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黒の王  作者: カキネ
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過去

 戴冠式が終わり、盛大な祝宴が行われ正式な王となったスレイン。その翌日の朝。聖王国の巫女クレアと帝国のガルザスが帰国する事になる。

 皇帝ガルザスは何とも、簡単に「またな」と行ってさっさと馬車に乗り込んでしまったが、クレアだけは少し悩む仕草をし、スレインだけ個人的に話したいと別室に呼んだ。


 スレインは昨夜の妹の話だと憶測をしてその誘いに乗る。両者が誰もいない部屋でソファーに腰をかける。しかし、クレアはまだ悩んでいるようで、なかなか話に入らないことにスレインは首を傾げた。


「どうされたのですか?クレア様」


 スレインの言葉に意を決したように、クレアも口を開く。


「うむ、実はのうお主と最初に会った時から考えていた事なのじゃが・・・」


「聖王国での事ですね」


「そうじゃ、妾は気になってのう、すまないと思ったがお主の事を調べさせてもらった」


 その言葉に少なからずスレインは動揺する。


「お主も辛いと思うが聞いてもよいか?」


 少しスレインは逡巡するが、それに同意する。


「構いません、クレア様が話すことなので、きっと重要な事なのでしょう」


 クレアは頷き。


「そうじゃ、お主にとっても妾にとってものう。さて本題に入らせてもらおう」


 そこで口を閉じ、少し開いたと思ったら口を閉ざす。どうやらクレアにとっても話辛い事と見て取れた。それを何度か繰り返し、言葉を発する。


「お主、幼少期の頃を覚えておるか?」


 心臓が少しはねる。それを抑え、クレアに頷く。


「うむ、幼少期お前は周りの人に避けられておったそうじゃな。何故だかわかるか?」


「それは、僕の力が・・・・」


 スレインが最後まで言い終わる前に、クレアが言葉で阻害する。


「それは違うのう、確かにお主は強大な力を持っておるが、それが他の黒い特徴を持つものと、お主とで見極めが着くと思うか?他にも黒い特徴を持つものは何人かおったが、そのどれもが周りから疎外されるなどほとんどなかったことじゃ」


 そこでクレアは少し間を置く。スレインは妹の話のつもりで話していたが自分の話だったので、心の準備ができていなかった。


「お主、力を使い始めて急に周りが変わり始めなかったか?」


 スレインには思い当たることがあった。心臓がバクバクはねる。かろうじて口を開ける。


「はい、僕が力を使って1,2年位で両親が僕を見なくなりました」


 クレアはやはりかと眉を潜める。想像していた通りのことだった。


「先ほども言ったが黒い特徴は何人もおった。そのどれもが勇者やら冒険者やらで名を馳せた。だがそういったものは根源を使う頻度が多い。つまり、頻度が多ければ多いほど、寿命が短くなる。妾も同じ事をすればとうに朽ち果てておる。故に妾は1ヶ月に1度しか使わん。まだ死ぬわけにもいかぬからのう」


 スレインは首を傾げる。何が言いたいのだろうかと。


「あっ、すまんのう。少し話がそれてしまった。妾が言いたいのは黒い特徴とは、喜ばれはすれど、疎外される特徴ではないと言う事じゃ。じゃがお主はある時から、両親、そして同級生から疎外されたそうじゃな?」


「ええ、そうです。その時は最初は辛かったですけど、すぐ慣れました」


 クレアにはそれが嘘だとすぐわかった、スレインは嘘をつくことができない人物だと何百年も生きたクレアにはわかる。


「そうか、その原因じゃが。妾は見当が着いた。聞くか?」


 スレインの目つきが変わる。そして口を開けたまま固まる。クレアもそれは理解できる。クレアは母様に拾われるまでは、孤児だった。親もわからず一人で生きていた。母様に拾われなかったら、恐らくは人を生を恨んでいたかもしれない。だが幸いな事に、クレアは拾われた。だがスレインはその逆だった。まだまだ愛情が必要な時期にスレインは親に見放された。それは心に大きな傷を作って、それが楔となって心の底から喜べないのだろう。そして悲しむこともできないと容易に推測できた。幼少期のスレインにとってそれは無駄な感情だったのだから・・・・。


 そう思案している最中にスレインが口を開ける。


「原因が分かるなら聞きたいです。僕はティラやアリス、そして仲間にまた見向きもされなくなりたくない」


 スレインは強い口調で発言する。それを見てとって、クレアは頷く。


「分かった、妾の推測じゃ。絶対ではない、よいか?」


「はい!」


「恐らくじゃが、お主の根源が原因だと思う。スレイン、お主の根源が奪ったのじゃ」


 それにスレインは狼狽する。


「お主は力を使い始める時、完璧にコントロールができておらんかった。その力の根源が知らぬうちに悪い方向へと発動してしまった。そして、まずは両親がお前の思いを奪われた。その次にアリス、周囲の人へと広がったわけじゃ」


 クレアはスレインの顔を見る。表情はわからないが、悲しんでいると想像できた。言葉を続けるのをためらう。だがスレインはクレアを真っ直ぐに見つめる。それに答えようとクレアも続ける。


「奪ったのは多分じゃが、お主の想いだけじゃな。その時どんな気持ちで力を使っておった?」


 スレインは少し思考して


「皆にすごいところを見せようとしていたと思います」


「そうか、それが裏目にでたわけじゃな。一度奪われたものはスレイン、お主が返さねば取り返すことはできん。じゃが、お主の両親は最後まで踏みとどまっていたようじゃのう」


「どいうことですか?」


「調べたところによると、お主の両親は想いを奪われたにも関わらず傍においていたそうじゃな」


 スレインは頷く。


「想いとはお前への全てじゃ、それを奪われるということは存在そのものと言ってもいい。それを奪われたにも関わらず、両親は傍に置いた。これがどいうことかわかるか?」


「なんとなくですが、わかります」


「うむ、両親も最後の一滴まで奪われるまで戦っておったのじゃろうな。じゃが奪われた者はお主が返さねばもう戻らぬ。最後の一滴まで奪われ尽くした両親、恨むのでないぞ」


 クレアの言葉を聞き、スレインの表情がころころ変わる。


 恐らくは悲しくてどうしようもないのだろう。だが、感情を一度捨てたスレインはそれをどう表現したらいいのかわからないのだろう。


 そして今まで生きた軌跡を調べたクレア、スレインは実は心の弱い男なのではないかと思う。両親に見てもらえなくても限界まで村にいて、そして普通なら死を覚悟するであろう状況でも、死を恐れる。故に、冒険者で生を繋いだ。そんなスレインがティラに出会って、初めての安らぎを得られた事は、どれほどの喜びだったのか計り知れない。


 そこでふと気になることを口に出す。


「アリスなんじゃが・・・、両親と同じく奪われたはずなのじゃが、どうしてお主への想いが残っておったのだ。そこが分からぬのう」


 クレアの言葉にスレインも首を傾げる。


 クレアの事が真実ならば奪われたものは返さない限り、返ってこない。ならばアリスも両親と同じく、スレインに興味など抱くはずがない。


「アリスとはほとんど会えませんでしたから」


 その言葉にクレアは「そうなのかの」と呟く。


 クレアは急に真剣な目つきに変わり、スレインを見る。


「スレイン一つだけ約束して欲しいのじゃ、決してその力を本気を出さないことを」


「何故ですか?」


「その力は危険じゃ、世界そのものを変えかねん、そしてお主もきっと後悔する事になる」


 クレアのあまりにも真剣な言葉に、スレインは大きく頷く。


 それをしっかり確認し。


「妾はそろそろ帰国する。スレイン!サイラスを頼むぞ」


「誠心誠意頑張ります。妹や仲間の住む国の為に」


 クレアは席を立ち、ドアまで行き。それを見送ろうと追従するスレインに振り返る。


「そうそう、昨日の妹の事じゃ、必ず聞くのじゃぞ。お主は妹の事になるとどうしようもないらしいからのう。じゃが、これは必ず聞くのじゃぞ、わかったな!」


 クレアの鬼気迫る迫力にスレインは何度も頷く。

 クレアを出立まで見送り、サイラス国の王としての1歩もまた始まる。



 サイラスから帰国の旅路の馬車の中で、クレアは思考を繰り返す。

 本来ならば、クレアはスレインを捕縛し監禁せねばならない立場だ。それが、母様との約束。だが、しかし、クレアは知ってしまった。スレインの過去を。

 母様と出会えて幸せな日々を送ったクレアには、スレインの過去を聞き、また一人にするのにはどうしても行動には移せなかった。疑念がある以上最悪でも殺さねばならない、その決断がクレアには出来ない。一人でいたあの時の記憶がスレインと重なる。


 「ふぅ・・・」


 妾もまだまだじゃなと息を吐く。




 

 

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