表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒の王  作者: カキネ
31/64

獣人オラルド

 ガルム国、ここは獣人が過半数を占める国。元々この世界には獣人は存在しなかった。しかし、約3千年前にそれが生まれた。そう、グリモアの書の召喚の影響だった。グリモアの書は人以外にも影響を与えた、それは動物にも当てはまる。大抵の動物は異形の怪物と変貌する。しかし、それに耐える事ができる者が稀にでる。その動物はグリモアの書の恩恵を受け、獣人への進化へと変わる。それが獣人という種族が生まれた瞬間である。


 獣人は身体能力が格段に劣る人を見下す。魔法は使えないが、その素早さ、力、自己回復能力は人をはるかに凌駕する。それゆえに人を劣る生き物だと判断する。だが、しかし、例外があった。聖王国の巫女クレアの母ユラ、ユラは獣人に生きる知識を与えた、土地を与えた、差別等しなかった。獣人の初代王であり、国の名前になったガルムはこれに感謝する。今だにそれは失われず、聖王国だけは尊敬の念を持つことを忘れず、唯一獣人国が国交を結んでいる国でもあった。


 そんなガルム国にスレインとティラは入ろうとしている。姿はローブを纏、人目でも分からぬよう姿を隠しているが、ここで困ったことが起こる。入国への審査が厳しいのだ。獣人ならすんなり入ることができる、入国も人であればそれは入念なまでに検査され、いつ正体がばれるのではないかとヒヤヒヤして検査を終わらせる。2時間にも及ぶ検査を終え、なんとか入国を果たすことに成功する。これでも検査は早いほうだった言えよう、他の人は半日かかる人もいるのだから。これには少しずるをした、国家権力を使ったのだ。といっても、クロノスのスレインとティラへの身分保障の手紙を見せただけなのだが。


 そんなこんなで何とか獣人国ガルムへ入国を果たす。


「兄様、入国思ったより厳しいですね。いくら女性の獣人族とは言え、体をすみずみまで触られるのはいい気持ちしなかったです」


「僕もだよ、人の国とは大分違うね」


「さすが人を寄せ付けない獣人族と言うべきでしょうか?この先少し不安になります」


 スレインはティラの頭を撫でる。


「大丈夫だよ、僕が必ず守るから」


 その言葉を受け、ティラは顔を赤くし、深く頷く。



 いくつもの街を巡り、観光をしながら、お目当ての目的を探す。獣人の情報はただでさえ入りにくい。それを掴んできたシークはさすがというべきだろう。しかし、詳細な居場所まで掴むことはできなかった。だから、聞き込みをしながら、たまには遊びながら、探す。


「ああ、オラルドかい。あいつなら、狼牙亭にいつもいるよ」


「ありがとうございます。これ少ないですが」


 スレインは懐から袋を出し、数枚のコインを猫の姿をした獣人の男に渡す。男は満面の笑みでそれを受け取る。


 ガルム国へ入国してすでに15日が経過していた。多少観光がてら遊んでいたとは言え、思ったよりも日にちが経ってしまっている。焦りながら聞き込みを続けて、人とあまり関わらない獣人からやっと情報を聞き出せたのだ。スレインとティラは早足で教わった、場所まで歩く。すでにシークと約束した月日を越えようとしていたのだ。シークが怒っている様子が思い出される。


「兄様、あそこです!看板に狼牙亭と書いてあります」


 スレインはそれを確認し、頷く。


「入ろう」


 2人が中に入ると、狼牙亭にいた客達はスレイン達に注目する。その視線にはあまり良い感情がもたれてないのがわかるほど、嫌な雰囲気が漂う。

 スレインはそれを気にしない様で、歩を進め、カウンターにいる店主に声を掛ける。ティラもスレインの後ろにしっかり着いていく。


「すみません、オラルドという人物を探しているのですが?」


 店主はスレインに視線をやると、顎を動かし目的の相手の居場所を示す。スレインはそれを確認し、頭を下げ、目的の相手まで移動する。


 目的の相手は、すでに視線を定め、向かってくるスレインを凝視する。オラルドであろう男の姿は虎の姿をしていて、かなり身体能力が高そうに思えた。

 スレインは目的の相手に頭を下げ、挨拶をする。


「はじめまして、あなたがオラルドですか?」


 オラルドであろう男は、急に笑顔になり、それに頷く。


「おう、そうだぜ。あんたがスレインなんだろう?噂は知っているぜ。あれだろ?強い奴を倒してまわってるんだろ?」


 スレインはそれに多少驚く、閉鎖的と聞いていた獣人がまさか自分の情報を知っている事に。

 オラルドはそれを見て、苦笑する。


「あんたやることが派手すぎるんだよ、嫌でも聞こえちまうわ」


 スレインはそれに納得し、言葉を続けようと口を開ける。

 オラルドはそれに手を振り、答える。


「言わなくてもわかるよ、勝負したいんだろう?」


 スレインはそれに頷く。


「いいぜ、俺についてきな。場所はもう決めてるんだ」


 オラルドはそう言って、席を立ち上がり、歩を進める。スレインもそれに続くように後に続く。この時、オラルドが客にアイコンタクトをしていたことに、後ろにいたスレインは気づかなかった。


 オラルドが目標の場所まできたのだろうか歩を止める。周囲を確認すると、木々に覆われる森の中だった。視界が悪く、見通しが全然できない場所。そこがオラルドが決めた場所である。


 オラルドは愛嬌のいい笑顔を浮かべ。


「いい場所だろ?おたくにとっても悪くない場所だろ?姿を隠したいようだしよ」


 オラルドはそれを手を挙げて表現する。


「確かに、こちらの事を考えてくれて感謝する」


「へへ、よせやい。でよ、提案なんだけど、そこのお嬢ちゃんと先に対戦したいんだわ。あんたには勝てないとわかってるからよ。まずは前哨戦ということでどうだい?」


 オラルドの言葉にスレインは狼狽える。ティラに視線をやると、さもやる気が満ちているのかのように、胸を張っている。


「構いませんよ、兄様、私も強くなったんですよ?心配しなくても大丈夫です」


「だが・・・」


 心配そうなスレインを安心させるように、オラルドが口を開ける。


「へへ、大丈夫だぜ。殺し合いなんて俺もしたくない。どっちかが勝負ついたらおわりにするぜ」


 スレインはティラにもう一度視線をやり、ティラは大きく頷く。スレインはそれを見て、本当に危なかったらすぐ助けに入ればいいと、頷き返す。


 2人は対峙する。ティラは剣と魔法を使う。そしてここ一年でそれもかなり上達した。近衛騎士として役割を果たす為、修練を怠わなかった。

 対して、オラルドは、虎の姿をしており、大きいからだをしている。情報があまり入らず、戦略がわからないティラでも、オラルドは肉体を武器にしているとすぐに理解する。


 2人は、スレインの「始め」の声で動き出す。


 ティラは魔法、アイスランスを発動し、発射する。それをオラルドは難なく避ける。注意が逸れた隙に一気に近寄りティラは剣で大きく頭上から降ろす。見事な反射神経で爪で受け止める。幾度も剣を振り、それを爪で受ける。オラルドが離れれば、魔法で隙を作る。そこを剣で接近戦に持ち込む。


 スレインは2人の攻防に疑問を持つ。ティラは強くなった、それは事実だ。しかし、ティラは今だにシークにも勝ててない。それが、何故オラルドとティラは互角なのだろうかと疑問を持つ。オラルドの表情は真剣そのものだ、余裕などないように見える。ティラやシークはいつのまにか8武神の上位の実力を手に入れたのだろうか、そう思考している最中。


 オラルドの体が一気に崩れた、ティラの剣の勢いで態勢が崩れたのだ。チャンスとばかりにティラは剣の連撃を放つ。オラルドが必死にそれを爪で防いでいる。だが、それも時間の問題だと思わせた。


 ティラがこの勝負勝てるとスレインが思った時、目の前の戦いに集中していた為、それを認識していなかった。


 木々の中から、光が見えた。それに気がついた瞬間、その光はティラ目掛けて向かう。ティラはそれに気がつき、避けようと回避行動をとるが、間に合わず腕を掠める。


「ッツ」


 ティラの表情が歪む。それと同時にティラの体が地面に倒れる。ティラ自身なにが起きたかわからない表情を浮かべ、困惑の最中、オラルドに羽交い締めにされ、鋭利な爪がティラの喉元に添えられる。


 スレインはそれに気が付くのが遅れた、目の前の戦いに集中しすぎ、又、木々によって視界が隠されていたせいでもあった。スレインの目の前には、ティラが完全にあたりもしなかった矢を掠めた瞬間、ティラは体が麻痺したように倒れたのだ。それをオラルドは愉快そうに笑みながらティラを拘束している。


「ティラ!」


「動くんじゃね!」


 ティラに向かおうとしたスレインを、オラルドは制止させる。それは爪が今にもティラの喉元を裂く動作をしているからだ。動揺する中、オラルドは言葉を続ける。


「おい、でてこい」


 その言葉に反応するかのように、木々や草むらから数人の獣人が姿を現す。一人の獣人はクロスボウを携え、この獣人がティラを狙って撃ったと理解する。


「どいうことだ、オラルド!」


 オラルドは一笑に付して。


「へっ、最初からこれが目当てだったんだよ。お前の噂を聞きつけて、こっちにも来るとわかってた、だから準備万端にしていたわけだ」


「最初からこれが狙いだったのか!」


「そうさ、まあ俺の願いを1つか2つ叶えてくれるなら、この嬢ちゃんを開放してもいいぜ」


「なんだ、その願いは?」


「簡単な事さ、お前王様になったんだってな?王様なら簡単に国庫からの金品を横流しできるよな?」


 考えが巡る、王の責務がある以上、それは断じて受け入れる事はできない。だが、だが、ティラの命と引き換えとなると話は別だ。


「わかった・・・、ティラを開放してくれ:


 ティラの表情が歪む。


「兄様、だめ!それはしてはいけない!」


「うるせえ!へへ、契約成立だな」


 スレインは頷く。


 オラルドは愉快そうに笑いながら、「それともう一つ」と付け加える。

 他の獣人が、スレイン目掛けて身体能力を生かした動きで攻撃をする。


 カキィィン


 という音とともに、それが防がれる。


「チッ、防御魔法かよ、それを外しやがれ!」


 オラルドは苛立つようにティラに向けた爪を上下させる動きをする。

 スレインはそれを理解した、金品の次は、名声なのだろうと。スレインの噂が獣人にまで届くということは、大抵の者が知っていることになる。つまり、その強さも。スレインを倒すことにより、名前を上げようとしているのだろうと理解する。スレインは体の力を抜く。


「解除した」


 それと同時に、獣人は襲いかかる。鋭利な爪、牙は防御結界を発動してないスレインの体を次々と切り刻む。またある者は、鈍器のような物でスレインの体を打ち据えた。骨は折れ、体のいたるところに、深い傷を作る。


 立つ力すら失うかのように、地面に倒れこむ。獣人は苛立つ、悲鳴一つあげない男に心底苛立つ。


「兄様!」


 ティラは言葉を力いっぱい兄に向けて呼びかける。しかし、反応が返ってはこなかった。


 苛立つ獣人は、スレインの頭を踏みつける。何度も何度も踏みつけ、その苛立ちを解消しようとする。


 ティラは声をあげるのやめた、声を出すことができなかったが正解だった。現実ではないかのような、光景に・・・。


 


 


 

少し長くなりました。一度切ります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ