クラス委員長と副委員長のSS
その1《はじまり》
新学期が始まりインフルエンザで1週間寝込んだ。
たかが一週間されど一週間。
昔話『浦島太郎』では百年たって別世界だったと語っていたけど、学生である私とて同じである。
一週間後の教室はチラホラ見える新たな仲間の完成とクラス委員長の名前に私の名前があったことだった。
「ねぇ!私が休んでる間に何があったの?」
クラス委員長なんか熨斗を付けて返したい!
誰かの策略に嵌められたとしか思えない!陰謀論を称えるし泣くぞマジで!
「え~色々決めたら委員長枠だけ余って……ホラ」
「センセが『じゃあ暫く休んでるし悪目立ちも抑える為に……』って名前書いてた」
一教師としてどうなの!?
「………わかったわよ!んで副委員長は誰?アンタ?」
「違うよぉワタシ図書委員だしぃ」
「じゃあ……」
隣を見る。
「えっ!アタイじゃないよ!柄にもない。体育委員だって……ほらコレから委員会でお姉様と一緒に仕事出来るじゃん」
「体育委員長ってあの無口の?」
「そこが……」
「クールで素敵なんでしょぅ」
「最後まで言わせろよぉ~」
私は後ろからの気配を感じて振り返る。
野暮ったく伸ばした前髪以外は、校則に準拠した面白味のない女生徒が立っていた。
その2《副委員長って地味系》
クラス委員長になってから放課後教室から足を運ぶのは少なくなった。
私が望んで受けた役職では無い。
要はやる気が起きなかった。
午後の授業が終わると大体軽音部室に行きダベったり携帯ゲームをしたり、時間つぶしにアチコチ遊び歩いていた。
「あっ……ノート忘れた」
日もすっかり落ちかけ夕日の赤さが空を染めている。
運動部も片付けを始めてる時間だ。そんな中私は教室にノートを取りに戻った。
教室に戻るという行為が私にだって理解出来ている。
仕事をサボって遊び歩いている事実はココロがちくちくするのです。
「流石に居るわけないよな」
教室ドアのガラスから中を覗くと副委員長はうず高く積まれた紙をステープラーで綴じている。
辺りに他人の気配は無く。
彼女が扱うステープラーのパチンパチンと鳴る音が響いている。
私は今までの行動に無性に恥ずかしさがこみ上げてくる。
扉の前で深く息を吸いこむ。
「よし」
ソレを掻き消すようにわざと大きな音を立ててドアをガラガラと開けた。
「あぁもう。仕事有るなら誘ってよ」
「……わたし放課後は特に用事無いし……委員長みたいに部活とかやって無いから」
私だって帰宅部だし。
「ステープラーまだある?」
彼女の前に椅子を置くと一緒に資料を作り出した。
教室内に二つのステープラーの音と紙を擦る音がする。
「……でも良かったぁ。わたしトロイから委員長が来てくれなければ夜まで終わらなかったかも」
そう言うが否や眼鏡を外しお下げ髪を解いた。
緩くウェーブの掛かった髪と眼鏡を外した彼女の素顔に見とれてしまった。
「……いい」
「どうかしました?」
私の視線に気付いたのか照れ臭そうに聞いてきた。
「普段からもお下げ髪やめて眼鏡外してればいいじゃん。すごくいいと思う」
「眼鏡は無理かな……これ無いと全然見えない。でも委員長が悦ぶならお下げ髪は辞めてもいいかも」
「うんそう……」
私は『そうしなよ』と放つ言葉をだだ呑み込んだ。
「……やっぱり似合わない?」
「そんな……そんな事……無い。すごく似合ってる!」
今まで地味系だった彼女のイメチェンは本来喜ばしいのに、何故か素直に喜ばない私が居る。
なんだこの気持ち。
その3《私、クラス委員長真面目にやってみる》
クラス委員長としての仕事もイベントとか行事が無ければ日直と大差無かった。
他のクラスがどうかは分からないが、ズボラで無責任が、服を着て歩いているような担任の雑務の押し付け先がクラス委員ってだけだ。
最初は共通の話題とか無いと思っていた副委員長とも段々会話も増えていき放課後二人でやる作業はいつしか私の楽しみに変わっていった。
「……1コースと2コースどっち?」
最近は放課後堂々窓際で二人向かい合って作業する事が多くなった。
単純労働は飽きも早いので、丁度この窓からは陸上部の練習が見えるからどっちが速いか賭けをしながら作業を進めた。
百メータのコースには1コースの短距離の上級生と2コースの新人だった。
「副委員長はどっちに掛ける?」
「賭け事は苦手なんだけど……」
「なら勝ったら何でも一つ言う事を叶えるならどう?」
彼女は少し考え、陸上部の新人に掛けた。その時の彼女の口角が上がっていたのは何故だろう。
「始まったみたいね」
「……そうだね」
短距離走は始まり、ほぼ同時に走り出した二人の選手の差は無かった。
………はずだった。
「いけー!がんばれー!」
「がんばってー!」
私の応援空しく、新人の後半の伸びで賭けは負けたのだ。
「あちゃあ~負けたぁ」
「……わたしの勝ちですね」
夕日は徐々に影を強くしていき互いの輪郭がボヤけてくる。
ただ勝ちを言う彼女は微笑だった。
「ん~何でもって言ったけど、あまり高いものとか無理だし……学生だし」
私の今月の小遣いがピンチだとそれとなく付け加えた。
「お金は使いませんが、お願いともう一つ賭けをしませんか?」
「……賭け?」
私の答えを待たず彼女は自然な流れで抱きつき背中に腕を回していた。
「…………抱きしめてもいいですか?」
「もう………抱きしめてから言われても……断れないよ……ズルイ」
副委員長は近くだと私より少しだけ背が高い。私の方が少し上目遣いになるのが少しだけくやしい。
「それで………次の賭けは?」
早く賭けの内容を聞かないと、すぐ近くの唇に吸い込まれそうだ。
「そうですね………賭けは、どちらが先に目を反らすかにしましょうか?」
「………わかった」
背中にあった彼女の手の感触が下に下がり腰の括れで止まる。
片足が私の脚の間に割込み二人の距離は更に近づく。
少しバランスが悪くなって僅かでも距離を取るか、脚を開くしかない。
距離を取るにも腰に回った腕は意外にもふり解けない。
腰をモゾモゾするくらいしか出来ない。
ただ腰を動かすと彼女の脚は更に奥に入る。彼女の太腿が私の敏感な部分に当る。
私に出来ることは彼女の肩に手を乗せ軽く見上げるだけだ。
「んっ……だめぇ……だめぇ…」
「どうしたの?こわい?」
そう、私は彼女の太腿が擦れる感覚と慈悲に満ちた視線に恐怖した。
このまま続いたら戻れなくなりそうだから………こわいのだ。
「怖いならわたしにもっと抱きつかないと……ね」
彼女の体臭と体温で上手く考えがまとまらない。言われるがまま素直に彼女の首の辺りに腕を回す。
___唇が近い。
ああ……ダメ。
近づく唇に合わせて私は目を閉じた。
その4《私……しちゃったんだ。キス》
夕暮れの教室で私達はキスをした。
彼女はどうか分からないが、私は初めてだ。
ファーストキスは恋人と……って乙女丸出しで思っていたのだ。
「………夢じゃないんだ」
今私は私室の寝台の上で寝そべり唇に指を這わせている。
賭けがどうこうよりも副委員長としてしまったことに嫌悪と真逆の気持ちだった事に驚いた。
「あぁ……どうしよう」
放課後になったら副委員長と顔を合わせる。
昨日の事を絶対に思い浮かべちゃう。
彼女を思い浮かべるだけでニヤニヤが止まらない。
そんな事ばかり考えていたら午後の授業が終わってしまった。
「………ねぇ………ねぇ」
ダメだぁ副委員長の私を呼ぶ幻聴が聴こえる。耳が幸せ過ぎでダメになっちゃう。
気付くと私は副委員長に手を掴まれて廊下を歩いている。
「ねぇ……何処に……行くの」
「屋上」
手を繋いで引率されて屋上に着く。
いつに無く真剣な副委員長。
お下げ髪を解き、眼鏡を外す。
「昨日の賭け……買ったわ。……私」
「………そうだったんだ」
「それでね。……どう思ってる………私のこと…………好き?」
真剣な彼女。
同性に向けて告白するのがどんな事か私にも解る。
だから………
向き合わないと!彼女の為にも。
「私を好きになってくれてありがとう」
「同性……女の子同士の恋愛ってした事無いから良く分からないけど……経験あるのですか?……副委員長?」
彼女は横に首を振る。
「……めて………わた、しも……はじ……めてだから。でも。でも……昨日抱きしめて自己完結するつもりだった。胸に仕舞うつもりだった。……出来なかった……キスして勇気でたから」
感情が溢れたのか、副委員長は笑顔で涙を流している。
それでも私は副委員長を綺麗だと思った。
「お願いします。クラス委員長がどう思っていても構わないから。このまま好きでいさせてください」
私は彼女の願いには答えられそうにもない。
「ゴメンね。そのお願いは叶えられないよ」
副委員長は私の横を抜けて逃げようとするが、腕をつかみ背中から抱きしめる。
「最後まで聞いて!お願いだから。副委員長一人だけで好きにさせないから……私も好きだから!一緒に!二人一緒に好きでいようよ!」
インフルエンザに掛かってました。
今回はショートを何本か詰めた感じでの作りにしてみましたがどうでしたか?
ではまた次回