帰還の途
獣人国での出来事を終え、スレインは帰路に着いていた。ウイドとの戦いで満身創痍のスレインは、しばらく休むようウイドに言われたが、国のことそして仲間の元へ一刻も早く帰る為、それを断る。
しかし、スレインの体はボロボロの状態で立っていることすらやっとだった。ウイドは半ば呆れながらも、それを承諾し、馬車の手はずを整える。そしてスレインは帰還の途へ着く。その翌日にウイドの元に使者が到着、すれ違いの結果となった。
獣人国の道筋をユラユラ馬車に揺らされながら、スレインの意識は心地よさに導かれるように夢の中へと入る。それを邪魔しないよう、御者はただ無言で馬を走らせるのだった。
スレインの意識が深い闇に覆われた時、ある夢を見る。
そこは、現在住んでいる世界とは全くの別世界。今では考えられない進歩を辿る、世界。見たこともない物が置かれ、大きな建物があちこちに建てられていた。だが、そんな発展した世界は、人々の右往左往する様子がちぐはぐに見て取れた。
何故、こんなにも混乱してるのか。
スレインは疑問に思う。しかし、そう思った瞬間場面は切り替わる。
切り替わった瞬間、ここは建物の中だとすぐに理解した。見たこともない物、それに必死に触っている女性、そしてもう一人の女性が、スレインに語りかける。語りかけるというよりも懇願してると言っていいかもしれない。スレインは口を開くこともできず、ただその言葉に耳を傾けるしかなかった。スレインに語りかける女性は、必死に何かを操作している女性にも言葉を投げかける。
「ユラもそれでいいの?それで納得できるの?」
ユラと呼ばれた女性は視線を動かさず、口だけ開ける。
「兄さんが決めたことだ。それに・・・・もう方法がない」
「だけど!それじゃ・・・!」
スレインの体は勝手に動く。そして必死に語りかける女性の肩に手を置き、それに気がついた女性が視線をスレインへと向ける。そしてニコリとスレインは笑顔を向ける。
「大丈夫だよ、必ず守るから」
女性は顔を強ばらせる。
「違う!そんな事言ってるんじゃない!」
スレインは困った顔をしながらもまるで子供をあやすように、笑顔を女性に向ける。
更に訴えかける女性、しかしそこでノイズが走るかのように光景が揺らぎ、一瞬で場面が切り替わる。
その光景は、一言で言えば。絶望の一言だった。先ほどみた発展した世界とは真逆の世界。ただそこにあるのは荒廃した世界。人が住むにはあまりにも不毛な土地。そんな世界が一面に広がっていた。スレインは困惑した。ただ困惑した。あまりにも真逆すぎて困惑するしかなかった。
呆然としているスレインに不意に声が掛けられる。いつのまにいたのか、多分最初からいたのだろう。スレインはそれに気が付く事があまりの衝撃でできなかったのだ。
「失敗しちゃったね」
そうユラは乾いた笑みを浮かべながら言う。その笑顔は笑顔と呼ぶにはあまりにも寂しげな笑顔だった。
「あの子・・・・、あんなに反対してたのに・・・最後はあれを守ろうとして・・・」
スレインの胸に強烈な痛みが走る。それは多分スレインが見ている光景の体の持ち主の痛み。その苦しさ、悲しさが一気に襲いかかる。だが男は表情一つ変えず。
「そうか」
ただ一言だけ言葉を発する。
「本当にいいの?兄さん、あなたに全ての責任を押し付けて?」
男は薄く笑う。
「結果的には僕がこれを招いたんだ」
ユラは悲しそうな表情を浮かべ俯く。
「兄さんは守ろうと頑張ってきたのに・・・」
男はユラの肩に手を掛ける。その手にスレインは驚く。発展した世界での男の腕は普通の人の腕だった。だが、今見た腕には鱗がびっしりと着いていた。
「それに僕はもう人の世界では生きられない。あの力を使おうとした代償なのだから仕方ない。だからユラ、君は人を導いてくれ。僕は新たな人類を導こう」
それに・・・・と間をいれて
「あの力の影響は大きい。どの様な事が今後起きるかわからない。君の先読みの力で残った世界を守ってほしい」
男は肩に掛けた手をユラの頭に置き、頭をグシグシとこね回す。
「ほら、顔を上げて、ユラが悲しそうな顔をすると兄さんも悲しいぞ。ユラにはいつも笑顔が似合う」
ユラは顔を上げる、今にも泣き出しそうな顔を無理やりに笑顔に変えて笑う。
「兄さんともこうして会うこともなくなるんだね。さみしいけどでも頑張る。だから兄さんも・・・・」
男は満面の笑みを浮かべ。
「当たり前だ。お前の兄さんだぞ!まかせとけ!」
2人は別れの笑顔をお互いに向け。ここで、スレインの夢は終わる。
遅くなりました。次はGW予定です。間あきますがよろしくお願いします。




