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お姉さんと学生さん5 お姉さん昔語り

  団長を振り切り私はお姉さんを追いかけた。所々肌が出ているあられもない姿ではあったけど気にしてる場合では無い。


『ウチにはもう来ないで下さい』


 お姉さんの言葉が胸に刺さったまま抜け落ちないでジワジワと奥に食い込んでくる。

 痛くて、苦しくて、泣きそうだった。


『シニヨン髪のメイドは学生さんがモデルなのよ』


 真実を知るために孤高に身を置いた彼女の様な強さは私には無い。

 一寸した事で傷付いて勝手に凹んで………バカみたいだ。

 さっきだって覚えたての身体は与えられる快楽に負けて流されるだけで、ろくに抵抗も出来ずに結果受け入れていただけ。


 関係者入口から外に出るとお姉さんの背中が一瞬見えた。

 全力で追い掛けるが一向に距離が縮まらない。

 ただひたすら追いかけるが息が上手く出来ない………心臓が爆発しそうだ。

 お姉さん以外周囲の景色が消える。


 おかげで少しずつ距離が縮まって後少しのところで肩が下がって顎が上がっていた私はその場で力尽きゴロゴロと転がる。

 立ち上がろうとするが指一本動かせない。胃袋から何か逆流しそう。


 待って………お姉さん。話を…………

 ─────

 ────

 ───


 仰向けになって眼を瞑って息を整える。

 もう少しだったのになぁ…………。


 身体が痛む。

 さっき転んだ場所から血でも出てるのだろう。


「………お姉さん」


 今居るはずの無い人の名を呟いた。


「なあに?」


 随分と都合の良い幻聴だ。


「どうして追いかけてきたの学生さん」


 現実だった。

 慌てて体制を変えようとするが思うように上手くいかないゼーゼーといくら空気を吸っても足りない……頭がクラクラする。


「無理して起きる必要は無いわよ。それに用事があるなら電話してくれればいいのに………頑張ってる学生さんにお姉さんキュンキュンしちゃったよ」


 深呼吸をして息を整える……時間は掛かったが何とか話くらいは出来そうだ。


「………えっだって………お姉さんの家に来るなって………言われたから………てっきり」

団長(せんぱい)に何か言われて来たんでしょ」


 目は未だ開け無いからお姉さんの顔は見えない………今どんな顔で私を見てるんだろう。


「学生さんが横に成ってる間、私は独り言話すけど気にしないで」


 私は何か返事をしたかったが………今はすべきでは無い。

 黙って耳を傾けた。


「上京したてで独り暮らしを始めたばかりの私は大学生活は知り合いが居なくて随分と淋しかった………お昼も一人だったから小講堂の隅で弁当を広げて食べてたんだよね─────」




 ────

 ───

 ──



 小講堂は大学校内でも奥に在って授業も殆ど無くて入学してから此処で誰かに会う事なんて無かった。


 私は授業以外の時間は大体此処で過ごしていた。


 お昼を食べてから本を読んだり想った事をノートに書いたりして楽しんでいた。


 その日も判を捺したように何時もと同じくノートに空想を並べていた。


「ちょっと見せて貰っても良いか?」


 油断した。

 誰も居ないと思っていた場所での出会いは驚愕と恥ずかしさが交ざりあって困惑した。


「殺すなら殺せ!」

「あっはっはー♪いきなり殺せとは物騒だね。私はまだ犯罪者には成りたく無いしね♪」


 そう言った彼女は顔のパーツは大きく整っているのにボサついた髪を一本で纏めて見る人には『女棄ててるなぁ』と思わせる風貌なのに快活に笑う姿に私は惹き付けられた。


「名乗りもしないで唐突にノートを見せろだなんて失礼じゃないですか!」

「くくくっ……それは悪かったね。私はね大学(ここ)で女だけの劇団で脚本をやってる二年生さぁ」

「貴女が先輩なのは分かりますが私がノートを見せる理由としては乏しいですね」

「そう?理由が有ったら見せてもいいって事なのね?」


 両手を腰に充てて言い切る先輩。


「何か有るんですか?」

「目的?そんなもの無い!なら逆に見せない理由はあるのか?」

「恥ずかしいじゃないですか!」


 初めて会った人にノートを見せるだけでも恥ずかしいのに先輩(このひと)距離感無さすぎで凄く近くまで寄ってくる。

 何気にいい匂いもする。


「先輩距離が近い………です」

「もしかして気にする方?」


 胸とか太腿とか凄く当たる。

 柔らかくて温かい。


「じゃあキスしよっか」


 キスするのがさも当たり前の様に言ってくるから対応に困る。


「………やっぱり無理だわ。我慢出来ないからゴメンね」

「んふっ………」


 やだ……この人手慣れてる。

 キス一つで身動きが取れなくなる。身体に力が抜けていく。


「やっぱり私の見込んだ通り貴女の脚本凄く面白い」

「返して下さい!」

「じゃあ何の為に書いているの?」


 私には答えは出ていない。

 書きたいから書いていただけだ。


 ──────

 ────

 ───



「………って事があって先輩とは付き合いが長いのよね」

「団長とは正式に付き合ったのですか?」


 私としてはズルい質問だ。


「それがね先輩は可愛い女の子がタイプみたいで私みたいに可愛げの無いのはタイプじゃないみたいよ。一回も好きって言われて無いしね」

「でも、お姉さんは私の前に誰かと付き合っていたんですよね?『最近サヨナラをしてきた』って言ってましたし」


 お姉さんは首を横に振る。


「私から告白したのもキスを仕掛けたのも………学生さんが最初よ!それに長いこと側に居て私をダシにして先輩と付き合う人はダメなの」


 私にとっては嬉しいが団長の恋心はお姉さんに伝わってませんよ。


「学生さんこそ先輩とどんな関係なの?」



 この答えはいたってシンプルだ。


「わかりません、団長に聞いてください」

「………そう」


 次の言葉を聞きたく無かったのか、抱き寄せられて紡ぐ言葉は霧散していった。


 私とお姉さんとの間の蟠りはとけていった。




なかなか百合トークしませんね。


ではまた。

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