呪い
マイは会議場を出てクロノスに使っていいと言われた部屋にティラとアリスを連れて入る。その部屋は何の変哲もない休憩場だった。ソファーと机があり、飲み物が入った瓶が置かれている。マイは少し部屋を眺め、2人をソファーに座るよう促す。
「さあ、座って座って」
促されるまま、ソファーに腰を掛け、マイも2人の反対側に座る。笑顔のままのマイにアリスはすぐに本題を聞こうと口を開ける。
「話ってなんですか?今はこんな事してる場合じゃない!兄さんが大変な時なんです。話を聞いていたあなたならわかるはず」
「わかってるよ、だけどさ。今話さないといつ話せるかわからないじゃん。まあ、少し我慢してよ」
笑顔を崩さずそれに答える。
「ティラとアリスって名前でいいんだよね?」
「そうですけど」
「アリスもさっき言ったけどさ、兄さんが心配だよね?」
その言葉にアリスは怒りを感じ、席を立とうと腰を浮かせる。それを横にいたティラが手で押しとどめる。
「ティラなぜ止める!」
「今は話を聞きましょう?急ぐのわかるけど、兄様の事を思うのなら、話を聞かなきゃ」
そこで、アリスは思い出す。聖王国への要請の代わりにマイの話を聞くことになった事を。
不満下な顔を隠さず、アリスはソファーに再度座り直す。
「で、話の続きなんだけど、どうしてそう思うの?」
マイの言葉に再度怒りを覚えるが、グッと堪えてそれに答える。
「兄を心配してどこに不思議がある?」
マイはそれを笑う。声には出さないが表情は笑顔そのものだ。
「それはおかしいよね?だって、あなた子供の時、スレインの事、兄だなんて思っていなかったんでしょ?話したこともない兄と思ってもいなかったのを、どうしてそんな気持ちになるのかな?不思議じゃない?」
「うっ・・・・」
アリスは言葉に詰まる。
「普通、そんな相手をわざわざ探して追いかけて兄と慕うことあるのかな?」
アリスの動揺する姿を楽しむ様に、マイは眺める。
「実はさ、私わかるんだよね、そいう事もさ。ほとんど残滓しか残ってないけど、アリスとティラにはなにかされた形跡があるんだよね。それは、根源に近いもの」
それにアリスはハッと何かに気づき顔を歪める。
「まさか、兄さんが・・・・」
「フフ、多分ね。その能力の効果は知らないけど、あんたたち2人みてたら、大体どんな効果かわかる。それはもう呪いだね。兄を慕わずにおれない呪い」
アリスは肩を震わせる。そこにあるのは深い悲しみだった。
「何故兄さんがそんなことを・・・・」
信じたくない気持ちと、マイの言ってることが真実だと思う気持ちがせめぎあう。
「わかってよかったじゃない、真実がわかれば道を変えられるさ。ティラは・・・・」
マイは視線をティラに向けた瞬間、笑顔が固まる。その視線の先には、ティラが動じもせず、マイをまっすぐに見つめる真剣な表情があった。
「なっ・・・」
動揺するマイを尻目に、ティラが口を開ける。
「あなたが言いたいことはそんな事なんですか?」
ティラの冷たい冷静な声が響く。
「私はただ・・・・」
「あなたの言葉はそれだけなんですか?そんな事、クレア様から聞いた時から気づいていました」
アリスはその言葉に、ティラを恐る恐る見る。
ティラは横目でそれを見て。
「アリスごめんね」
謝罪の言葉を告げる。そしてそのまま話を続ける。
「確かに兄様から力を授かりました。私はそんな力があるとも知らずに、村を離れるときに、アリスに心の底から兄様の事を訴えました。結果、アリスは兄様をはっきりと認識することができるようになりました」
アリスは驚愕の表情を浮かべる。
「まさか、あの時の緑の髪の女の子は・・・」
ティラは頷く。
「そして私は、村を離れ、エルフの隠れ里を・・・」
ティラを首を振る。
「なんの宛も目的もない旅をして、偶然にもエルフの隠れ里を見つけることができた。その旅は、安全そのもの、怪物なんてみかけなかった。食料ですら、お腹がすいたら偶然見つける事ができた」
ティラは涙を堪えるよう顔を強ばらせる。
「エルフの隠れ里では、偶然にも私の父の母親がいて、平穏無事な生活を送ることができた。兄様の事すら忘れて幸せにくらしていた時期すらあった。だけど、外の世界を詳しく知っていくうちに、そんな事ありえないんだってわかった」
とうとう涙がスーッと頬を伝う。
「私は兄様に護られていた。はっきりと認識できていたわけではないけど、そう実感できた。だから次は私が助けなきゃと思った」
涙を流しながら、マイを睨む。
「兄様を慕うこの気持ちは私の気持ち!アリスが決断して行動して探したのは、アリスの気持ち!絶対に呪いなんかじゃない!兄様は絶対にそんな事しない」
息を乱しながら、ティラは強くはっきりと言葉にする。
そんなティラをアリスは、肩を抱えて。
「もうわかったから、わかったから」
ティラはアリスの胸に埋めて泣く。それをアリスは優しく受け止める。
「すまない」
そんな2人にマイの方から声がかかる。
驚いて2人はマイに視線を向ける。
「私は、能力の使い方を誤った。善行をしている気でいた。傷つけてしまって申し訳ない」
しょんぼりとしたマイの姿がそこにはあった。先ほどまでの笑顔の姿はどこにもなかった。
「嬉しそうに話していたようだが・・・」
「私は、教えるのが好きなんだ、どうしても笑顔になってしまう」
その言葉に2人は呆れるやら、どうしていいのかわからず、視線を交わし、お互い笑い合う。
笑う2人に更に体を小さくするマイ。
さっきまでの感情は笑い声とともに消えていった。
そして、少し談笑し、すっかり仲良くなり、マイは聖王国へ戻っていった。
少し忘れてしまって、ここもう少し書く事あったんですが・・・。
獣人編終われば予定では、終編になるかとおもいます。
ここまで見切り発車で書いた作品を読んでくださりありがとうございます。
もう少しお付き合いくださるようおねがいします。




