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黒の王  作者: カキネ
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戴冠式

 サイラス国崩壊から1週間後、国中に流された情報に民は沸き立つ。


 新しき王が即位する、それはサイラスを救った英雄スレインだと。


 その報に民は戴冠式を見ようとサイラス首都に押し寄せた。それと同時に皇国の巫女クレア、帝国の皇帝ガルザスがサイラスに入る。民は皆、新しき王の即位を見るためにサイラスに入ったのだと喜んだ。


 巫女クレアと皇帝ガルザスはサイラスに入ると戦争等とっくに終わっていて、すでに王が選定されていた事に驚く。首都に向かう旅路で。


「まさかのう、妾が来るまでもなく事は終わっていたようじゃ」


「そのようですな巫女殿、さすが我が宮廷魔術師を倒した男じゃ、グハハハ」


「フフ、それにのうまさかそなたのような男が軍を簡単に起こすことにも多少驚いておる。ただ1度帝国に趣いた男の為に」


「理由などスレインが我にした事と同じことだ、なんのことはない。帝国に1度来ただけの男がわしの病を治してくれただけじゃなくタレルを下す。奴にとっては些細な事かもしれんが、わしも負けておられぬと思ってのう」


 ガルザスは不敵な笑みでそれにと続ける


「ここで恩を貸し付ければ帝国にとっても悪くない賭けだと思ったのだが、しかし、奴め一人で全部やってしまいおったわ。グハハハ」


 呆れた顔でクレアはガルザスを見る。どこまで言っても、ガルザスは帝国の為にしか動かない男なんだと、改めて思う。確かにスレインの力は異常だ。本気を出せばどのくらいの力を出せるのか想像できない。ならばガルザスは真っ先に馳せ参じ、恩を着せればその力を借りる事もできると目算しておったのだろう。聡い男じゃ・・・。そうクレアは呟く


 2人はサイラス首都サイラス城に入る。戦などなかったかのように城壁は崩れてもおらず、戦などあったのが嘘だと言わんばかりのしっかりとした外壁をなしていた。そしてその城下の街は民が押し寄せている。その活気はそれもまた戦などなかったかのような人の営みを為している。2人は城の広間に通され、スレインと対面する。


 その広間には、黒の砦幹部、宰相クロノスが列席していた。


「お久しぶりです、巫女クレア様、皇帝ガルザス様。よくぞいらっしゃいました」


 スレインはそう2人挨拶する。シークやクロノスに王になるのだから言葉遣いを王らしくしろと散々言われ、いつものぶっきらぼうな言葉遣いを窘められていた。


「うむ、息災で何よりじゃ」


「グハハハ、本当に元気だわい。国一つ落としたとはとても思えん。まあ明日の戴冠式には参列しようかのう」


「感謝します。皇帝ガルザス様」


「そこで妾から提案なのじゃがな、明日の戴冠式は妾が授与しようかと思う。巫女クレアに冠を授けられるとは光栄なことなのじゃぞ?」


 その言葉に、一同呆然とする。それはつまり、聖王国に王を認められた事と同意義。更に、皇帝ガルザスが列席するとなると、帝国が後ろにいると各国に広めるようなものなのだ。それにはさすがのシークもクロノスも唖然とするしかない。元々、この2人の来訪だけでもかなり驚いたのだ。急いで失礼のないよう場を整えたという内情もある。


「なんじゃ、皆して驚いた顔をしおって、そこは喜ぶところじゃ。妾がここにやってきたのは国がまとまるように赴いたのじゃ。だが、すでにそれは終わっていたようじゃしのう」


 呆然とする中、スレインだけが口を開ける


「感謝します。クレア様」


 うんうん、とクレアは頷く。


 その後、今後の事を話合い、会談は終わる。


 突然の来訪に戴冠式が重なり、慌ただしくもあるも、戴冠式の日を迎える。


 サイラス国首都にある大聖堂でその儀は行われた。サイラス以外のほとんどでは無名の為、各国からの参列者はなかったが、黒の砦の面々、サイラスの重臣、皇国の巫女クレアとその従者、皇帝ガルザスとタレル等が列席し、厳粛に行われる。大聖堂の奥、この世界の神でもある。巫女クレアの母、聖母ユラの石像の前でクレアは言葉を紡ぐ。


 「聖王国巫女クレアの名において、スレインをサイラス国の国王にここに任命する。スレイン異存はないな?」


「はい、サイラス国の王その任を承ります」


「では、王冠を授ける」


 クレアの手に金銀が散りばめられた、宝冠をスレインの頭に置く。


「これよりそなたはサイラスの王じゃ、以後民の為に動くよう」


「はい」


 スレインは宝冠を受け取り、参列した列席者の前に振り向く。それと同時に周囲から盛大な拍手がサイラスの王として歓迎される。それに答えるようにスレインは手を挙げる。


 その1時間後、正式に王となったスレインは民にその姿を見せるため、殿上に上がり。お披露目をする。詰めかける民で埋め尽くされる広間にスレインは姿を現し、民の感嘆の声を聞き、スレインは決心を固めるのだった。それと同時に、不安で胸が押しつぶされそうであったが、妹2人も殿上にあがり側に居てくれたことで、その不安も緩和された。もちろん民に妹2人の紹介も忘れない。


 お披露目が終わり、殿上から降りてる時、クレアから声がかかる。


「スレインすまないな、少し妹を借りるぞ」


 スレインはそれに頷き、妹2人を送り出す。見知った仲での安心感から警戒心はなかった。ほどなくして妹2人とクレアは戻ってきた。


 だが、妹2人の姿はどこか不安そうな悲しそうな顔をしていた。スレインは首を傾げる


「大丈夫?具合悪いのか?」


「ううん、大丈夫だよ兄様」


「でも、ティラ・・・・兄様に言わないと」


「今はまだ、言わないで欲しい。お願いアリス」


「ティラ・・・」


 そんなやり取りをしているのを見て、クレアはため息をつく


「言わんでいいのか?お前達のことゆえお前たちに先に言ったが、スレインに話す前提で妾は話したんじゃがのう」


 ティラは申し訳なさそうな表情をする


「まあよい、はやめに言うのじゃぞ」


 クレアは念を押すように一言言って、部屋を離れる。


「アリス何があったんだ?クレア様が言うなんてただ事じゃないんだろ?」


 アリスはティラの顔を見て、ティラが首を横に振るのを確認して。


「心の整理が付いたら話す。私は兄さんに言った方がいいと思ってるんだけどね・・・」


「それは、アリスとティラ2人に関係することなのか?」


「うん・・・」


「わかった、だけど必ず言ってくれよ」


 それには曖昧な返事を返すだけで、はっきりした答えはもらなかった。スレインの心は今や2人の妹のことが心配でたまらなかった。

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