獣人王 4
かつて一度世界は滅びかけた。言い伝えでは、一人の男の凶行のせいだと言われている。ほとんどの人はこの世から消えた。人だけではない動物、植物、そして大陸すらも世界から消えた。だが、世界の中で1箇所だけ残る大陸があった。そこが唯一生物が生存していた場所。
何故そこだけ残ったのかは正確な所わからない。言い伝えでも諸説あり、男が凶行を実行した大陸で被害が少なかったとか、たまたまそこだけが比較的無事であったとか、様々な噂がある。信頼性的にはかつての人の導き手ユラの言葉、そしてもう一人獣人の導き手ガルムの言葉から、ユラの兄がこの大陸で凶行した場所であり、比較的被害が少なかったというのが有力であった。
世界が変わったあの瞬間、人は異変をきたし、種族特有の黒い特徴は失われれる。それだけではなかった、動物もまた異変を起こす。ほとんどの動物は異形へと変貌するか、今まで存在していた動物ではない動物へと変貌した。だがその中で、動物は人に近い進化を遂げる者がいた。それが獣人である。
変わった世界に呆然とする人を導いたユラという女性がいた。それはいつしか巫女クレアに引き継がれ尊敬を集める国となる。そして獣人にもその存在が実在した、初代獣人王ガルムである。ガルムは獣人を集め国を起こした。しかし、食うわ食われるかの存在同士であった為、当初はそれは難航した。苦難の日々だった、だがそんなガルムにも協力者がいた。それがガルムの意見に賛同する2代目国王になるラパスを筆頭の獣人達であった。
「世界は変革した、ならば私達も変わらねばならない」
これがラパス即位の言葉である。
ラパス含む獣人達の協力もあり国の体を為していく。法を作り、同じ獣人同士の殺生を禁じた。それはいつしか当たり前の様に受けいられ、人と変わらない生活を送るようになる。ガルムの努力が実った瞬間でもあり、ガルムを獣人達が王と認めた瞬間でもあった。
このままうまくいくはずだった。そうガルムは思っていただろう。だが、獣の本質をそう簡単に消すこと等できなかった。そう事件が起きたのだ。
同じ獣人同士の殺生はしなくなっても、見た目が違う人間にはそれは当てはまらなかった。若い獣人達が人の領地に入り、村を襲ったのだ。当然その国の王は怒り、兵を繰り出し戦になる瀬戸際までいった。ガルムは愕然としたが、ガルムが取った行動は、ラパス含め、獣人達への今後の戒めとして十分な行動だった。
ガルムは家臣にこう発言する。
「民が犯した行動の責任は王が取るもの、故に王の死を持って償おう」
そして、ラパスに処刑を頼む。もちろんラパス一同それに反対はするが、ガルムの意思は固く、それを変えることはできなかった。ラパスは何故こんな酷な事を命じるのかと叫んだ、ガルムは真剣な表情で。
「次の王たるお前には命の重さを知ってもらいたい」
それがガルムのラパスへ送る最後の言葉だった。
処刑は執行され、戦は回避された。
そして、ラパスは王へなる時に上記の言葉を言う。その言葉の意味を重さを獣人は理解し、人への接触を断つようになった。獣人国への入国、人の国の入国は厳しい検査が行われる事になる。唯一聖王国だけはガルムの意思を継いで、未だに外交はしている。
ガルムは、獣人でありながら一風変わった姿をしていた。ワニに似た姿をしていたがどこか違う、力は強大でその知識は獣人とは思えない知識を有していた。
いつしか獣人はガルムの事をこう言った。
獣人を超えた存在、龍人と。
ウイドは玉座に座り、目を瞑り、かつての我が獣人の成り立ちの伝承を思い起こしていた。あまりにも偉大な獣人の王ガルムの言い伝えを。
「陛下、使者が参られました」
一人の獣人の兵士がそう伝え、ウイドはゆっくりと目を開ける。
「そうか、やっと来たか。通せ」
兵士は一つ頭を下げ、王の間を出る。
少しして、2人の人が王の間へと入ってきた。
一人はシークだった。そしてもう一人は聖王国のマイだった。2人は中央まで進み、深く頭を下げ、王への礼をとる。
「ウイド王におかれましては、突然の来訪大変失礼かと思いますが、重大なお話があり参りました」
シークのその言葉にウイドは失笑をし、手を振る。
「全て済んだ」
その言葉にシークは目を丸くする。予想はしていたとはいえ、言葉として伝えられると、衝撃が大きかった。
「ウイド王、まさか処刑されたのですか?」
マイが勢いよく言葉を発する。マイ自身シーク程ではないにしろ、衝撃が大きかったし、ティラやアリスに重々頼まれていたため、焦りの為、口を開けたのだ。
ウイドは笑う。口を大きく開け笑う。
その光景に2人は戸惑いを隠せなかった。
ピタッと笑うのを止め。
「何を勘違いしておる。スレインはすでに帰国したぞ。お主達とは行き違いの様だな」
「なっ!獣人の法では他国の者が殺したら死を以て償わせる習わしではございませんでしたか?」
あまりにも簡単に帰国したと伝えられた事にシークは未だに動揺し、信じることができなかった。
「そうじゃな、確かに本来ならそうしなければならない。だが、あの方がスレインを加護するというのならば話は別だ」
2人は何のことか理解できないまま、それを聞こうと口を開けた瞬間。
「全て終わった。スレインは罪を償った。そしてお前達、スレインをしっかり支えてやれ、今回の様な失敗はさせるんじゃないぞ。だが、そのおかげで儂はあの方とお話することができた。失敗ばかりではないか。フフフ」
ウイドが笑い、2人はまったく理解が追いつかず。スレインが釈放された事だけは理解することができた。
「ウイド王感謝します」
シークは深々と頭を下げる。
「よい!もう終わりじゃ。すぐ帰国するがいい」
追い出される様に兵士に退出を促され、シークとマイは王の間を出、帰国の途へ向かう。2人はウイドの話の意味を探ろうと相談したが、結果は理解できないままだった。
回想ばかりです。そして結末があっさりです・・・・。
不完全燃焼の読者さんすみません。




