白薔薇
新入生歓迎会。
それは学園の敷地を踏んだ未来の淑女達を祝う式典。
そして上級生へのお披露目の意味合いもある大切な儀式。
ここでの式典への参加は新入生、上級生も関係無く等しく同伴者が居ることが条件。
上級生に知り合いがいるものは花束の一員として、一般枠で知り合いがいない者は同級生を同伴者にして参加権利を得る。
これが意味するのは、上級生は知名度や人気のバロメーター。
新入生は今後の学園生活が掛かっているのだからその重要性は高いのも頷ける話だ。
「ねぇ」
私は薔薇園からの帰り道、眼鏡のクール系女子に声を掛けた。
「んっ……いかがなさいまして?」
彼女は同じ1-Aでクラス委員をやっている上に入学式では新入生代表を務めた才女。
そんな女性なら上級生にも顔が利くだけじゃなく同学年にもお誘いはあるはず。
なぜ私なのだろう?
軽い疑問そして同じ制服を着ている筈なのだが大人びて見えるのはどうしたものだろうか。
眼鏡がそうさせているなら私にもチャンスはあるのかも。
「その新入生歓迎会なんだけど」
「心配せずとも私は貴女を同伴者として指名いたしますわ」
彼女くらいの器量なら他にも誘いが有ってもオカシク無いのに………。
「その……何故私に固執するのでしょう?それに貴女の事を良く知らないですし」
「うふふ。随分可愛らしい答えですこと。誰にでも初めては御座いますわ。貴女が初めてと仰るなら私も初めてなのですわ」
別にそれが不思議な事では無いと彼女は告げたのだ。
しかし、私が初めてでは無いと言ったら彼女は何と答えるのだろうか?
「ねえ少々伺っても宜しいかしら?」
「構いませんわ」
「単刀直入に【花園】ってご存知ですか?」
制服の赤いタイが風で揺らぐ。
彼女の表情は驚いた様子もなくただ黙っていた。
「【花園】については誰から伺ったのかしら?」
「姉から大体の事は聞いています」
本当にだいたいしか聞いていないので嘘は言っていない!
それに私は姉が花園から追い出されたのか事実を知りたいだけなの。
「私が【花園】について答える利点ってあるのかしら?そもそも花園なんですから園芸部に聞くべきでは?」
「私もねそう思ってすぐに調べたんだけどね。それがね学園の園芸部って三年前に廃部なったらしいの」
「それなら学園統括部会長なら何かご存知かも知れません」
「学園……統括部?」
「貴女は高等部からの方でしたから馴染みが無いのは無理からぬ事ですね」
【学園統括部】
この学園は小等部・中等部・高等部・大学部がエスカレーター式に設けられている所謂一貫校。
小等部と大学部だけは別の場所に建てられているから中等部入試や高等部入試からの生徒には学園統括部に馴染みが無いのも仕方無かった。
各学部には生徒会は存在している。
では何故統括部を設けているのかは知らされていなかった。
名目上『各学部を統一化する総合生徒会』で親達の信頼を勝ち得ている。
「それで学園統括部は何処にあるのですか?」
「生徒会長なら何かご存知とは思いますが………生徒会には副会長が居ますから行くのでしたら御一緒致します」
過剰な反応のし過ぎとは思うけど、彼女の心配してくれる気持ちは嬉しかった。
「ありがとう。気持ちは嬉しいけど私個人の問題だから一人で頑張る」
「切っ掛けは貴女個人の問題だったかもですが、途中で投げ出されるのは私のプライドが許しません!それに……」
「それに?」
「………似ているのよ貴女」
彼女に抱きつかれて私何も出来なかった。
身長差があるから近くにいると彼女を見上げる形になる。
それに制服の隙間から甘い空気が薫る。
━━━あたたかい、私この匂いスキかも。
「ねぇちょっと!いつまでそうしてるつもり?」
「暫しこのまま……ね」
私は………わたしは、肩の力を抜いて彼女に身を任せた。
体格差もあったし。
友達の頼みだったし………抱きつかれて嫌じゃなかったからしかたないよね。
「新入生歓迎会、私を同伴者にして」
私の胸の赤い薔薇は彼女の手で抜かれ地面に落ちた。
「一緒に行ってくれるならこの白薔薇を受け取って左胸に飾って」
「副会長も貴女も白薔薇に何の意味があるの?」
「飾ってくれたら教えて差上げますわ。きっと貴女もこれで良かったと思いますわ」
このとき私は知らなかったのだ。抱き締められている姿を誰かに見られていたなんて。
そして白薔薇を胸に飾った私を彼女は満足げに眺め。
教室までの間手を繋いで歩いた。
なんとか50回を達成しました。
ありがとうございます。
まだまだ書いていきますから宜しくお願いしますm(__)m
この中って完結してないのが多いですが、基本ショートなのと初期でも書きましたが百合限定の自由帳なので完結はなかなかしないです。
でも継続は力なりといいますか、僕の代表作と思って下さる方もいらっしゃって嬉しく思います。
では。
また。