決断
スレインは与えられた寝室のベッドで横になって考えていた。
王になれだって、バカバカしいと自嘲気味に呟く。
そもそもそんな事が目的でここまで来たわけじゃない。
僕の願うことは、ただ一つティラが望むことを叶えるだけなのだから。
ティラが望めば王になろう、しかしティラは望んでなんかいない。
たったいじめを1度追い払っただけで、ティラは僕に着いてきてくれた。生きる望みをくれた。目標を見つけてくれた。だから、ティラが望まない限り僕はそれをする気など起きない。
そんな考えをしていると昔のことを思い出す。思えばティラと最初であった時、自分は妹のアリスと言われた時は動揺したものだ。だけどそんな動揺もティラが献身的に僕に優しくしてくれたから、すぐに消えた。あの瞬間から、僕はやっと暗闇から抜け出すことができたんだ。
だからこそ、シーク、グレン、レオンはいい仲間だと思うが、僕の決断は変える気はない。それはアリスに言われてもだ。それほどティラに救われた気持ちは変えがたいものなのだから・・・。
アリスか・・・実際僕の元に来た時はびっくりした。お互い進む道が違うのだから危険にわざわざ入りこむなんて、馬鹿げてる。でもアリスにも感謝している。
ティラもアリスに変化しているのは辛かったはず、アリスが来てくれたことでそれを変えてくれた。僕がティラに気がついていることを言えば良かったんだけど、怖かった。それを言えばティラはどっかに行ってしまうんではないかと思って。だから感謝しているし、大事な妹だと思っている。
過去の記憶を思い出しながら、スレインは考える。
そして終着は道を変える事はないという結果になる。それで皆が去っても、スレインにはティラさえいればそれでいいと結論に達する。
そんな考えをしているときに、ドアをノックする音がする。
急いでスレインは起きて、ドアの方に視線をやる。
「誰?」
しばし間をおいて。
「兄様、ティラです。入ってもいいですか?」
断る理由もないのだから当然。
「どうぞ」
ゆっくりとドアが開けられティラが部屋にはいる。
そしてスレインが座っているベッドの横に座り。
「兄様、結論でましたか?」
そう聞いてきた。
「最初から決まっている。僕達は最強になるんだろ?」
その答えを聞いてティラは俯く。
「どうした?」
「あのね、兄様。私の事を思ってそう考えているのなら、やめてほしい。前も言ったと思うけど、最強なんてただの理由に過ぎない、兄様と同じ目標もって進む理由にしかならないの。だから・・・」
ティラは顔を上げて、スレインに真剣な目で見る。
「兄様が本当にしたいと思うことなら、言ってほしい。兄様は優しすぎる・・・。だから、兄様はいつも私を優先する。でも、たまには我儘言って欲しい」
スレインはその言葉に少し衝撃を受けた。
我儘だって、そんな事今まで考えたこともない。
ティラがしたいことをする、それが僕の生きがい。
それをティラに拒否された様に感じ少なからずショックを受ける。
「僕のしたいこと・・・」
「うん・・・、兄様がしたいこと、本当にないの?」
ティラの言葉が冷たくのしかかる。
考えたこともない、想像もしたくない。
だって・・・それはティラにもらった光を失いそうに思えたから。
「思ったことないよ」
だからそう答えた。ティラの表情は一気に悲しみをこらえる表情に変わる。
ティラの頬に一筋の涙が流れる。
スレインは焦る、スレインにとって当たり前の答えをしただけなのに、大事な人に涙を流させたことに慌てる。
「ティラ・・・」
「兄様・・・・、兄様はさ・・・、私が言った事を叶えてるだけなんだよね。黒の砦の主も演技をしてくれただけなんだよね。兄様がそれを願った事なんて一度もないのに、私はさ勘違いしてた。兄様も同じ考えだと思ってた。だけど、そんなの私の一人よがりの考えなんだよね」
ティラは微笑む、とても悲しそうな顔で微笑む。
「私がそうさせてたんだよね、ごめんね兄様」
「ティラ泣かないで、ティラが望むことは僕の望む事なんだ、なにも悲しむ事はないんだ」
ティラはとうとう涙をこらえることができず、涙がとめどめなく流れる。
スレインは考えに考えるが分からない。ティラの泣く理由がわからなかった。
「ティラ、すまないなにか僕はひどいことを言っただろうか、泣かないでくれ」
ティラはベッドから立ち
「ごめん兄様、もう行くね」
「ティラ・・・」
ティラはドアの前まで進み振り返る。
「これだけは覚えて欲しい、兄様がしたいことは私もしたい、兄様について行きたいと思ってる。じゃあね」
ティラの言葉を残しドアが閉められる。
スレインは呆然としてドアをずっと見つめる。
スレインは先ほどの言葉が反芻して聞こえる。
僕が望むことはティラが望むことじゃだめなのか、どうして悲しむ、わからない。誰か教えてくれ、僕の何がいけないんだろうか?教えてくれ。
そんな自問自答を数十分していただろうか。
突然声がかかる。
「兄さん、どうしたの?」
驚いて声の聞こえる方に顔を向けると。
いつのまにかアリスがスレインのベッドの横に座ってた。
「アリスか・・・・」
その言葉にアリスは怒る。
「なにがアリスか・・・よ!」
「ごめん・・・」
アリスは少し考えて。
「そういえばティラと何かあった?ティラ泣いていた様だけど、喧嘩でもした?まあ、どうせティラの我儘で兄さんを怒らせたってところでしょうけど」
スレインは頭を横に振る。
「僕が悪いんだ、僕が全部悪い。ティラは何も悪くないんだ。だけど、理由がわからない」
スレインはアリスの肩を掴む、そして揺すりながら。
「理由を教えて欲しい、僕の何が悪かったのかお願いだ」
「ちょ・・・ちょっとまって、落ち着いて。話を詳しく聞かせてちょうだい」
スレインを落ち着けて、詳しく先ほどあった事を聞く。
そしてアリスは、顎を手にのせ少し考えながら。
「確かに兄さんが悪い。でもティラも悪い」
きっぱりと答える。
スレインは真剣な表情でそれを聞く。
「うっ・・・・兄さん、見つめすぎ。まあ、兄さんティラがしたいことないかって聞かれたんでしょ?」
それにスレインは頷く。
「で、兄さんはティラのしたいことをしてたわけでしょう?」
それにもスレインは頷く。
「結局はさ、お互いのことを思って空回っただけなんだよね。これってさ」
「どういうことだ!」
スレインは詳しくしりたいあまり、顔をアリスに近づけて聞こうとする。
「兄さん、近い近い!あ~もう、だからさ結局のところは2人共同じ考えだってことだって。兄さんはティラの望むことをしたいと思ってるしさ、ティラは兄さんの望むことをしたいと思ってる。つまりは同じ考えだってことだよ」
スレインはそれを聞いて首を傾げる。
「ならなんで、ティラは泣いたんだ?同じ考えなら悲しむ必要なんて・・・」
アリスは手を前にだし、スレインを制す。
「だからさ・・・あ~もうなんでわからないのかな。今まではティラの望みをやってきたわけでしょう?だけどティラは兄さんの望むことをまだやってきたことないから、悲しいんじゃない。本当にもうなんでわかんないかな。ティラはただ単に自分だけ我儘言って聞いてもらう関係が嫌なんだよ、わかった!?」
スレインはそれを聞いて、わかったようなわからないような感じだった。
「つまり僕も我儘言えばいいのか?」
スレインの顔にチョップが当たる。
「馬鹿、ただ我儘言ってもしょうがないでしょ。ティラは兄さんに目標を持ってもらいたいから、最強になろうって言ったわけでしょ?兄さんもティラの為になる事言わないとだめでしょ!」
なる程と理解した。顔にまだチョップが乗っているがそんなことはどうでもよかった。
「アリス、ありがとう。感謝する。本当に頼りになるいい妹だ」
アリスは少し赤面して、もじもじと指を付き合わせる。
「急に真面目にならないでよ。恥ずかしいじゃない。あ~、もう行くね!すぐ仲直りしなさいよ!」
ドアをバタンと力強く閉めてアリスは出て行く。
そして考える、僕がティラに願うことは何かを。今になって思えばなんで考えなかったのか不思議な程だった。
突然緊急招集がかかる。
メンバーは依然通りの幹部達だ。
スレインは部屋に入るときにティラと目が合うが、ティラは目を背ける。
それを見て。
あちゃ~まだ仲直りしてないのかあの2人はとアリスは思う。
違和感は黒の砦メンバーにはすぐ気が付く程、空気がおかしい。
そんな事を気にしない様にスレインは席を立ち。
「皆集まってくれてありがとう。そして僕はここで我儘を言わせてもらう。僕の妹ティラにこんな荒れ果てたサイラスに住んでもらいたくないという個人的な理由でだ。だから僕は王になる。サイラスを良い国して、住んでもらいたいからだ。そんな個人的な理由で王になってもいいというのなら僕は受け入れようと思うがどうだろうか?」
一同シーンとなる。
ティラはあまりの驚きに口を開けたまま、スレインを見つめる。
アリスもまさかこんな自体になるとは想像もしなかったようで呆然とする。
まず口を開けたのはクロノスだった。
「私は賛成します。つまりは結局のところは国を良くするわけですから反対のしようがありませんね」
それに続くように。
「賛成しましょう。しかし王にならないとばかり思ってましたよ。まあ結果的には良かったのですが、これから大変になります」
「俺は約束だしな、ボスに着いて行くぜ」
「大将が王ねえ、まあそれも悪くねえか」
そしてアリスとティラに視線が集まる。
アリスは焦るように手を挙げて。
「複雑だけど、兄さんが決めたことなら、しょうがないから賛成します」
ティラはもじもじとスレインに目をあわせ、外す、合わせるを繰り返す。
「兄様本気ですか?」
スレインは頷く。
「ティラの為に初めてやりたいこと見つけたんだ。付いてきてくれるかい?」
ティラは顔を赤面させ、深く頷く。
「良かった、一緒に頑張ろう」
「兄様ありがとう、私も頑張るね」
そんな2人を微笑ましく眺める男衆がそこにあった。
「さて、これから忙しくなりますよ。そういえば最強はどうするんですか?」
シークの質問にスレインは答える。
「もちろん並行して進める、大変だと思うが運が悪いと思って付いてきてもらうよ」
やれやれとこりゃ大変だという思いと楽しくなるという思いが皆を笑顔にさせる。




