二人はワタシ。正月明けの私とワタシ。
携帯の着信履歴には自身の番号が残っている。
それはクリスマスイブの前には脳裏を掠める事すら無かった。
『クリスマス、年末年始にゲーム三昧は珍しかったけど』
TV電話の相手は不満がありありなのが見て取れた。
理解はしていたが、クリスマスから今日まで何処にも出掛けずにシザーマンと戯れていたから怒るのも無理も無い……のかなぁ。
「あっ!………くそ!」
モニターに映る少女の体は鋏男の巨大な刃で真っ二つになっていた。
『ゲーム終った?丁度いいから出るよ』
「……出るよって何処に?私用事無いよ!?」
片手を額に当てて首を振る。少々オーバーな動きだが、それだけ彼女は不満なのだろう。
『何時迄も正月気分で干物女になんかで居させるものですか!』
「えぇ~折角のお天気に家でゴロゴロしないと勿体ないよぉ」
『御託並べる前に買い物に出るよ!……全く確りしてよね!仮にもワタシなんだから』
電話の相手は私自身、それもかなりポジティブな感じで仕事出来る雰囲気がある。
今の私が憧れて成りたかったけど無理な姿。
自分自身として自分に嫉妬するくらい彼女は綺麗だ。
『何!?ワタシが綺麗?……当たり前だ!お世辞言ってる暇があるなら着替えて出かける準備をしろ!!三十秒だけ待つ!』
「出掛ける出掛けるって予定は何処に行くのよぉ」
ドS!私のドS!
『まずは見た目!!服装から髪型まで今日一日で大変身するよ!』
「えぇ~嫌だよぅ。服を買いに行く服無いって!!」
店に行ったら絶対店員に『ウチの商品に触らないでくれませんか、貧乏が移りますし他のお客様に迷惑ですから』『寧ろ帰れセンス零女!』etc……言われるに違いない。あぁダメだ心が折れそう。
『………おい!被害妄想はココロの中だけにしてくれ!声になって漏れてるぞ』
「だって……」
『今日一日の禁止ワード〈でも〉〈だって〉の使用を止めろ!』
「でも……」
『〈でも〉禁止!どうせ〈私には似合わないし!〉とか考えてるんだろ?……ならどうよ!ワタシの服装はどう映る?』
縦セタは躰のラインがハッキリ分かるのにイヤらしさは無く寧ろデコルテがスッキリしてる分気品がある。
『スカートはこんな感じ』
画面が小さくマキシ丈のスカートだと思う。腰周りがスッキリして脚のラインが長く見える。全体的に細身で長身で無いと着れないのだが画面の向こうの私は着こなし自分らしさを出している。
「無理だよぉ。私はアナタみたいにお洒落なんかしてこなかったし……」
『うっさい!ゴチャゴチャ言うな!ワタシが似合うなら貴女も似合う!ソースはワタシ!』
そもそも貴女と私じゃ住む世界が文字通り違うんだってばァ。
結局箪笥を引っくり返して、服を買うための服選びをさせられていた。
『ハァ………全くセンスの欠けらも無い変な柄のシャツやトレーナーは誰の趣味なの?』
「……お母さん」
仕送りにいつも入っているシャツとかの類い、センスの欠けらも無いそうですよ。お母さん。
『………まぁこんな感じかな』
結果残ったのは、調子こいて購入して殆ど脚を通さなかったスリムジーンズや奇抜な色合いが恥ずかしくてプレゼントでも使えなかったストールとか箪笥の肥やしが手元に残っている。
言われるがままに袖を通す。
「へぇ………」
『お洒落するのも結構楽しいって思ったでしょ?』
彼女の言うとうり、ファッションを楽しむ事は確かに今まで無かった。
でも姿見に映る私はほんの少し笑顔だ。
『じゃあ買い物に行こうか』
「……あまり高いのは……」
『今月ピンチなのは知ってるから、着回しのきくのに絞るからね』
家から指示を出すだけかと思っていたが、彼女も一緒に買い物に付き合ってくれた。
ウニキュロで二時間迷って買ったのは黒のスリムジーンズ1本だった。
「……ごめん」
『なにが?』
「折角見立てて貰ったのに……」
『気に入ったんだろ?』
「……うん」
『似合っていたよ』
「ありがと」
買い物に出掛けてから、私は〈でも〉〈だって〉を使っていない事に気付く。
彼女の言葉は私のココロにスッポリと納まる。
逆に私の言葉は彼女を傷付けてる。
自分に素直になれた。
『あっそうだ。折角だからパンケーキ食べて帰らない?アナタの奢りで』
「……幾らよ?」
『ん?1500円のトロピカルパンケーキ』
「高っ!私が高所恐怖症だって知ってるでしょ?」
『アナタのは高所って値段の高い場所が苦手なだけでしょ!』
やっぱり彼女は私には意地悪だ。
でも一生懸命な彼女はとても優しいのかもしれない。
前より自分が好きになれた。
これも自己愛性パーソナリティ?
新年あけましておめでとうございます。
本年度も宜しくお願い致します。
前回、ノーパン少女の続きと言ったが………ブラフだ!