会談
サイラス全土統一から1週間後、まだまだ民の不安は治まってはいない現状これからのことについて話す為、王宮にスレインと黒の砦一団は集まっていた。
クロノスを救出されたことなどはすでに、サイラス降伏の時に教えてもらった。
カイル将軍はクロノスによって埋伏の毒をさせられていたこと、機会を伺っていたことを聞かされた。スレインはその事を聞き、クロノスの知略に賞賛の意を心から思うほど先見の目がある人物と想像できる。それは黒の砦の皆も同様だ。
カイルはクロノスの目的の為、自分の目的の為に、心を殺して王に覚え良い行動していた。それもすべてこの時の瞬間を考えて、スレインはカイルの行動をとても真似できないとは思うが、尊敬の念を贈らずにはおれないと思った。
それがカイルの復讐の行為の結果なのだとしても・・・。
黒の砦の幹部とサイラス側の宰相クロノス、サイラス軍カイルが揃い話し合いがこの日行われる。スレインは治安維持にはまだまだ黒の砦の協力が必要不可欠だと理解しているので、そのことについての細かい話し合いのつもりだった。
「この度は黒の砦の方に多大なご迷惑をおかけしまして申し訳ありません。宰相であるクロノスの名を持って謝罪させていただきます」
クロノスがまず謝罪の言葉を話、会話を始める。視線の先にはスレインを捉えている。
「早速ですが、本題に入らせていただきます。現在この国には王がおりません。新しい王をまずは早急に決めなければいけません。私は・・・・」
クロノスは一旦言葉を止めて、周囲を見渡す。
スレインは一瞬首を傾げるが、当然ディルの血を継いでいるクロノスが継ぐ者と確信していた。だがその想像は一瞬にして崩れた。
「私は、スレインさんを次期国王に推薦します。」
その言葉を受け、黒の砦の幹部シークを除いて驚愕の表情を浮かべる。
「待ってくれ!何を言っているんだ!当然クロノス様がなるべきではないか、僕なんかが王に務まるはずがない」
スレインはあまりのことに必死に言葉を紡ぐ。
クロノスはシークと視線を交差し、頷く。
このやりとりをみて、この2人はすでにグルなのだと理解する黒の砦の幹部達。
「問題ありません、スレインさんには追々王としての業務を覚えて頂ければよろしいのです。その間は私がサポートします」
クロノスは想定内とばかりにスレインの言葉の返事をする。
「そんな・・・・」
スレインは言葉がでなかった。
それを見てティラが立ち上がる。
「ちょっと待って、兄様には目的があるの!王なんてやってたら目的なんて達成できないじゃないの!」
その答えはクロノスではなく、シークが答える。
「問題ないでしょう。目的が終わってから王として本格的にやればよろしい。何より、前の王はひどかったのですから、それにその間は宰相クロノス様に一任されればいいかと。私がなぜこんなこと言うのかというと、サイラス国の情報網は必要だからですよ、国の情報網は目的にも大いに役に立ちます。スレインさんには最強の目的だけでは生ぬるいでしょうから王くらい、なんともないでしょう」
ティラはキッとシークを睨む。
シークは慌てたように、目を背ける。
「おいおい、待ってくれよ。何の血筋にも関係ないボスがやっても大丈夫なのか?宰相のクロノス様がやったほうがいいんじゃねえのか?」
間に入るように、グレンが疑問を投げかける。
クロノスはグレンを見て、頷く。
「本来ならそうでしょうね、ですがこの国はもうだめです。ディルは愚王でした。その血筋が継いでまた悪政を敷いるのではないか民は不安になるでしょう。新しい国になったと民に知らせなければいけない、その為なら血筋等関係なく民の為になる方を私は王にしたいのです」
その言葉はクロノスの覚悟の言葉だと思うほど力が込められているのが感じ取れる。
グレンはそれを聞いて頭を掻いて、納得したかのように頷く。
「少し考えされてくれ」
スレインは一言だけ発し、席を離れる。
スレインの背中姿を見送り、アリスがシークを睨む。
「シークどういうつもり!いくらなんでも突然すぎる!兄さんじゃなくても動揺するのは当たり前よ!」
現在シークは妹2人に睨まれている状態で、苦笑いを浮かべるしかなかった。
それを遮るようにクロノスは言葉で間にはいる。
「私がシーク殿に頼んだんですよ。シーク殿を責めないでくれ。シーク殿もこの決断には悩んだのだ、だが私が無理を言ってお願いしたのだ申し訳ない」
クロノスは頭を下げる。
それには妹2人も沈黙するしかなかった。
シークは頬を掻き。
「私もサイラスの民の一人ですから、やはりサイラス国の窮状は憂いていました。スレインさんなら最後まで投げ出さずやってくれると思い決断したのです。黙っていたのは申し訳なかったのですが、最初に言えば、きっとスレインさんは拒否するのが目に見えていたもので・・・・」
それはシークの真実の本音なのだとアリスとティラには思えた。
「とりあえず・・・・本人がいないので話はまた後でしましょう。今は事後処理がわんさかありますからね」
その言葉で一度解散することになった。
実際のところ、やることは山ほどあるのだ。政権が変わるというのは黒の砦の運営のレベルじゃないのは誰もが理解できる。それに少なからず戦災の跡は残っているのだから、処理にもまだまだ時間がかかる。




