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二人は私。

 暇だ。

 暇だ暇だ暇だ。


 ついこの前までソシャゲマシンと化していたスマホは、


『課金するのも馬鹿らしくなった』


 この一言で活躍の場を失い備え付けの時計となっている。

 だからといって四六時中時計を気にして生活しなければダメなほど規律正しい生活をしてるワケでもない。


 聞くところによると孤立する時間が長い者ほど、酒や煙草にのめり込むだそうだが、私は下戸だし煙や臭いに過敏でいわゆる例外だ。

 スマホに目をやると機械も暇だったのか画面を暗転したままお休み中。

 電源を入れる。


 着信1件。


 自分の番号だった。


「詐欺か何かなら、成りすましメールだよな」


 超絶に暇だった。

 それが良かったのか悪かったのかリダイヤルに指は動いた。

 通常なら自分の番号に電話を掛けてもツーツーツーの和中音が流れるか切断されるのが定石。


 トゥルルルル。


 鼓膜に響く馴染みの発信音。

 どういう理由か分からないが、この世界に同じ番号の電話機が存在している。

 コール音は三度ほど続く。


『……私だ!』


 声色は高くも無く低すぎて聞き取りづらいワケでも無い。

 どちらかというと馴染んだ声だ。


 ___女の人?


 何となくそう思った。


『イタズラか?………切るぞ!』

「………待って!」


 咄嗟に引き止めたが、もし詐欺等の何らかの犯罪だとしたら軽率だったか?


『この番号。私の番号をドコで知った?言え!』

「悪いですがこの番号はアナタだけの物では無いんですよ!」


 一応相手にも着信の件や同番号通知である事を伝える。


 電話の向こうの人は大柄だが別段嫌な気がしない。

 不思議と好感はあった。

 スピーカーからは少しの間無音、通話が終了したのでは無さそうだ。

 微かに聴こえるクリスマスソング………しかし外出先で通話してる様子は無かった。


『なるほど!面白いじゃないか!』

『つまり世界の何処かに居る同じ番号を持った二人がたまたま日本に存在したと君は言いたいんだな?』


 __ふむ。


 何とも話が早い、相手はまるで自分と話しているみたいに思考がスラスラと読まれている気分だ。


『すまないが、事態を最大限に愉しみたいから地名や人名等の特定出来るのは辞めて貰いたい』

「いいですよ」

『自宅からか外出先か知りたい』

「………自宅です」

『良かろうコチラも自宅で外は快晴だ』

「コチラも天気は一緒で外には引率の先生が子供達を連れて歩いてますよ」

『そろそろクリスマスだけど約束とかあるのか?』


 私は人と関わる事が苦手なのだ去年もクローゼットに締まっておいた〈クロックタワーセカンド〉でシザーマンと楽しく屋敷中で隠れんぼしていた。


「………多分今年もゲームしてクリスマスも大晦日も過ごすよ」

『まぁイベントを観に行っても諍いが止まらないから、私も今年から家に居るとしよう』


 さっきまでの言葉の硬さが取れた彼女の声に安堵して思わず笑みがこぼれた。


『何がオカシイ?』

「ふふふ……だって自信家のアナタにしては随分と素直だから」

『私だって変だとは思うが、何故かキミ相手には素直になってしまう』

「………あのね実家の近くに小さな児童公園があってね。大きな木の下でいつも遊んでいたの」


 ある日強い風も吹いていないのに木だけが大きく揺れていた。

 微かに聞こえる『みゃあみゃあ』と鳴き声。

 〈降りられないだよ〉

 誰かが言った。

 それで私は……


「私は………どうしたのだろう……」

『子猫を助ける為に無棒にも木によじ登りもう少しで手が届きそうな時に恩知らずな子猫は私の頭を踏み台にして地面に着地。私は落ちて怪我をして母に叱られた』

「………なんでアナタが知ってるの?」

『さぁ私も似たような経験をしただけだ』


 本当にそれだけなのだろうか?


 こうなると流石に気になるのは名前と所在地である。

 初対面の人であるのは変わらない。


 ___どうする?


「…………あのね、テレビ電話出来る機種?」

『あぁ無論出来る。まぁ待ってろ』


 ツーツーツー。

 今度は回線が切断された音だ。

 不思議だったが布団の上に横になる。

 だがそれは叶わなかった。

 スマホ画面にはテレビ電話の申請が来た。


「早いなぁ。5分も経ってないのに」


 許可を出すと小さな画面には如何にも仕事出来ます系の女性がいた。

 画面が小さすぎて分かりづらいけどストレートの手入れした髪。

 自分を最大限に引き出すコーディネートにバッチリメイク。


『よぉ!これ私の名前』


 画面全体が真っ白になる。


「近い近い」

『スマンスマン』


 丁度見やすい位置に紙がくる。


「………えっ」


 そこには私の名前が書かれている。

 同じ番号。

 漢字も同じ同姓同名。


『キミ、いくら何でも人前でスウェットは無いわ~』

「………」

『どうした?私が美人過ぎだからって落ち込む必要無しだからな~』


 まぁ使い古したスウェット姿の私と違ってるけど……。


「……けど!私と同じ名前ってどういうこと!」

『まさか同じ番号で同姓同名の二人って何処のSFだよ!本気か?』

「あぁ。信じられないけど本当だ!」


 私は免許証を財布から出すとカメラに向けた。


『………信じられない!』

「だろ?同姓同名で同じ番号ってなんだろうね」

『違う!……一緒なんだよ!』


 さっきまでの横柄な態度と打って変わって少しだけ声が震えている。


『一緒なんだよ。運転免許証の番号。しかも再取得の末尾の1まで一緒なんて有り得ないんだ』


 キミは誰なんだ?………そう彼女は言った。

 彼女が私ならワタシは誰なんだ?


『そして住所も同じ……違うのは証明写真だけだ』


 彼女はスマホを持つと部屋の中を私に見せてくれた。

 彼女の部屋はベッドや装飾品等はシンプルなモノトーン系で纏められている。


「おねがい窓の景色もみせて」

『面白い物なんか無いぞ』


 窓から見える建築中の公営団地。近くにある建築事務所。その先にある銭湯の煙突。


 ____間違いない。


「………ねぇ見て欲しいの」


 私も窓の外を映す。

 建築中の団地。プレハブ。銭湯の煙突。園児達が引率されて歩いた道路まで細かく映した。


「………どう?分かった?」

『私とキミは同じ部屋に住んでいると言いたい訳だな……面白いじゃないか』

「おかしいとは思わないの?」

『ん!?元々現実世界の物理は不条理だ。アリはどんな高さから落としても死ぬ事は無いし、人間だってある程度の高さから落下しても一定の速さ以上にはスピードは加算されない』

「そういう事じゃ無くてねドッペルゲンガーって知ってる?」

『自分と同じ顔をした奴に会ったら死ぬって話だろ?生憎私は現実主義でドイツ人では無い』


 やっぱりと思えるほど、良い意味で狂人な彼女。


『それに私達はドッペルゲンガーみたいな不安定であやふやな関係では無い!同姓同名の何もかもが同じ人間でありながら………』


 一番近くに居る兄弟以上の関係(・・)なんだから。

 そう彼女は言った。


「アナタは怖くないの?」

『私はこんなにも満ち足りた気分は初めてだ!』


 私と彼女の不可思議な共同生活が始まった。

ノーパン少女の続きを楽しみにしていた方はゴメンなさい。

クリスマスぽいのを上げようとしたのですが、こんな形に。


では。

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