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夏休み明けの出来事

 夜、目を閉じて翌朝には世界が変わって欲しいと願った事は無いだろうか?

 私は現在進行形で願っている………願わざるをえない状態であると伝えた方が正しいのかも知れない。


 きっかけは夏休みが明けて気分一新に席替えをしようとHRで決まり副担任が用意したくじ引きを引いた事がそもそもの原因である。

 私は『H4』を引き窓際後列の二番目とベストポジションを得た。

 右隣の人に挨拶をしようとする。


 ___ダレダ?


 夏休み明けで髪型を変えたりメイクを覚えて変身したり、誰かと付き合ったりして急に大人っぽくなったりする人はいる。

 しかし隣の女生徒は遥かに超越している。


 ___一体誰だよ!褐色の肌は分かる!少々日焼けしたかなぁなんて考えもおきる。しかし銀髪とエルフ耳は何だ?コスプレか?


 隣の女生徒に他の生徒は普通に話し掛けている。

 以前からクラスに居たのかも知れない。………私だけ知らなかっただけ?


「………今日からヨロシク!」


 私は引き攣り大量の汗を出しながら笑顔で言えたはずだ。

 そもそもエルフさん(仮)に日本語が通じるのか不明だったが……。


「よろしくね。………ところでじっと見てるけどワタシの顔に何かついてるのかな?」


 そんなに凝視してたかなぁ?


「夏休みどっか旅行に行ってきたの?」

「家族旅行でグアムに行ったんだけどね。日焼け止めを当日塗り忘れて空港ついたら少し焼けちゃって……やっぱり変な焼け方してる?」

「………大丈夫だよぉ変な焼け方してないよぉ」


 ____焼け方なんか気にならないくらい褐色だよぉぉ!


「………よかった♡」


 本当に嬉しいのか耳がピコピコ動いている。

 動くって事は………エルフ耳は本物?触って見たい!


「………ねぇ髪の毛なんだけど…… 」

「さっきも生活指導の先生に『なんだ?色気ついて髪を染めたのか?』って注意されてね………家族旅行で海で遊んでたら色が少し落ちちゃったって話したのに中々信じて貰えなくって」


 ___もうその銀髪は少し落ちちゃったってレベル遥かに超えて脱色か染髪レベルですよ♪


「あっ!授業始まっちゃうね……また休み時間にね」

「………うん」


 結局午前中の授業も午後の授業も、嬉しかった窓際で外を見ることも無く私は隣の女生徒ばかり見ていた。


 切れ長の眼に筋の通った高い鼻。薄い唇。そこに掛かる銀髪はまるで欧州の童話から抜け出たと思える程に美しくて溜息が漏れるほどだった。


 それから一週間私は毎日エルフ耳の彼女に挨拶をしてつまんない事でも話しかけて、移動教室も一緒の班になって自分でも少しは仲良くなれたって思えてきた。

 そんなある日私は自分の耳を疑ったのだ。


『………生徒会長と付き合ってるって………本当 ?』


 事実無根とはいえ他の誰でもないエルフ耳の彼女に聞かれたのが辛かった。


「………あ、あのね………」


 私は『生徒会長とはなんにも無い!』『噂は事実無根だ』と伝えたかったが、クラス代表に会話を遮られ校内放送で生徒会長に呼び出された。


 しかしこの時私は史実無根の噂話を生徒会長の口から『付き合ってる事実は無い』と否定的な言質が取れれば噂話は終息すると思った。


 例の噂もあり生徒会のある西楝に行く途中幾人かに冷やかされての移動だった。


 生徒会室のドアの前で深呼吸をして扉を叩いた。

 室内からの返答を聞いて扉を開けた。




 《漆黒の令嬢》

 《黒衣の天使》

 《学園高校の弥勒菩薩》

 ………etc、etc。


 生徒会長の容姿を含め数多の噂があり、共通して言える事は『生徒会長は見る者の心に左右される』というものだ。


「弥勒菩薩って知っているかい?」

「いえ……良くは知りませんが菩薩というからに女性なのでしょうか?」

「残念ながら性別については『さぁ?』としか答えられないが、菩薩は別に女性だけを指すものでは無いのだよフフッ」


 生徒会長は長身で華奢な体躯で誰もは初見で弱々しく思えるが、一度彼女の黒曜石の様な漆黒の瞳に見つめられるとギリシャ神話のゴーゴン三姉妹のメデューサに対峙した様に身体の自由を奪われるときいた。

 私も単なる噂話の一つとして捉えていたのだが実際会って見るとその穏やかな挙動に目を、そして涼風の様な声に耳を奪われいる事に気付かなかった。


「………話は逸れてしまったが、今回キミにお越し戴いたのには理由があって……多分噂話で耳にしてるとは思うが」

「私と生徒会長がお付き合いしているってデマの事でしょうか?」

「…………やはりキミの耳にも届いていたか…………」


 一瞬済まなさそうな顔をした生徒会長を視認して私自身安心した。誤解が無くなる。


「………では生徒会長からも私とお付き合いしてる事実は無いってお口添えして頂けませんか?」

「あぁ……確かにキミとは『お付き合いの事実は無い!』……それは『いずれそうなる』と着くがね」


 私は油断したのだろうか?

 気付けば利き手は会長の手に掴まれ顎を摘まれた状態で固定されていた。

 身動きが取れない私のせめてもの抵抗は視線をそらすだけだった。


「………人と話す時は相手の目を見なさいって教わらなかったのかい?イケナイ娘だ」


 そう言われて私は素直に生徒会長の眼を見てしまった。

 虚脱感。

 全てを見透かされて全身の神経を奪われたと錯覚する。


「キミには恋人は居るのかね?」


 その答えに『いいえ』としか言えなかったが、脳裏には隣席の褐色の少女がよぎった。


「………それ………でも………す、好きな人は………いま…す」

「ほぅ!此処には私とキミの二人しか居ないから想い人の名前を教えてはくれないか?」

「………それは………」


 隣席の褐色のエルフだと言えたらどんなに楽なのだろう。しかし彼女の容姿を正しく判断しているのは私だけだし……口止めはされていないが秘密なのと、言っても信じては貰えないだろう。


「………言えないか。その程度の想い人なら臆する必要も無い!」


『なら私を好きに成ればいい』その言葉が頭に響いて唇にマシュマロを充てられた様な柔らかさと微かな甘味が流れてくる。

 生徒会長から離れようと努力をするが唇から甘美な毒が流れ込み全身の力が抜けていく。

 利き手の力が抜けた事を確認した会長は両手で私の耳を抑えて外部の音を遮断した。

 抵抗をするのを止めた私に追い討ちとばかり会長の舌は最後の砦の歯を簡単にこじ開けて奥へと進軍して来た。

 それは自分の舌で舐めても感覚が無いのに他者からの行為にはあっさりと敗北してしまう感じ易い身体を認識するには充分だった。

 上顎に舌が触れた時に脳がスパークする。

 おかしな声を上げそうになる。

 益々力が抜けていき支えて貰わないと立ってる事すら出来ない。



 心臓に冷たい杭が刺さる。


「………酷い人ですね」

「………酷い?」

「私、初めてだったんですよ」


 こんな………こんな一方的なキス………私、認めたく無い!


「別に自慢するワケではないけど、生徒会長って立場を除いても私と付き合ってるって事実はキミにもメリットはある」


 会長は私の右手首を両手で掴むと自身の胸に充てがう。

 フワリとした柔らかさと暖かみが掌に広がる。


「こう見えて着痩せするほうでね。水着姿でキミの隣に居て恥をかかせる心配は無い………寧ろキミが望むどんな私になれるつもりだ」

「会長は……会長は今のままでも充分素敵です。美人だし………頭もいいし……それに会長にはファンクラブもあるんですよ?」

「知ってる……しかし、それは私への評価であって、キミにとって私へのメリットには成らない!………それにキミも少なくともモテる存在だと思っていて欲しいがね」

「モテる?私が?」

「あぁ、少なくとも私にはモテモテだ」


 すっかり忘れていたけど会長はいつまで胸を触らせるつもりなんだろう。


「………もぅ離しても良いですか?手を」

「私は一向に構わないがね。寧ろ直に触って貰いたいくらいなんだかね………どうだい?」

「少しは恥じらって下さい!」

「恥じらってキミをモノに出来るなら幾らでもする。私は使える武器は惜しまないで使うつもりだ。キミは他の誰かを追いかけるんじゃなく、誰か……いや、私に愛されるのが一番幸せだと理解しろ」


 生徒会室から教室に戻ったが午後の授業は全く頭に入らなかった。



 それよりも、二学期に入って私は初めて隣席の女生徒を見ることが出来なかった。


 ____私………汚れてしまったんだ。


 人差し指を唇にあてて溜息は窓の外へ流れて行った。



お久し振りです。

結局、リハビリをしないと無理な状態になってしまいました。

隣席のエルフの少女も、生徒会長の事も解決してませんね。

しばらく感覚を取り戻す作業をしないとですね。


では。

今度は早くお会いしたいですね。


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