委員長の野望。完結編
期末試験は無事終了した。
彼女の赤点はヤマを教えて点を稼ぐことで避けられたはずだ。
私は自分を労った。
そして約束の金曜日。
家まで来た彼女は少しだけ背伸びした大人っぽい服装だった。
「委員長が何処かへ行くって言うから………変だった?」
「………ごめん凄く似合う。その帽子良いね」
「これ帽子じゃなくて髪止めなの」
拳一つ分の大きさのレースの装飾が使われた帽子型の髪止めは彼女に良く似合っていた。
「貴女は良いわね。私じゃキャラじゃないってか似合わないよね」
「そんな事無いよ。委員長はマスコット的な何かが似合うと思うよ」
「マスコット?」
確実にキャラじゃない。
否定はしたいけど彼女が似合うと言うのだから聞いてみたい。
「ネコとか似合うと思う」
「ネコねぇ。似合うかしらね」
彼女が似合うと言うのだから試したい気持ちもある。
「じゃあ今日はソッチ方面を見に行く?」
「残念だけど今日一日いく場所は予定立ててあるから」
「お小遣いが………」
「大丈夫!私に任せて。但し条件があるの」
「………条件?」
「今日一日返答は『はい』のみ解った?」
これが私なりの彼女へのお仕置きになる。
「解ったけど………変な事はダメだよ?」
「ゴチャゴチャ言わないで!私が嫌がる事したことある?」
「………うん。信じてる」
「手。繋ごう」
私の差し出した手を取る様に彼女の手が重なる。
指と指が絡まる恋人繋ぎ。
「………委員長の手って温かくて私好きだな」
ああぁ………ズルいな。
彼女をこれから罠に掛けようとしてるのに、嬉しくて心が揺らいじゃう。
「私の手………変かな」
「貴女の細くて長い指私は好き」
しまった!
ここで警戒されたら計画事態水泡に帰す。
「あ、ありがと」
「じゃ………出発しよっか」
外の冷たい空気が火照った肌に心地好かった。
午前中に映画を観た。
彼女が苦手とするホラー物。
『CAPスーパーマーケットVS古代エジプト王のチェーンソー』
B級感漂う物をチョイス!
エジプトに新しく見つけたピラミッド遺跡の中を探索する博士と助手が王の間で見つけたものは紀元前に作られたチェーンソーだった。
そのチェーンソーを手にした博士は助手達に襲いかかった。
普段から運動不足の博士は体力が切れてしまい倒れてしまう。
「もう少し研究するために博物館へ輸送しよう」
助手達の反対を押切り博士はチェーンソーを箱に積めて輸送してしまった。
舞台は変わりDIYも扱うスーパーの店長の店に送られた謎の木箱。
木箱は本来国立博物館へ行くはずだった。
しかし粗っぽいトラックの運転で送り状が貼り変わってしまったのだ。
そうとも知らない店長が箱を開けると黄色い埃が倉庫内に吹き出した。
店長は風邪気味でマスクをして埃を吸うことは無かった。
しかし埃は通風口を通り抜けて店内へ。
棚が倒れる音に驚き店長は店内へ。
そこには店員も客もゾンビと化した地獄。
店長は品出しの時に持っていた象形文字が施された黄金のチェーンソーを手にゾンビと闘う。
「この店では俺がルールだ!」
結果店長はゾンビ相手に無双するだけなのだが、B級とはそんなものだろう。
「えっぐっ………委員長のばかぁ。私がホラー嫌いなの知ってるでしょ!」
「所詮作り物じゃない………あっ!」
「なに?」
「チェーンソー♪」
彼女はチェーンソーと聞くたびに抱きついてくる。
お昼をファストフードで軽くすませる。
「変な事はダメだよってお願いしたよね?」
「変な事はしてないよ映画を観ただけだし。ふふふ」
午後は、アクセサリーを見に行って彼女のチョイスで小さなネコの肉球の髪止めをつけさせられた。
彼女とお揃いって事もあり黙って応じることにする。
そして海の見える丘の公園で少し休憩していると時間が随分経ってしまった。
「今日はありがとうね委員長楽しかったよ」
私も楽しかった。
でもこれでは楽しかっただけである。
徐々に街の灯りが点る頃遠くの水面に一艘流れていく。
潮風が肌に冷たい。
「委員長そろそろ帰ろっか」
「少しだけ待って。こう言ったら変だと思われるけど………キスしたことある?」
今の私は赤面なのだろけど近くに居ても彼女の顔があまり良く見えない。
つまり彼女も私の顔が見えないはずだ。
「………あるよ」
胸が締め付けられる。
分かってはいたけどどんな顔をして良いんだろう。
「そう。…………どんなのキスって?」
「私、鈍感だから気付いてあげられなくてごめんね委員長」
私の予想を斜め上を行く答えだ。
「まさか………なんで?」
「委員長は私の事を良く見てる様に、私も他の同級と違って貴女をよく知ってる」
「なら、なんで……」
彼女は椅子から立ち上がると後ろから私を抱き締める。
彼女の二つの膨らみの柔らかさが背中越しに伝わる。
「これから委員長は私の事を真っ直ぐ見れないようにしてあげる」
耳元に甘い息がかかる。
「ねぇこっちに向いて?」
私は少し体を斜めにずらして首を彼女に向けた。
「…………これはね特別な友チュウなの」
彼女の温かさが唇を介して伝わってくる。
舌で彼女の歯茎をノックすると素直に受け入れてくれる。
絡まる舌。
重なり合う二人の息。
それは何時までも続いて欲しいと願った。
でも彼女の唇はスッと離れていく。
「………しちゃったね」
「そうだね」
どうしよう彼女の顔がまともに見れない。
「委員長の気持ち嬉しいけど今は答え出来ない」
「それでも私は……私が好きでいちゃダメな……の?」
彼女は答えてくれない。
沈黙は地獄だ。
「好きでいさせて下さい」
頬っぺたにキスをされる。
「今はこれで我慢して……お願い。明日からは元の幼馴染でね」
その考えは映画の内容よりも、残酷だ。
それでも私は彼女の提案を飲むしか無かった。
こんな事なら幼馴染なんかにならなければ良かった。
「そんな……そんな勝手な理屈飲めない!」
彼女に抱きつくけど黙ってそのままでいてくれる。
「もう大丈夫?」
「ありがとう。待ってる、私待ってるから………」
ただ帰りは行きとは違い無言だったが彼女の手は家に着くまでずっと繋いだままだった。
委員長には幸せになって欲しいけど。
がんばれ委員長になってしまった。
では。