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黒の王  作者: カキネ
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根源2

 僕のせいだ、僕が油断さえしなければ、ティラが捕まることはなかった。

 

 どうすればいい、どうすればティラを助ける事ができる。


 そう思考している中、オラルドは条件を提示してくれた。


 それを飲んではいけないと分かっていても、ティラの安全には変えられないとすぐに決断する。答えを出し、獣人達が下卑た笑みを零し、次には僕を攻撃してくる。その意図はすぐ理解できた。レオンを下している現在、僕を倒せばオラルドは武神の中で5番目になることができるだろう。


 それは僕にとってたやすいことだ。


 今負けても、次で勝てばいいのだから。僕にとって優先されることは、ティラの無事とティラの願いを叶えることだけなのだから。獣人達の攻撃は休むことなく続けられ、今なおスレインの体に痛々しいまでの傷をつけている。そんな中、スレインは思考を繰り返す、必ず約束を守ってくれるのかの一点のみに脳を働かせる。


 獣人達に視線をやると、かなり苛立っているようだった。どうやら悲鳴を上げないことが面白くないらしい。体に力が入らず、崩れ落ちる僕の体を何度も踏みつけてくる。崩れ落ちる瞬間、ティラの表情が少し見えた。放心しているかのように、視線が定まってない。


 何故ティラにあんな顔をさせているんだろう?僕はティラの為に、頑張るって誓ったんじゃないのか?ティラの願いを叶える為に、動いてきたんじゃないのか?どうして、どうして、僕がもっとしっかりしていれば、僕は僕が許せない。


 それ以上に、ティラにあんな顔をさせた獣人が憎い。


 一度、そう思ったら憎しみが頭の中で少しずつ広がっていくのが感じる。すぐにその感情を消そうとする。今することは、ティラを助けることだ。感情に溺れることじゃないと必死に感情を抑える。

 その時に、獣人の一人が強く僕のお腹を蹴り上げる。体に力が入らず、木に勢いよくぶつかり、ズルズルと落ちるのを感じた。感覚はほとんどもうないようだ。だけど、そんな事は意識の外にやる。


 オラルドと獣人が何かを話している、それにティラが焦るように口を開ける。


 ティラの悲痛とも言える言葉、そして諦めたかのような言葉。


 「何を言っているんだ、僕がそんな事させるわけないだろ」小さく呟く。


 安心させる為に、いつもティラやアリスが笑ってくれる僕の笑顔を見せる。感覚がほとんど感じない中での笑顔、しっかりできていただろうか。


 ティラの悲痛な叫びが、スレインに抑えていた感情を再燃させる。

 

 あんな事を言わせるなんて、兄として失格じゃないか。


 あんな事を言わせる獣人が許せない。


 憎しみが、抑えられないほど爆発する。今や、スレインの思考は獣人への怒りで満ち満ちている。かろうじて、ティラの安否の為、それを発散させないようせき止めるのが精一杯な状態だった。


 だが、そんな努力もむなしく、次の瞬間もろくも崩れ去る。あろうことか獣人オラルドは、ティラの頬に深い傷を作る。感情のうねりは、スレインを突き動かす。


 憎い、憎い、憎い、憎い、獣人が憎い。


 感情とともに、スレインの力もまた際限なく、溢れ傷をまたたくまに癒す。感情に支配され、それに委ね、解き放つ。


 それは全てを奪う闇を生む。闇は意思を持つかのように狙いを定め、その対象に慈悲なき断罪を下す。それが、今まで感情を抑圧してきたスレインが、感情を解き放った、最初の根源の力だった。 


 感情に支配されたスレインは、妙な心地良さを感じる。その流れに乗るかのように、対象を喰らい尽くした闇は、動きを変え始める。闇は、大きく広がる。

 どんどん闇が広がり、獣人国全土を覆い尽くす。


 獣人は敵だ!滅ぼさないといけない。


 それが感情を埋め尽くす。感情に比例するかのように闇もまたそれにあわせるかのように、動いているのを実感できた。全土を覆う闇が、ゆっくりと瞳を開ける。


「兄様!それはやってはいけない!してはいけないこと!」


 不意に心地良さに身を委ねるスレインに声がかかり、闇もまた動きを止める。

 視線を声のする方に向ける。未だ、体が麻痺をしている体でティラは訴えかけていた。


「元の兄様に戻って!」


 スレインはそれを一瞥し、感情にまた身を委ねる。闇も瞳を開け始める。


 ティラは逡巡する、今の兄様は正気ではないと理解して、少しだけ麻痺が解け始めた右腕を動かし、地面に落ちている愛用の剣を必死に掴む。


 闇が完全に開きかけるのにもう幾ばくもないその瞬間、ティラは大きく叫ぶ。


「私は、今の兄様は嫌いです。もしそれをするのなら、私は・・・。好きだったままの兄様の姿のまま、私はここで命を絶ちます!」


 ティラは右腕に持った剣で、腹部を刺す。思ったよりも麻痺が解けていなかったのか深く刺さらず、激痛だけが敏感に感じ取れた。激痛をこらえ、もう一度今度は、助走をつけるように、距離をとろうと腕を動かした、その腕を誰かが力強く掴むのが感じた。


 視線を腕に向けると、スレインが必死に腕を掴んでいるのが見て取れた。


「ティラごめん、僕はどうしても許せなかった。だけど、それはティラを悲しませる事になるんだよね。」


 スレインの懺悔とも取れる言葉を聞き、ティラは痛みをこらえ、微笑む。


「兄様は私がついていないと本当にダメなんですから」


 それに答えるようにスレインは何度も頷く。その表情はすでに憎悪の表情は消えている。周囲を見渡しても、あれほど闇に染まっていた空もまた、スレインの感情とともに消えたかのように、なくなっていた。それに安堵したのか、傷が原因なのか、ティラは意識を失う。

 

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