罪
意識が少しずつ覚醒する、だんだん思考がはっきりしてくると並行して、瞼をゆっくり開ける。ぼやけた視界が頭の中に入ってくる。視界がはっきりしてくると、そこが毎日見慣れた風景の自分の部屋だとすぐにわかった。体を起こそうとすると、鉛の様に重く感じた。ひどく体がだるい、そう考えていたとき不意に声を掛けられる。
「ああ、目を開けた。体は大丈夫ですか?どこか痛いところは?」
その声のする方に視線をやると、ベッドの横で心配そうにしているレナがそこにいた。
「レナ?私、いつのまに部屋で寝てたのかな?」
ティラの質問にレナは驚いた表情を一瞬みせるが、すぐに優しい表情になる。
「覚えていないのですか?陛下とガルム国へ向かった事を?」
「ガルム国?」
その言葉を発した瞬間、だんだんとティラの記憶が蘇る。
ティラは慌てて横にいるレナに聞く。
「兄様は無事ですか?ガルム国はどうなったのですか?」
「陛下はご無事です。ガルム国も・・・、戦った相手以外はご無事ですよ」
少し安堵し、ベッドから体を起こし、立ち上がる。
「レナ、兄様は今はどこ?」
レナは表情を曇らせる。それにティラは首を傾げる。
「クロノス様から、目を覚ましたら会議場に来るように言われています」
「兄様もそこにいるのね、わかった行きましょう」
レナの先導の元、後ろに着いていく。体が非常に怠く着いていくのがやっとだ。これの理由ははっきりした。それはオラルドとの出来事が原因だ。戦いの疲労もあるが一番は、自傷の治癒が原因だろ。スレインの治癒は万能に見えて万能ではない、治癒には対象にもそれなりの負荷がかかる。その結果、傷次第ではまともに体を動かすのも辛く感じるのだ。それ故、高齢の者には負担がでかすぎるというデメリットもある。帝国の皇帝の治癒が失敗するかもという予想はこれが原因だった。
会議場まで何とか歩き、目の前まで来た時、会議場が騒がしい事に気が付く。
レナがノックをし、中の声が止み、ドアが開けられる。ドアを開けたシークが来訪者の顔を確認し、中に誘導する。ティラの表情が辛そうに感じ取ったのか、すぐに席に座るよう促す。促されるまま、席に座り周囲を確認する。主要メンバーがいるという形だ。ただ、そこにスレインの姿は確認されなかった。
皆の視線がティラに集中しているのが感じ取れた。そこにスレインがいないことがより一層息苦しい。静寂を破るように、クロノスが口を開ける。
「ティラさん、体は辛いと思います、ですが国の重大事なんです。少し我慢してくれますか?」
いつものクロノスの柔らかい話し方ではなく、真剣な表情に、ティラはただただ頷く。クロノスはそれを見てとって続ける。
「ティラさん、あなたを陛下が連れて戻って来たとき、陛下はガルム国で罪を犯したと、それだけ言って陛下は戻ってしまわれたのです。事情を詳しく聞かせてもらえないでしょうか?」
クロノスの言葉を聞き、ティラは目を見開く。
「ティラさん、お願いします。対処しようにも、事情がわからないので対処の仕様がないのです」
クロノスはティラの驚きなど意にも介さない様に尚も聞く。
「わ・・・私が」
その言葉に周囲の注目が一層集まる。その注目に冷や汗がでるが、唾を飲み込み、決心をしてあの出来事を話す。自分が先に戦うと言った事、罠にかけられた事。そして、ティラを助けようとして誤って殺めてしまった事。
「私がいけないんです、調子に乗って兄様が見てるからと私が戦いたいなんて言ったから」
クロノスは「なるほど」と呟き。考える仕草を取る。
周囲の皆もティラの言葉を聞き、思考を始めようとしていた時だった。
「嘘をついているね」
ティラの胸がドクンとはねる。不意に声が掛けられる。皆の視線がそこに集まる。
視線の先には、黒髪、赤い目をした、大和撫子とも言っても過言でなはない綺麗な女性が窓際に寄りかかって立っていた。服装は見た目に反して、冒険者が着るといった動きやすそうな服装がまたその女性を際立たせている。
「マイさん!何故ここに?客室にいるはずでは?」
クロノスが慌てたように、その女性に声を掛ける。
マイと呼ばれた女性は悪びれもせず、平然と表情も変えず立っている。
「嘘って、私が嘘を言っているということ?それよりもあなたは誰ですか?」
「私か?私は、聖王国の巫女に飼われてる者さ。今日は使者としてやってきたんだが、なんだかめんどうなことになってるから覗きに来たってわけさ」
「いくら聖王国の使者と言えど、国事に口を挟んでもらっては困るのですが」
クロノスがマイを追い出すように声を荒らげて話すのを、マイは手を前に出し手を振る。
「サイラスだけじゃ方が付きそうにないんじゃないの?聖王国も力もなれるかもしれないよ?」
マイの言葉にクロノスは図星を突かれたかのように、口を噤む。
ゆっくりとティラの元まで歩き、顔を近づけ。
「私はさ、わかるんだよ、根源っていうのだっけ?それで嘘をついているかどうかをさ。第六感って言うのかな?集中すると、なんとなくわかる。戦闘にもつかえるし、色々な場面で使えるのさ。今じゃ、私は黒い特徴の探索任されているんだけどね」
そして更に顔をティラの顔に近づける。
「で、なんであんた嘘をついたの?誤って殺めたなんて嘘ついたのさ」
ティラは視線が泳ぎ動揺している様が見て取れる。周囲の者も驚愕の表情を浮かべる。それはスレインの事がわかる者にとっては、当然の驚きだった。
「まさか・・・、兄さんが故意に殺したというのか!」
アリスはとても信じられないとばかりに、声を荒げる。その声に動じてないかのように。
「私が知るわけないじゃない。ただ嘘をついているしかわからないんだから。でさ、本当はどうなのさ」
マイは興味津々とばかりに、なおもティラに尋ねる。ティラは天井を見上げ、逡巡し、隠せないと理解し、それに頷き、本当の事を話す。ティラ自身、まだ信じられないのかもしれない、怒りに満ちた表情、人を殺す事になんのためらいもなかったスレインに。だから、隠してしまったのかもしれない。
「そんな・・・・」
アリスはティラの言葉を信じられないように動揺する。スレインは人を殺すことを、忌避している。それはスレインと共に歩んできた者なら分かる。共に歩んできた仲間は一概に動揺を隠せない。マイだけは、楽しい事を見つけたかのように、目を輝かせている。
遅くなりました。遅筆ですが、これからもご愛読の程よろしくお願いします。




