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黒の王  作者: カキネ
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獣人王

 スレインは手を拘束されたまま闘技場に向かう、向かう為には街の中を歩く必要があった。歩くスレインを獣人の人々が見る視線は好奇心と侮蔑する感情が込められたもの、普通ならそんな衆目に晒され堂々とする者はいない。しかし、スレインは黙々と前を向いて歩く様は一層興味の視線を浴びる事になる。だが仕方ないのだ、獣人の王に罪を決定された以上、手を拘束せずに市街を歩く事は決してできないのだから。


 30分ほど時間を掛けて、目的の闘技場に着く。すでに噂が広まっているのだろうか、獣人が闘技場周辺に詰めかけている。だがそれは当然の事だろう、この国の王の勇姿を見れる瞬間を目撃できるかもしれないのだから。噂を聞きつけたものは我さきにと、闘技場に入っていく。そのためか、入口周辺はごった返し警備の獣人が必死になって仕事をしている。その様子をみながら、関係者しか入れない入口にスレインは誘導され入る。待機室で待つよう兵士に言われ、しばらく待ってやっと兵士に拘束を解かれ、闘技場の中央に連れて行かれた。しばらく待たされた理由はしごく簡単で、王の到着を待っていたのと、観客があまりにも多すぎたため、その整理に時間がかかったのだ。


 スレインが闘技場中央に着いてからはすごかった。観客のやじ、罵倒がスレインに向かって降りかかってきた。表情一つ変わらないスレインにイラだったのか、次第にそれはひどくなる一方であったが、獣人の王ウイドが入場してきた時にピタッととまる。悠然と中央に歩いてくる様はまさに王者の歩だった。観客の声は歓声に変わる。その熱気が伝わって来るほど、観客がウイドに熱中しているのがわかるほどだ。ウイドが中央に着きスレインを見る。


「準備はいいか?」


「いつでもどうぞ」


 ウイドもスレインの様子に、訝しがる。表情を変えずに、まるで慌てる様子も恐怖に震える様子も一切見せない。ウイドとて人間を何度も見ている。大抵、ウイドを見れば恐怖に震えるものだ。だが、目の前の男は、あまりにも感情が見えない。ウイドはスレインに初めて不気味さを感じた。


「そうか、準備がいいなら始めるぞ」


 ウイドは腕を上げる、それが開始の合図なのかそれと同時に鐘が何度も打ち鳴らさられる。

 スレインは注意深く、ウイドの動きを見て対応に動こうとした。だが、開始の鐘が鳴ったと同時にそれはまるでいなかったかのように消えたと思った瞬間、スレインの体がすごい衝撃を感じ、闘技場の壁に勢いよく吹っ飛ぶ。


「うっ・・・」


 すさまじい衝撃音が辺りに響き、その惨状を物語っていた。なにが起きたのか、理解できないまま、周りを見渡す。体は壁にめり込む様にぶつかっていた。そして衝撃を感じた場所は、感覚が感じなかった。どうやら骨が何本も折れている様だった。すぐに治癒をし、前を見る。ウイドは最初に居た場所から、今はスレインが居た場所にいた。腕を上げ、観客の歓声に答えるように。


 おそらくだが、スレインは推測をする。魔法を使った形跡がないということは、単純に走って殴ったということだろうか。しかし、あの巨体でその速さは想定していなかった。それに、スレインは結界を張っていた、多少の攻撃ならびくともしない結界すら軽々と破り、ここまでのダメージを与えてくるとは少々甘く見ていたのも事実だった。考察している間にすでに治癒はおわり、感覚がもどっていた。めり込んだ体を壁から外し、ウイドの元まで歩く。


 スレインの歩く様子を見て歓声は止む、聴こえてくるのは「まさか」「ありえない」「王の攻撃を受けて立つなんて」という驚愕にも似た声だった。黙々と歩くスレインに王もまた多少ながら顔に驚きの様子がみてとれた。


「まさか、人間があれを受けて動けるとはな」


「次はこちらの番ですね」


 会話もほどほどに、スレインは攻撃をする。すでに上空には無数のアイスランスが浮かんでいた。それに攻撃命令を発する。勢いよく氷の槍がウイド目掛けて襲いかかって来る。数だけで言えば、100本近くの氷の槍。地面に次々と激突する音がたえまなく響く、全てのアイスランスが打ち終わった時、その場にウイドの姿は傷一つなく凛然と立っていた。


「甘い、甘いな。その様なバラバラの攻撃、避けてくれと言ってるようなものだ。成程魔法使いか、それもこれほどの魔法を同時に打てるのは見たことないが、力の使い方を知らぬと見える」


 そうウイドは笑みをこぼしながら話、最初の様に姿が消え、スレインの体が吹っ飛ぶ。


「ぐっ」


 あまりの威力に最初の時の様に壁に勢いよくぶつかり、普通の人間なら意識をとうに手放すほどの衝撃を受ける。かなりのダメージを負い、それでも治癒をし、また前に進む。


「この程度では諦めぬか、大した根性だが、いつまで続けられる」


 次にスレインが作り出したのは光の玉だった。200を超える光の玉を作り出し、ウイド目掛けて放つ。速さで言えばアイスランスよりもずっと早い、だがそれすらもウイドは全てを避けきる。まるで全ての動きが見えるかのように、寸前で回避を繰り返し、完全に避けきる。そして次の瞬間には、スレインの体が宙に浮き、壁に激突。


 治癒をし、また歩を進める。その動きにウイドは顎をなでる。


「わからんな、なぜオラルドに使った技を使わん?」


 ウイドの言葉にスレインの歩がとまる。そして、ウイドと視線が合う。


「あれは敵を倒すとかそいうものじゃないんです」


「なに?しかしお前はそれでオラルドを殺めたのだろう?」


「確かにそうです。結果的に周囲にいた獣人を殺めました。ですが、あれは本来は別の用途で使うんですよ」


「どいうことだ?」


「僕は牢にいた時にずっとあれがなんなのか考えました。あれを使ったとき、僕の感情は止められないほど湧き上がりました。周囲にいた獣人だけじゃなく僕はこの国の獣人全てを殺そうとしたんですよ」


「なんだと!しかし、その様な被害は聞いておらんぞ」


「そうです、なので結果的に周囲にいた獣人を殺しただけで終わりました。あれは、敵を倒すとかではなく、対象を選択し、その種を奪う力なんです。だから、獣人全てを僕は憎みました。関係ない獣人をなぜあれほど憎んだのか、ティラが悲しむとわかってなぜ行動しようとしたのか、あくまでも僕の予想ですが」


「馬鹿な!それほどの力だと言うのなら、どうやって止めたと言うのだ?お前の感情を捻じ曲げてまで行使する力をどうやって防いだと言うのか!」


 次の言葉にウイドは戦慄する。


「簡単ですよ。僕の近くにティラがいた。そしてティラが嫌がることは僕はしない。それだけです」


「たったそれだけで、その力を止めたと言うのか。そのティラという人物はなんだ?」


「ティラは僕に初めて人として生きていると実感させてくれた人。だから僕はあの時、誓った。どんなことがあっても、ティラの望む事をしようと」


 淡々と話すスレインに、ウイドは驚愕する。


「狂っておる。種そのものを消し去る力をただ一人の為に止めるなど、人のできる行為ではない。事実、口伝で伝えられた3000年前の出来事は人には止められんかった。今よりも高度に発達していて尚、止められなかったのだ!お前のその力は3000年前とあまにも酷似しすぎておる」


「知っている、僕は狂っているって、こんなの普通じゃないってわかってる。だけど僕はそれでいいんだ。それが僕の全てだ。こんなのティラは望まないのも知っている。だから僕はこれを伝えるつもりもない。僕が勝手に決めたことだから。それにどんな痛みが来ようとも、僕にとってそれはそんなに大事ではない。果たせないことのほうが重要なのだから」


 少し間をあけて。


「だから僕はあなたに勝つ。勝ってサイラスに戻らなければいけない」


 スレインが決して誰にも言わない心の発露をなぜここで言ったのか、仲間が近くにいなかったからか、それともティラが近くにいないからだろうか?それは誰にもわからない

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