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花園

 あなたは花園(ガーデン)の噂は聴いたことがあるだろうか?

 もし知っていたら教えて欲しい。

 学園内に秘密裏に存在する。

 どのクラブにも役員にも属さず個人とも団体とも言えない組織めいた何かである。


 私は学園(ここ)へ来る前から知っていた。

 なぜなら1個上の姉がこの学園の生徒だったからだ。


 ━━そしてその姉の口から語られたからだ。


『ワタシは学園にはもう戻れないの………花園(ガーデン)から追い出されたからだ』


 ただ唯一の情報源である姉は現在学園を辞め夜学に通いながら仕事に就いている。

 学園……いえ、花園(ガーデン)の脅威から逃れたにも関わらずソノ事は固く閉じられソレ以降姉の口から語られる事は無かった。

 ただ学園に入学した時に『気を付けなさい』とだけ言ってくれた。


 姉の無念を晴らすべく私は学園に入学してから今まで花園(ガーデン)を探して広い校内を探して廻った。

 教職員や他の生徒にもそれとなく聞いて廻ったが情報に成るような物など無かった。

 そしてこの広大な学園の中を地図にも描かれていない花園を探すのは無理なのだと思っていた。


 ━━━姉を追い出した花園(ガーデン)は何処に?


「ねぇ貴女」


 そんなある日クラスで呼び止められた。

 それは同じ制服を着ているのに大人の雰囲気がある眼鏡の似合う人だった。


「こ、こんにちは私に何かご用でしょうか?」

「今度の新入生歓迎会(オリエンテーリング)同伴者(カップリング)は何方かお決まりかしら?」

「いえまだですわ」


 すっかり忘れていた。

 新入生歓迎会でボッチだとその後の学園生活(スクールライフ)に支障が出るとさえ言われている。

 良家のお嬢様達は上級生(おねえさま)の花束に入れて頂いたり。

 同級生と一時的な同伴者(パートナー)を組んだりしている。

 これは学園がモットーとする。


【博愛の精神】

 この学舎に集う者は皆同じ仲間で天使であり。

 マリア様の前では年令の差は無く等しく愛の恩恵を受けられるものとする。


 これに殉じた長く続いた学園行事。


「………どうかなされました?窓の外に何方かいらっしゃって」

「いえ特には………あっ!」


 窓の外には生徒会役員と関係者しか入ることを許可されていない至高(ロイヤル)薔薇園(ローズ)が見える。

 一瞬ではあったがその中の人影………いえ見間違う筈は無い。


「ごめんなさい!急用が出来てしまいましたわ」

「お待ちなさい!」


 眼鏡の人何処かで会った気がするけど悪いことをしてしまった。

 でもどうしても今確認しなくてはいけないと思ったからだ。


 薔薇園まで足を延ばし先程の人影を探した。


 ━━━━確かに見た。


「今日はいつもより薔薇が美しいから可憐な乙女まで引き寄せてしまった」


 普通の状況下なら間違いなく事故を起こしかねない台詞なのだが、目の前にいるその人は自然に言えても不自然では無いある種のオーラがあった。

 無造作に整えたショートの髪。細くキリリとした目。私より頭二個分高い身長。何より私達の制服に良く似たデザインの白の詰め襟の学ランが中性的な魅力に成っている。


 ━━━学園内に男の人?


 この学園には教員や事務員やましてや生徒の中に男性が入れる筈も無いのだ。


「どうしたんだい?ボクの顔に何かついてるかい」

「あっ………いえ薔薇の花がとても綺麗で」


 彼?彼女?が薔薇の花を一本鋏で斬ると丁寧に棘を外しながら私の近くまで来た。


「君みたいなレディに見初められて薔薇(はな)に嫉妬してしまうな」


 私の胸ポケットに一輪の赤い薔薇が飾られた。

 その流れる様な所作の一挙一動に魅せられている事に気付かなかった。


「あっ………えっ」

「そんなに硬くならないでくれ。ボクが恐いのかい?」


 ドキドキして眼が離せない。


「副生徒会。この娘が無断で薔薇園に入るのを止められず申し訳御座いませんでした」

「君は一年生の総代の………」

「1-Aのクラス委員を務めております」

「そうですか。お疲れ様、ただ彼女はボクの友人として薔薇園(ここ)で話し相手に成ってくれていただけだからね。怒らないでくれたまえ」

「いえ………出過ぎた真似をいたしました」

「そう思うならどうだいお茶でも飲みながら一緒に薔薇を観ていかないかい?此処では良く見えないだろう」


 薔薇園へ招き入れる動作をして私は学園で初めて友人と呼んでくれる人が出来たと喜んだ。


「うわぁ中にテーブルが有るなんて外からじゃ気付きませんでした」


 白のガーデンテーブルとお揃いの椅子設置されていてる。


「腰掛けて待っていたまえお茶を用意しよう」

「ならば(わたくし)が………」


 副生徒会長をクラス委員が呼び止める。


「ゲストをもてなすのは当然の事。レディは座って薔薇を楽しんでくれればいい」


 シズシズと椅子に腰を掛ける。

 副会長が奥に行くのを見届けるとクラス委員は声を抑えて聞いてきた。


「貴女……何時副会長とお知り合いに成られたのですか?」

「つい今しがたです」

「貴女ねぇ!副会長に迷惑を掛けないで下さいませ!」


 私達の目の前にカップとポットが置かれる。


「ボクがどうしたんだい?」

「副会長の制服って少し違いますがオーダーメイドなんですかぁって」

「ボクの体型だとスカートが合わなくてね………だから特注品と言われたらそうかもね」

「雄んなの子キター」

「「オンナノコ?」」


 お父さん、お母さん、そしてお姉ちゃん私……今取り返しの付かない事をした気がします。


「貴女ねぇ学園(うち)に女の子が居るのは当然でしょ?」

「昔からの癖でボクなんて一人称を使ってたから勘違いされたかなぁ」


 この二人が俗世間の毒に染まっていない事実が私を助けてくれた。


「あはははは」


 私の笑い声に二人はビックリしてはいたけど、そこに救いは確かに有った。


「そういえば、もうじき新入生歓迎会だけど同伴者が決まっていないのならボクと行かないか」


 私の目の前に真新しい白い薔薇が置かれる。

 隣に座るクラス委員の緊張が肌に刺さる。

 薔薇を受け取れば副会長、取らなければクラス委員。

 まるで私を巡っての争いにも思えてくる。


 ━━━━新入生歓迎会。これは使える!花園を調べるなら副会長の権力は助かる。しかし先に誘ったのはクラス委員だ。


 私は薔薇を手に取ると副会長とクラス委員の中間に横向きに置いた。

 これが今の私の答え。


「新入生歓迎会にボクは呼んでは貰えんそうだ1-A代表」

「そのようですね」

「何かほっとしている様に見えるのは気のせいだとしておこう」


 椅子から立ち上がり副会長に礼をする。


「何か困り事が有っても………無くても薔薇園に遊びにきたまえ。ボクは大体此処にいるから」


 副会長は私の耳元で『ボクは諦めない』と言い残してクラス委員にも耳元で何かを話して薔薇園へ戻っていった。


「それで副会長に何を言われたの?」

「なんだか『諦めない』って言われたけど……そんなに新入生歓迎会に行きたかったのかなぁ?」

「……そう。副会長には気を付けなさい」


 新入生歓迎会まであと3日。

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