表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒の王  作者: カキネ
32/64

根源

 ティラは今見ている事に呆然とする。それは今までスレインがティラと出会ってから、相手が誰であれ地に伏すことなど見せたことがない、それなのに今はスレインは地面に倒れ一方的な暴力を受けている。


 その原因はわかっている。私のせいなのだから。私が調子に乗った結果がこれなのだ。兄様と出会ってから順風満帆に行き過ぎた。それが私に気の緩みを許した。兄様ならどんなことがあっても解決してくれる、そんな気持ちがどこかにあった。私はわかっていたはず、私そのものが兄様の弱点だと言う事を。なのに、今は麻痺毒で体のほぼが動かない、唯一動くのは口だけ、そして兄様は私を助けようと身動き一つせず、やられるがまま。だから・・・、私は決心する。


 ティラが放けている時に、ドガァッと大きな音がする。その音に視線をやると、どうやら獣人の一人がスレインの腹部を強く蹴り、スレインの体が大きく飛び、木に衝突した音だった。そのままズルズルとスレインは木に寄りかかるように、落ちていく。あまりの痛々しさにティラは目を背けたくなる。体はすでにボロボロの有様、腕の片方は反対を向いている。


「おい!やりすぎるなよ!」


 オラルドが叱責するように怒声が飛ぶ。

 それを受けてオラルドの部下であろう獣人は反省する素振りすらみせず、不敵に笑う。


「わかってやすよ、しかしこんだけ痛めつけられても声一つ上げないとは、癪に障るぜ」


「まったくこれから血の契約にサインしてもらわないといけないんだからよ、ほれこれに書き込ませろ」


 オラルドは紙のスクロールを部下に投げつける。近くにいた部下がそれと拾い、スレインに向かう。血の契約という単語にティラは目を大きく見開く。


 血の契約は禁呪指定の契約。一度契約すれば解呪はほぼ不可能とされている。人間の国々では、禁忌とされている。だが、獣人国だけは人との取引にこれを使う。人を信用しない獣人は人にだけ使うことが許されている。一度契約して反故にすればそれは命と引き換えという呪いの契約。


 ティラは視線をスレインに捉え、唯一動く口だけを動かす。


「今までありがとう!私は兄様と過ごした時間十分幸せでした。兄様は兄様の目指した道を迷うことなく進んでください。きっと兄様は悲しむかもしれない後悔するかもしれない、でもね犠牲が出ることは覚悟しての目的だったはずです!だから・・・」


 ティラの最後のお別れとも言う言葉を受け、スレインは視線をティラに向けてぎこちなく笑う。何度練習しても、自然に笑う事ができない笑顔をティラに向ける。


 ティラはその笑顔の意味を悟る。


「兄様どうして!どうして!兄様皆を犠牲にす・・・」


 ティラの叫びは唐突に遮られる。


「うるせえ、おとなしくしてやがれ」


 オラルドの鋭い爪が、ティラの頬を切り裂く。手加減したとは言え、オラルドの爪の傷はだくだくと地面に滴り落ちる。


「へへ、大人しくなったか。さあ、さっさと血の契約済ませちまえ」


 そうオラルドが部下に命令を発し、顔を向けると。異常な事態に顔を強ばせる。


「なっ!お前さっきまであんなにぼろぼろになってたのに、なんで・・・」


 オラルドの焦った声に部下も急いで視線の先に顔を向け驚く。そこにいたのは、今まで立つことも困難なはずの、スレインだった。それだけなら、まだ良かった。


「嘘だろ、あんなに傷を負っていたのに、まるで元からなかったかのような・・・」


 スレインは頭を垂れ、悠然とその場に立つ様は、オラルド含め、部下達に動揺と恐怖が走る。そこから感情は伺えない。あまりのことに、身動き一つできずにいた獣人達は、その様子を凝視していると、ゆっくりとスレインの頭が上がる。


「ヒッ」


 一番近くにいた獣人が悲鳴の様な声をあげる。そしてその後ろにいた獣人も順々と恐怖で顔が染め上がる。それはオラルドも同様だった。


 顔を上げたスレインの瞳には、はっきりとした憎悪の意思を持っている。今まで感情という、感情を顔に出さないスレインが初めて見せた感情の表現。

 オラルドは震え上がる、今まで数多の敵を葬ってきたオラルドが魂から来る恐怖に震える。それはティラにも伝わる程だった。


 ティラもそれに瞠目する。はっきりとわかる、怒り憎しみにティラですら、恐怖がこみ上げてくる。


 オラルドは目の前の恐怖に凝視していた為、異変に気がついたのは、少し思考に余裕が出てきたときだった。


「馬鹿な、今は昼間だぞ。いくら森の中だっていっても、まるで・・・」


 あまりの異変に周囲を見渡す。そこに見えたのは、闇、闇、闇だった。異変に気が付くのが遅れたのは、目の前の恐怖に凝視していたせいもあるが、自分達の姿が目視できたせいだろう。まるで自分達を取り囲むかのように闇が覆い尽くしている。部下達もオラルドの言葉に周囲を確認し、さらに驚愕する。そこに不意に声が掛けられ、心臓がドクンとはねる。


「許さない、許さない、許さない、許さない」


 それと同時に、闇がゆっくりと姿を変える。少しずつ、少しずつ、動いている。あまりにもゆっくりとした動きの為、それがなんだかオラルドには認識できなかった。


「なんだ・・・まさか、これは瞼なのか」


 オラルドが認識でき始めた時、闇の中から瞼が目を開けるように1つ開かれる。開かれた瞬間、急激な頭の痛みに襲われる。あまりの痛みに地面に蹲る。


「グゥアアア」


 オラルドの叫びが聞こえた時、また他の獣人も痛みのあまり叫びだす。苦痛でのたまわる者もいる。阿鼻叫喚だった。


 ティラはその光景に、思考が追いつかなかった。スレインが人を憎む言葉をいうのにも驚いたが、周囲を覆う闇、そして闇の中から出てきた瞳。闇の瞳はもう幾つも出ている。そしてオラルド含め、獣人はもがき苦しんでいる。なのに、ティラは頬の傷の痛みしか感じない。


 次の光景には、もがき苦しんでいる獣人の一人は、もう獣人ではなくなっていた。狼の姿をしていた獣人は痛みがなくなったかのように呆け、次には狼の姿になり、そして次には崩れゆくように、粒子となり闇に吸い込まれる。この光景をティラはこう表現がしっくり来るように小さく呟く。


「喰っている」


 何人もいた獣人は次々と闇に吸い込まれ、いまやオラルド一人だけが耐えている。だが、それも時間の問題だとすぐにわかる。獣人の姿を保っていないのだから。そしてオラルドも時間とともに、闇に吸い込まれる。

 

 

 

少し修正するかもです。しっくりこない(・(ェ)・)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ