アタシの母と幼馴染み。
「今度の連休、町内会で旅行があってね。温泉に行くことになって」
お母さんはアタシが知る限り嘘から縁遠い存在だ。
困り事があるとすぐに眉を八の字にする。
コレは嘘を言っている顔だ。
「いいじゃない偶には世情の垢を落としてくるのも悪く無いわ。次いでにアイツも捨てて来ちゃってよ!うふふ」
こんな事を言いたい理由じゃ無かったけどアイツに拒絶されたからには、暫くはアタシのココロがもたない。
お母さんが続け様に何か話していたけどよく聞き取れなかった。
「………友達を悪く言うものじゃないわ」
アタシの脳裏に浮かんだのは体育倉庫で本気で嫌がり泣き出した顔。
「アイツは友達じゃ無い!」
後は自分でも何を言ったか記憶に無い。
ただケジメを付けるつもりで大袈裟に笑ってバイバイした。
それは誰に対してのバイバイなのか正直分からなかった。
___
アイツがアタシを少しづつ距離を置いているのは感じていたが気の所為と己に言い聞かせて現実から目を背けた。
学生でもそうで無かったとしても寂しい時に誰かに優しくされたら嬉しくなる。
声を掛けてきたのは委員長だ。
「ねえ今日は一人なの?」
少々意識高い系女子を目指している部分はあるが、学業成績も極めて高く教師からの信頼もある彼女が委員長に成るのは当然の事とクラスの誰もが思っている。
「アタシ独りだと不都合?」
「Non 気を悪くしたのならごめんなさい。でも、何時もどこへ行くにも彼女と一緒だったでしょ?………確かアナタと同じ中学出身でしたわよね」
「委員長もアイツに用なら直接話せばいいじゃない」
アタシ以外とあまり交流を持たないアイツは他の生徒から受けがいい。
お世辞抜きで見た目がいいから少々無愛想でも神秘的にでもとられてるのだろう。
「Bat 残念ながら用事があるのはアナタの方なんだけどね。迷惑?」
「ほう。でもアイツへの恋文は直接渡して。アタシ経由は受け取らないって言ってるから」
過去に手紙を渡す様に頼まれて持っていったらアイツは見もせずに手紙を破り捨てた。
本来なら虐めの要因の一つに成りうる行動だったが、何故かアタシに実害は無かった。
「告白をするなら面と向かってするわ。ただわたし達のグループは………えっと、わたしはアナタと話がしたかったの」
「話し?なんで?」
「同じクラスになれたのにアナタ、何時も彼女と一緒だから」
「別に用があるなら来ればよかったじゃん」
「そういう理由には行かないというか………ねぇ?」
委員長の態度も何だか煮えきらない感じではあったが、アイツと一緒だったから声を掛けづらいって事でいいのかなぁ。
「もし……もし良かったら今日のお昼一緒にどうです?」
「アタシが入って邪魔にならない?」
「邪魔になるなら初めから誘ったりは致しませんわ」
気ままなぼっち飯でも良かったが、折角の誘い断るのも悪い。
友達を新規開拓するのも悪く無い。
「じゃあお昼は委員長の所に?」
「いえ、こちらから伺いますわ。準備してお待ち下さい」
返事をしようとしたが、委員長はスキップする様な軽やかな足取りで席に向かって行った。
そして、授業中に時々アイツの視線を感じるもののその日お昼を一緒にする事は無かった。
代わりに委員長達グループ四人と一緒に食事をした。
「委員長にお呼ばれしてのお昼………宜しくね」
「そんなに固くならないで」
委員長の言葉にお昼に集まった四人はウンウンと頷き思い思いに言葉を付け足していった。
「以前から声を掛けたかったんだぁ」
「ねぇお弁当自作なの?」
「BLとGLならオカズはどっち?」
何かおかしなのが含まれているけど、最後のは聞かなかった事にしよう。
「あんまり同時に質問したら彼女も答えに困ってしまいますわ」
「委員長ゴメン」
やっぱり委員長は頼りになる。
「でも、今日はどうしたの?……ケンカしちゃったの?」
「ううん………違うの。本当に違うの」
「二人の様子いつもと違うから心配なの」
最近アイツの様子が変で、落ち着いて話が出来なかったことを委員長達にアタシは何故か話してしまった。
「そう、私に考えがあるから任せて貰っても宜しくて?」
委員長の案は至ってシンプルな物だった。
次の体育で二人きりになれる時間を作ってくれるとのこと。
体育の授業はバドミントンだった。
アタシはいつもと同じでアイツとペアを組んだ。
今回はダブルスってこともあって自然な流れでアタシはアイツとペアリング出来た。
「………よろしく」
何の反応も無いアイツの態度に掛けた言葉は霧散していった。
「ねぇ、この試合負けた組は罰ゲームをするってどうかしら?」
委員長はアタシにウインクをして合図を送ってくる。
「罰ゲームってあんまり恥ずかしいのはアタシ嫌だよ?」
「学生らしい範疇だからセーフですわ。………そうですわ負けたチームは片付けをするでどうかしら?」
「それくらいならアタシはいいけど、アンタはどうする?」
「………構わない」
「お互い了承も得たのでやりますわ」
最初はコレの何処が作戦だと思ったけど、委員長一人にアタシ達は左右に振り回されて結局最後は自分の垂らした汗をアタシは踏んでスリップ。
委員長は普通に強かった。
体育倉庫にバドミントンのネットとかの道具を全部仕舞った時、扉は大きな音をたてて閉まり鍵が掛かる音が聴こえた。
これが委員長が作ってくれたチャンスだと理解出来た。
でも何を話したら良いか分からない。
時間だけは過ぎ、チャイムが鳴るのが耳に入りアタシは………。
「ダメ!離して!………ワタシ達友達だよね」
アタシはアイツをマットに押し倒していた。本当はこんな無理矢理なんかしたく無かった。
本当にしたく無かったかと聞かれたらハッキリとNoとは言えなかった。
「友達?………アンタは友達と思ってるだろうけど!アタシは、アタシは友達になんか見れない!」
アタシはそのままアイツを脱がせに掛かる。
ハーフパンツに手を掛けた時も、アイツは口では嫌がりながらも協力してくれたからコレは合意なんだと段々気持ちは昂ってきていた。
「ねぇ止めて!ワタシ達友達だよね。友達ならお願いだから止めて!………こんなのおかしいよ!ワタシ達友達だよね……ママ……助けてママ」
「………おかしいのはアンタよね!………この下着お母さんのよね。アンタの処のでも変だけど………ウチのお母さんの下着よねぇ!なんで?………なんでよ!」
なんでアタシ………
「いつからなの?アタシに黙って!」
こんなに怒ってるんだろう?
「………アタシの気持ちを知ってなんとも思わないよね!」
………本当はこんなこといいたくない!でもどんどん言葉が溢れてくる。
「変態!変態!変態!変態!変態!変態!」
でもこの怒り………アイツだけじゃ無い!アイツを奪ったお母さんに………そして素直になれずに、好きだと気づかなかくて幼馴染みを奪われた不甲斐ない自分への怨みだった。
後はどうなったかは分からない………ひたすらアイツを罵倒していたらしい。
______週末は快晴だ。
アタシは早く起きていたが、アイツと温泉デートを楽しみしているお母さんを見たく無かったので家内が静まり返るのを待って食卓に降りた。
用意された朝食を取ると委員長宅へ向かった。
前回の補足です。
幼馴染み視点では概ねできていますが、まだ完成していない委員長視点を先に出しておきたいですね。
では。