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黒の王  作者: カキネ
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依存

 ティラの告白に皆が騒然となる議場、それも当然の事であると言えば当然だった。他国の人間を自国の者、それも王が殺したとなれば、国際問題になるのは明らかだった。あくまでも相手の了承を得て、同意の元で行われるのがいつもの行動であった。確かに同意は得た、しかし、死者を出すとなると別問題に発展する。シークやクロノスはスレインを信じていた、簡単に人を殺す事をしない人だと、だからこそ送り出したのだ。ただ一つ忘れていたことがあった。クロノスにはわからない、シークやグレン等しか知らない黒の砦の仲間時代の者しか知らない事。


 その事をシークは失念していたといえる。その事をクロノスに伝えるのを忘れていたのだ。ここ1年、忙しさに忙殺されていた、それはティラもスレインも同義だった。それ故に、あの頃ほど2人は接触していなかった。スレインとティラ、いやスレインの問題。


「私がもう少し慎重に物事を考えていれば・・・。わかっていた、重々わかっていたことなのに、すみません、今回は私の失態でもあるのです」


 シークはそう言って席を立ち、深々と頭を下げる。その光景を目撃して、悟る者もいる。

 アリスとレオンはその意図を読み取り、神妙な表情を浮かばせる。グレンは少し驚いているだけだったが。

 

「説明をいいですか?どうしてこうなったのかを?私にはわからないのですよ、あれほど感情を表さない陛下が、どうしてこんな行動にでたのか」


 クロノスは真剣な表情でシークに視線を映す。その表情は普段な温厚な宰相とは思わせない、厳しく、問いただしているように見えた。

 一瞬、シークはその視線に動揺するが、すぐ表情を引き締めまっすぐクロノスを見つめる。


「実は、一つだけ重要な事を宰相閣下に伝えてなかったことがあるのです。いえ、一番重要な事を伝えてなかったのです。それは・・・」


 シークは視線をティラに移動して、少し躊躇う。ティラにこの事を聞かせて傷つけないか、少し悩む素振りを見せる。


「大丈夫、今は事実だけを伝えてください」


 ティラがそうシークに語りかける。マイに詰め寄られていた動揺は、いまはないように強く発言する。シークは軽く頷き、視線を戻す。


「実はティラさんと陛下は兄妹ではないのです。ですが、過去に色々あり、兄妹の様に振舞っています」


 クロノスは真剣な表情を崩さず。


「それはすでに聞いていますが、今回の事と何か関係があるのですか?」


「ええ、その過去の事が問題なんです。宰相閣下が見てきた1年と私たちが過ごした数年はまったくの別物なのです。陛下はいつも表情を出さない方、ただ例外があるのです」


 クロノスは眉を潜める。


「例外ですか?確かにティラさんを騙し討ちの様に捕らえ傷つけた事は許しがたい事です。しかし、殺意を持つほどとは思えない。現に、獣人のオラルドは殺す気で捕らえたわけではなかった。こちらを脅すことが主目的だったはず。それは陛下にも理解できないはずがない」


「確かに相手の目的はそうでした。陛下も理解していたでしょうね。だが、そこにティラさんの意思は含まれていなかったことが問題であり例外に当てはまるのです」


「意思?」


 シークは頷く。


「意思です。陛下はここまでの目的をティラさんの意思一つで遂行していると言えるでしょう。それは依存に近いものです。そこで過去がでてきます。過去に陛下はいつも一人でした。ただ一人だけ近寄り寄り添ってくれたのが、ティラさんなのです。そのティラさんの言葉や意思を陛下は尊重します。誰よりも」


 クロノスは悩む様に手を口に当てる。視線は見つめたままで。


「では今回の場合、ティラさんは自分で戦うと言いました。それはティラさんの意思なのです。だから陛下はしぶしぶですが従った。しかしながら、罠にかけられ捕らえられた事にティラさんの意思は含まれていたかが問題なのです」


「お、おい、まさか。ティラが捕まっただけで、スレ・・・陛下がオラルドを殺すのを決断したのか」


 グレンの驚きの声にただただシークは頷く。


「私も最初は気づきませんでしたが、陛下の行動は全て、ティラさんの意思で決められているのです。では、オラルドとの件はどうでしょう。罠に掛けられる事を了承したでしょうか?罠にかけられ傷つけていいとティラさんは言ったでしょうか?言うわけがない、それどころか、悲しんだはず。陛下がなぶり殺しにされる様を見て、ひどく悲しんだはずだ」


「成程、意思か。つまりは陛下はティラの意思を捻じ曲げる獣人達を許せなかった訳だ」


「多分ですが、そうでしょうね。そしてそれが、怒りへと変わり、殺意となった。今回のことで、私が最初に言わなければいけなかったことがそこです。陛下が例え殺されようともティラさんがそれを強く望むなら、甘んじて受け入れる。その逆も然りです。最初はティラさんを蔑ろにしたら陛下が怒るか恐怖ではありましたが、陛下は黒の砦で私たちを叱った事など1度もなかった。だが、ティラさんが当初強く望んだ事は、例えティラさんと言えど、簡単に壊せない。それが今も最強を目指している理由なのですよ」


 クロノスは視線を落とし、しばらく悩む。そこには沈黙が広がった。


「分かりました、大体の事情は。ただ陛下は我が国の大事な王です。今は陛下を何とか獣人国から連れ戻さなければならない。マイさん我が国の状況を視察しに来ただけなのに、この様な事を頼むのは恐縮なのですが、聖王国への助成を頼みたい」


 マイは満面の笑みで、それに大きく頷き同意する。

 クロノスはホッと安堵する。


「ただし、一つお願い聞いてもらっていいかな?」


「何でしょう?」


「そこの2人の女性と話がしたいんだ。いいかな?」


 クロノスは悩む仕草も見せず。


「わかりました、ですがあまり長時間はティラさんのお体に障るので」


「りょーかい、じゃ少し別室借りるよ」


 クロノスは頷き。それを確認して、マイはティラとアリスを誘導して部屋をでる。


「シーク、我が国も陛下救出の為に動きます。作戦を考えましょう」


「わかりました。万が一の事もあるので、グレンさんも一緒にいてもらいます」


「お、おれもか?」


「戦になる可能性もあります。軍事責任者も作戦に加わってもらいます」


 グレンは会議場に長時間いて、へとへとだった。疲れた顔でしぶしぶ同意する。

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