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黒の王  作者: カキネ
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決心

 衝撃的なアリスの言葉で部屋の中は、沈黙の幕が落ちる。スレインの状況を理解しているのか、アリスは次の句は告げずに静かにスレインの反応を待つ。1分だろうか、10分だろうか、もしかしたら1時間かもしれない。時間の流れが把握できないほど、スレインの頭は一つの言葉だけを繰り返し、流れる。



 沈黙が終わる時、スレインは一つの答えにたどり着く。


「アリス、冗談なんだろう?」


 スレインの淡い期待は簡単に壊される。

 アリスは、頭を横に振りそれを否定したからだ。


「真実だ、兄さん」


 スレインは、手でおでこをさわる。まるで信じられないとばかりに。


「私も何度も何度も考えた、だが答えは変わらなかった。クレア様が嘘をついていないとすると、それは実際未来に起きるのだろう」


 アリスは、ふとスレインの手を見る。顔を覆う手は小刻みに震えている。表情はスレインにしては苦痛を滲ませる表情が伺える。アリスはスレインに伝えればどうなるかは理解してた。だからこそ伝える事が怖かった。だが、今は時間がないのだ。何も知らなければ良かったと何度思ったことか。しかし、知ってしまった、知ってしまった以上アリスの性格からそれは、兄であるスレインに嘘をついている事にほかならなかった。そして獣人国の事件、何故ティラは自ら戦闘を率先して行ったのか、死を告げられている者の行動ではない。つまり、ティラは死を望んていた事になる。理由はわからない。理由はわからないし、スレインに内緒にする意味もわからない、だがこのままではスレインは助ける行動すらできずにティラの死を迎える事になる。それだけは絶対にいけない、それだけはティラに裏切り者と罵られようともしてはいけない。だからこそ、帰還したばかりのスレインに酷な事とわかっていても、伝えることにした。


 アリスは叱責覚悟でこの部屋にきた、スレインに何故内緒にしてたんだと言われるのは想像に難くない。だからこの部屋に来る前に何度も決心を固めて、淡々と冷静に結果だけを伝える様努力した。だが、スレインからそんな叱責はこなかった。それどろこか・・・。


「そうか、そいう事だったのか。すまない辛い役目をさせてしまって」


 先ほどの苦痛で歪んだ表情は消えている。まるで冷静に言葉を話している。アリスにとってそれは、見ているアリスが胸が痛くなる程のアリスに配慮しての嘘だと簡単に分かった。


 思えば兄は子供の時からそうだった。辛い時などそれが顕著に現れている様に思える。なんでもない風を装おい、実際は辛くてたまらないのに助けて欲しいはずなのに、兄はなぜか冷静な振りをする。だから私は、幼い時余計に兄が辛いと思わなかったのかもしれない。力のせいにすることは簡単な事だけど、だけど全てが力のせいではない。何故ならば、幼い時の私は兄をよく観察していたのだから。親よりもはっきりと力の効果が薄かったのだ。それなのに私は兄を助けなかった。ティラに出会わなければ私は今でも、そうだったんじゃないかと思う。それが何よりも怖い、そしてそれが私が自ら化した罪なのだ。


 だけど、私はそれをあえて言わない。


「兄さん、時間はまだあるかもしれない。クレア様ですらここまで読めない未来は初めてだって言ってた。だから・・・」


 スレインは静かに頷く。


「もちろんだ。アリス本当に本当にありがとう」


 スレインはお礼を言い、動き出そうとベッドから起き出す。それをアリスは両手で止める。首を傾げるスレインにアリスは頭を振る。


「兄さん、明日にしよう。今はきっと冷静になれない。少し時間をおこう」


 逸る気持ちがスレインを突き動かす。しかし、アリスに言われた言葉は至極まっとうな事だった。スレインは未だ動揺が激しい。ただ悟られぬように、冷静に会話しているに過ぎないのだから。


「わかった」


 そう言葉を告げるとスレインはベッドに入り直し、布団を被せる。


「アリスも今日は休んでくれ」


 うん、と頷き、アリスは踵を返し部屋を出る。部屋を出る際に。


「おかえり」


 と小さく告げ部屋を後にする。



 アリスを見送った後、スレインは思考をまとめようと頭を働かせる。少しずつ動揺を収めて考えに集中する。今することは、落胆することではない。どうすれば、未来を変えれるかただ一つだ。


 そうして考えをまとめ、結果を導き出す。行き着いた答えは、まずはティラに話を聞くこと。そこに解決策を少しでも導き出す。そして最終的にはクレアに会い、更なる答えを出すこと。ともかく、ティラが何故内緒にしていたかは疑問がつきないが、今は助け出すことに全力を出すだけ。そう結論づけたのだ。そこに力を出し惜しみする考えはなかった。


 そもそも、スレインが力を出し惜しみしている様に思われるが、実際はこれが限界なのだ。幼い時に力の抑制が出来なかった、それはつまり人であるスレインもまた制御できる範囲があり、それ以上の力は制御が不可能になる恐れがある。代表的な例が獣人国の事件で使った力である。あそこにスレインの善悪の判断は関係なく、行使されてしまう。ただ、スレインが獣人王と戦った時に、意識が変わった男の戦い方はほとんど力は使われていなかった。スレインはそこで力の使い方がまだまだ無駄なところが多いと理解させられた。 

本当はここで、ティラと会話するところまで行きたかったのですが、ちょうど区切りいいので、ここで区切らせていただきました。最終までもう少しという所で、無事終わらせれるかなと少し安堵しています。

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