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黒の王  作者: カキネ
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平穏

 幾つかの夜と昼を過ごし、スレインはサイラス国に帰還する。獣人王から派遣された御者に十分なお礼を言い、王都に入るのだった。フードを深くかぶり、いまだ歩くのがおぼつかない足でゆっくりと王城へ着実に歩を進める。王都はかつて獣人国を離れる前と変わることなく、活気とにぎやかさをスレインに見せてくれる。それは同時に帰ってきたことを実感させた。


 王城が目前に迫り、門の守衛が訝しそうにスレインを注視する。多少緊張しながら、守衛の前まで進み自分の顔をそっと見せる。それを数秒だろうか数十秒だろうか、守衛は凝視し、ふと何かに気がついたように開門という合図の声とともに門を開ける作業に入るのだった。


 王城に入城したスレインはすぐさまフードを脱ぎ仲間の元に急ぐ。おぼつかない足がじれったく感じ、周りの人々は驚いた様子でこちらを見ていたが、それも気にせずに急ぐ。真っ先に向かったのはティラの部屋だった。汗が頬を伝、流れてるが、拭くのすら時間がもったいないかのように、流れ落ちる。


 ティラの部屋までたどり着くと、ノックもせず勢いよく開け、中にいるであろうティラを探す。その音に驚いて出てきたのか中から一人の少女が姿を現す。その少女は驚いた表情を浮かべていたが、スレインの顔を見てすぐに満面な笑みになり、スレインを歓迎したのだ。それに安堵したのか、スレインは静かにゆっくりと床に倒れこみ。気を失う。


「兄様!誰か、誰か来て!」


 遠くから声が聞こえた。それに反応しようとするが反応することもできず、意識がなくなる。


 そして、また夢を見た。帰還の途で何度も見た夢。この夢を見る様になったのは、いつからだろう。


 いつも最初は、一人の男が頭を抱えている場面から始まる。否、一人と呼んでいいのかどうか、その姿はあまりにも人からかけ離れていた。二足歩行でありながら、姿は獣の様な龍の様な出で立ちをしているのだ。


「すまない、レミリア。守ると約束したのに・・・・。君を何があっても守ると約束したのに・・・。本当にすまない」


 男は部屋の中で何度も謝罪の言葉を繰り返す。その頬は一筋の涙が流れている。屈強そうな男が涙を流しているのだ。


「グリモアの書に頼ろうとした僕が馬鹿だった、頼らなければ、見つけなければ、今でも君はどこかで生きていたかもしれないのに」


 男の絶望がスレインにひしひしと伝わる。後悔、悲しみ、懺悔、ありとあらゆる感情がスレインに伝わる。この気持ちをスレインはどこかで感じた事がある。だけど思い出すことはできなかった。なおも男は言葉を続ける。


「レミリア・・・。もう少しだけ待っていてくれ。あと少しなんだ。あと少しで僕の役目は終わるんだ。そうしたらレミリア君に会える。君の所に行ける。だから待っていてくれ・・・・。ああ・・・・はやく会いたいよレミリア」


 男は一つの希望を心に秘めていることがスレインに容易に感じる事ができた。だけどそれは、男にとっての希望であり、他者にとってみればそれは希望と言うにはあまりにも違いすぎた。スレインにも希望と呼ぶことはない希望を男は待ち焦がれているのだ。それをスレインはとても悲しく感じた。




「まさか、獣人国へ行かせてしまった事が、こんな事になるとは・・・。私がもう少し準備を念入りにしとけば・・・。はぁ・・・・」


「だから言ったのだ!私も同行すれば良かったのだ。なのに、シークが反対するから!」


「い、いやこの場合よお、結果は変わらなかったんじゃないか。結局ティラが人質にされれば。アリスお前もなにも出来なかったと思うぞ」


「ウグッ」


 ジロリとアリスはグレンを睨めつける。殺気を感じ取ったのか、グレンはすぐに口を閉じ、視線を明後日の方向に向け、吹けもしない口笛を吹こうと口を尖らせている。


 再度シークはため息をつき、口を開ける。


「今回の失態は、ティラさんあなたにあります。もちろん陛下にもありますが・・・。あなたは陛下の弱点でもあることを忘れてもらっては困るのです!」


 強い口調でシークはティラに言葉を発する。その言葉にティラは頭を下げ。


「ごめんなさい。兄様にいいところ見せようと意気込んでしまいました。次からは気をつけます」


「ハァ・・・・。まあ過ぎてしまった事ですし、なんとか解決もした事ですからこれ以上は言いませんけどね。ですが、本当に肝をつぶしましたよ」


「だな、俺も今回ばかりは焦ったぜ。まあ終わりよければなんとやらだ」


 グレンの言葉にシークは眉をピクピクと引きつる。


「ですから、それではダメなんだ・・」


 シークが言い終わる前にアリスが手を突き出し制する。


「待ってくれ、兄さんが目を開ける」


 その言葉に、周囲の人はベッドに寝ているスレインに注目する。


 それと同時にスレインの瞼はゆっくりと開き始め、瞼を完全に開け状況を確認しようと視線を動かす。


「よお、ボスじゃなかった。陛下、起きたか?」


「陛下どこか具合悪いところはないですか?」


「兄さん、体調はどうだ?」


「兄様!」


 スレインの目覚めに皆、一様に声を掛ける。


 スレインはゆっくりと体を起こす。


「皆、心配かけてごめん」


 スレインはそう言葉で返答をする。しかし、皆の表情は驚いた表情を浮かべ微動だにしない。


 首を傾げるスレインに、アリスは小さく声を出す。


「兄さんが涙を・・・・」


 涙?と疑問に思い。自分の頬をさわる。その指先は水で少し濡れたかのように湿り、自分が涙を流している事に初めて気がついた。今まであの頃から流したことのない涙を。




 涙を流したことで多少驚かれもしたが、体は多少辛い程度で、大丈夫という旨を告げると、皆安堵し、今日はゆっくり休ませる事になった。その夜、夢のことが頭から離れず、なかなか寝れないスレインの部屋を静かにコンコンと静かにノックする音が聞こえる。


 こんな夜に誰だろうと疑問に思いつつも。


「どうぞ」


 その声に反応するかのように、ゆっくりとドアが開かれる。


 そこから出てきたのは、アリスだった。


 スレインはアリスだったことにホッと安堵する前に、アリスの表情で嫌な胸騒ぎがした。


「どうしたアリス?」


 そう声を掛けるも、アリスは沈痛な面持ちでスレインの前に着いても、口を開けない。


「なにかあったのか?」


 アリスは頭を横に振る。


 そして数分の沈黙の後、アリスは意を決したように口を開け、言葉を紡ぐのだった。


「兄さん、実は内緒にしていたことがある。ティラには内緒にしてくれと言われていたけど、今回の事でそうもいかなくなった。戴冠式の事を覚えているか?」


 しばらく、スレインは思い出そうと、思考を巡らせ、そしてある事に気が付く。ずっと聞こうと思っていたが、慣れない王の仕事に聞くのを忘れていたある事を。


「クレア様と確かティラとアリスは呼び出され話していたな。その事か?」


 アリスはこくりと頷く。


「教えてくれ、僕も気になっていた。一体クレア様と何を話していたんだ」


 アリスは真剣な表情で。


「クレア様に呼び出され、話したことは・・・。ティラの事なんだ。だけどティラは内緒にしてくれって言ってて。話すに話せなかった。私も呼び出された理由は、クレア様の力。つまり未来に私もそこにいたからなんだ」


 要領がいまいち掴めない、スレインは首を傾げる。


「私も難しい事はわからない。だが、クレア様の見た未来には私とティラがいて…」


 アリスはそこで口を閉ざす。スレインは急がせないよう、落ち着いた様子で次の言葉を待つ。そうしてしばらく経ってアリスが口にした言葉で、スレインは生まれて初めての衝撃が全身に走る。



「クレア様が言った言葉は、正確な月日はわからない。だけどそれはそう遠くない未来に起きるであろうと言われた。そこに私とティラがいて、そして・・・、私は呆然とみていたらしい、ティラが死んだ姿を・・・」


 その言葉にスレインは衝撃と同時に頭が真っ白になり。なにも言葉に出すことが出来なかった。

  


 

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