる最大の譲歩です」
「すまない、そしてありがとう」
「もう私も吹っ切れました」
シークは苦笑をする。
それから、スレインは休む暇なく動き回る。本当はすぐにでもティラに話を聞きたかったが、落ち着いてから聞く事にした。
時間は流れ、その日の夜、やっとクロノスとシークに許され、スレインは皆と相談することがあると言い。会議室へ仲間を呼ぶ。
仲間を呼んだ理由は、スレインとアリスの知識で解決できない話かもしれないと思ったからだ。それとティラだけを呼ぶとばれると思ったのも一つだった。
次第に仲間は集まり、会議場の席が段々と埋まり始める。




