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黒の王  作者: カキネ
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獣人王ウイド

 マイを見送った後、城内に戻る途中2人は無言で歩を進める。いつも明るいアリスが静かなのが気になり、ティラは声を掛ける。


「アリスどうしたの?」


「いや、なんというか・・・」


「ん?」


 アリスの挙動不審ともとれる行動に疑問をティラは首を傾げる。アリスは深呼吸を何度も繰り返し、決心が付いたかのように表情を引き締め。


「ティラ、先ほどはありがとう。実はずっと気になっていたんだ。この気持ちは本当に私の気持ちなのかと・・・。兄さんの力を何度も見て、クレア様の話を聞いて疑問は深くなるばかりだった。だけど・・・」


 アリスは深く頭を下げる。


「私はまた迷っていたようだ。だが、ティラの言葉を聞いて、気持ちを固める事ができた。だから言わせてくれ、ありがとう」


 アリスの真摯な態度にティラは慌ててアリスの頭を起こそうと、首を何度も振る。


「そんな、私の方こそごめんね。わかっていた、わかっていたんだ。アリスがどうして兄様をはっきり認識できたのかクレア様の話を聞いてはっきりわかってたのに、ずっと言わなかった。だから、私の方こそごめん」


 ティラもアリスに見習う様に頭を下げる。


「よし、これでお相子だな。この話は終わりにしよう」


 アリスは頭を上げて、ティラの頭も優しく上げさせる。


「実はもう一つ聞きたい事があるんだ」


「なに?」


「シークが話していた、兄さんの行動理由。あれも知っていたのか?」


 ティラは困惑した表情をする。


 そもそも、ティラ自身シークから聞いて内心驚いていたのだ。状況がそれどろころじゃなかった為、深く追求することができなかった。それはアリスも同じなのだろう。


 困惑した表情を浮かばせるティラに言葉を続ける。


「本当にシークが話していたことが事実なら、ティラもそれをわかっていたのなら・・・」


「それは違う!シークの話が事実かどうかはわからないけれど、私はそこまで兄様の行動を左右していたなんてわからなかった。兄様を利用しようとか、そんな事一度だって考えたことない。ただ、一緒に前に進みたかっただけ」


 アリスは頷く。


「すまない、私ははっきりしないといけない性分なんだ。その言葉が聞けて安心した。さあ、兄さんを助けるために急ごう」


 アリスはティラの手を引いて、走り出す。いきなり手を引っ張られ足がもつれそうになりつつも、慌てて走り出す。







 周りが石壁に覆われ、頑丈な鉄門がいくつもある部屋があり、険しい表情の獣人が油断なく警戒をしている。年季がこもった石牢は少しカビ臭く、囚人の部屋は薄い毛布と敷ふとんが置かれていた。


 その石牢の一つにスレインはいた。壁に寄りかかるように座り、じっとしている。

 ここに来て3日程過ぎた。ティラを連れて戻ってきた時、すぐに獣人国へ戻り、オラルドとの出来事を兵に伝え石牢に入れられた。未だスレインの判決はでていない。それと言うのも、獣人王ウイドが領内視察の為、城にいなかったからであった。半信半疑ではあるが、スレインが王と自称し、所持品からサイラス宰相直筆の手紙が見つかった事から、扱いに困りただの囚人の様にするわけにはいかないという考えから判決がでていない。王が帰還し、判決するのを待つことになった。


「おい!出ろ」


 突然牢番から声を掛けられ、視線を向ける。牢番がいそいそと鉄門の鍵を開けていた。ゆっくりと門が大きく開かれ。


「王がご帰還なされた。王のお呼びだ出ろ」


 ゆっくりと腰を上げ、牢番の誘導に従い動き出す。


 そして、しばらく歩くこと15分。サイラスの王宮で見慣れている。王の間とわかる、大きく装飾が施された門が眼前に広がる。今まで偉そうにしていた牢番は、門にいる兵にはへりくだって何事か話して、一人でさっさとどこかへ行ってしまった。それと同時に大きな門は開かれ。


「スレインと申したな、王の御前だ。失礼の無いようにしろよ。さあ、着いてこい」


 門番は中に入り、スレインもそれに従う。中ほどまで来た頃、左右に高価な衣服を身にまとった者、鎧を着たものが綺麗に並んでいるのが見て取れた。この国の重臣であるとまたこれも王であるスレインにはすぐにはわかった。


「跪け」


 門番が小さな声でスレインに言う。門番はすでに跪いていた。それに倣うようにスレインもまた膝をつけようとして、動きを止める。


 僕は一国の王なんだ、僕だけじゃないサイラスの民も屈したと同じなんだ。これだけはできない。


 スレインは膝を曲げようとした足を元に戻す。それに慌てた門番、左右に並ぶ重臣の動揺のざわめきが聞こえる。


「静まれ!」


 その声に周囲のざわめきはピタッと静まる。声の主はスレインの正面に座るオラルドの倍はありそうな、ライオンの姿をした獣人がそこにいた。スレインの視線を感じたのか、またライオンの獣人もスレインに視線を向ける。


「何故、跪かぬ?スレインとやら」


 声は静かにしかし力強くスレインの耳に入る。


「僕はサイラスの王スレイン。王が王に膝を曲げる時は、負けた時だけだ」


「クハハハハッ、成程な。確かにそうだ。だが、スレインお前は罪を犯した。それはどうする気だ?」


 右に並んでいる武官の一人が、声を上げる。


「誠に王か、どうせ犯罪をなくしてもらおうと語る偽物であろう」


 ウイドは呆れる。武官故かもしれないが、これほど黒い特徴の王が1年前に起ったと噂されているのに、それすらも調べていないとは・・・。


「王と儂は確信しておる。でなければ我が国でならず者とは言え、強さだけなら儂に次ぐオラルドだ、それを倒す実力、調べた通りだ。ガハラドお前は力に偏りすぎている。もっと情報を大事にしろ」


 ガハラドと呼ばれた武官は、逆に叱られて肩を落とす。


「で、先ほどの質問はどうする?」


「罪は償おう、だが膝は曲げない。これが答えだ」


 ウイドは顎をなで、満足そうに笑顔で頷く。


「そうか、ならば罪を償ってもらおう。お前の罪は儂との勝負よ」


 それに文官、武官がぎょっと驚く。スレインもまた目を見開く。


「以外か?だがこれはお主の処刑も同意義よ。誠、噂どおりの強さか、確かめさせてもらおう」


「しかし、ウイド王よあなたと戦う理由がない」


「ふはははは、戦う理由ならあるさ。儂が武神の一人3番目だとしたらどうする?」


「王であるあなたが武神・・・」


「王になる前の若い頃にな、血気盛んであった。いつのまにかそう呼ばれておった。獣人は力を重視する。王となるのも理解できよう」


「王よ、万が一王の身になにかあったら」


 文官の一人が恐る恐る、諫言する。


「その時はその時だ、しかし儂は老いたりといえど負けはせぬ。それにな、楽しみなのだ。本気で戦えるかもしれない、いつ以来ぶりかの。心が躍るわ」


 スレインは頭の中で思考を繰り返し、何度も自分に疑問を投げかけるが、この話に乗るという結果に行き着く。しかし、またこれで罪を償えるのかとも悩む。


 そんなスレインの思考を読んだのか。


「オラルドの事は残念ではあったが、奴は力に欲に溺れた。このままいけば儂自ら対処しなければいけなかったかもしれない。これは自業自得だ。だが、スレインお前も過剰な防衛で、多くの獣人を殺めたのも事実、ならば罪は償わなければいけない」


 おおらかな笑顔を浮かべていたウイドは真剣な表情で、スレインに語る。それにスレインも理解し、頷く。


「わかりました、それで罪の償いとします」


 スレインの返事を聞き、またすぐに笑顔になり、何度も頷き。


「よしよし、我が国では闘技場なる物がある。そこでやろう」


 ウイドとスレインは決闘で全てを終わらせる事にした。スレインは拘束されて、闘技場まで進むのであった。

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