勇者様レベル1 べつ話その1
その昔、炭鉱夫達は己の命を一羽の金糸雀に託していた。
炭鉱では一酸化炭素が溜まり易い空間が空気の流れで作られるそうです。
身体の怠さや頭痛や吐気や酷い眠気を模様して、風呂で逆上せた様なピンク色の肌になって静かに眠る。
そんな事故を未然に防ぐ役割りとして適任だったのが警戒心の強い金糸雀だったそうです。
それはさて置き、私は現在地下迷宮に居ます。
地上から十階層降りた場所。
ヒドラの間。
地脈に近いのか流れてくる風は温かく低温のミストサウナ状態で少々暑い。
「はぁ……地下迷宮に金糸雀を連れてくる冒険者っているのかしらね」
挨拶が遅くなりましたが私、勇者やってます。
現在ヒドラと戦闘中らしい………あっどうやら終わったみたいですね。
部屋の奥から切合う音が消えたので戦闘は終了したのだと思う。
「勇者様ぁ~お待たせしましたぁ♪さあ奥の部屋に温泉がありますから汗を流していきましょうよ~」
「お疲れ様でしたお姉ちゃん」
現在のパーティは、私レベル1とお姉ちゃんレベル×××のペアなのです。
これまで様々な冒険をしてきたのですが、世界最強のお姉ちゃんが私に来るであろう全ての攻撃を受けつつ敵を倒す………確か【自動攻防】って言ってたかな……で護ってくれている。
それだから勇者である私はお姉ちゃんの邪魔に成らない様に、これまで自動攻防の確定範囲内から出ずに、ひたすら戦闘経験も経験値もボス討伐クリアボーナスも入らないがお金だけは受け取っている。
笑顔で拒否されますが、この際お姉ちゃんに勇者の権限を全て讓渡したいくらいです。
「ここの温泉は疲労回復や美肌に良いって評判なんですって~楽しみですねぇ。勇者様ぁ」
首のないヒドラの肉塊を横目に、頷くのがやっとの私は勇者としてどうかなって思う。
部屋の奥の扉を開くと大量の湯気。
六尺あるお姉ちゃんはその長身に女性的な肉体美を誇り、まるで大型の猫科の様な不思議な色気がある。
一緒に街に出たり食事を楽しんだりしても異性の目を引く様で声を掛けられたりしてます。
「……さまぁ~勇者様ぁ~どうしました?硫黄の臭いに参っちゃいました?」
「ごめんねお姉ちゃん。……金糸雀がね」
「………カナリア?」
「ううん……何でもない」
天然の露天風呂。
鍾乳石や岩の殆どにヒカリゴケが生えていて魔法光無しでも明るい。
何より温泉の湯は少々微温い程度になっていて凝り固まっていた筋肉が緩和していく。
「ふあぁぁぁっ」
「……勇者様。可愛らしい声ですね」
温泉には、私達二人しか居ないから当然間の抜けた声は筒抜けな訳で………。
「ヒドラの頭だけ有りませんでしたけど……」
「今回のミッション達成物品が【ヒドラの生首】でしたから………焼酎に漬けてありますわぁ」
「……そう」
毒素の強い【ゴーゴン酒】は滋養強壮に良いって近所のおじいも言ってたなぁ。
ヒドラ酒も同様なら今度呑ませて貰おう。
「ダメですよぉ~勇者様は未成年ですからぁ~ね。お酒はメッですよぅ」
それに今回は私用の物では無い……依頼主の注文でもあると彼女は付け加えた。
「戻ったら雇い主が披露宴を開くみたいにだからぁお腹一杯ご飯が食べれるね……たのしみぃ」
「お姉ちゃん……その前に礼服なんてどこかで借りれるの?」
「えへへ……知らなぁ~い」
露天風呂で逆上せそうになりながらも礼服をどうするのか考えるのだが、結局館の主人から礼服を借りた。
礼服を着た私に興奮したメイド服姿のお姉ちゃんが暴走して披露宴参加どころの話では無くなったのは、また別の話である。
現在リハビリ中。
何となく『その1』と付けていますが気分次第なのでどうなのでしょうね。
お姉ちゃんのレベルは×××なので完全にBUGっている仕様です。
お姉ちゃんの過去話もある程度設定では出来ているのですが……そのうちにですね。
ではまた。