お姉さんと学生さん3 ドキドキ
『もっと素直に受け入れなさい』
自分に正直に生きているつもりだ。
ただ素直かと言われると胸が痛む………確かに確かに団長の手の上で弄ばれ感じていた。
もしあの時お姉さんが帰って来なかったら…………私は私でいられたのだろうか?
「はぁっ」
朝から何度目かのため息を抑えようと口に手を当てると団長の事が思い出される。
逃げれば逃げるほど追い詰められて逃げ場を失った。
それでも私はせめてもの抵抗と、口内から追い出そうと努力はしたけど突き出した舌を絡め取られてしまい返って相手を喜ばせる結果になってしまった。
あんな無理矢理………自分勝手な睦事をされて本来怒るべきなのに私の身体は心を裏切って団長からの禁断の果実を欲しがっている。
それほど果実は甘く……心を傷つけていく。
「…………大丈夫?」
「アッ………委員長。き、昨日はごめんね」
多分お母さんの事だから委員長の家にも連絡はしてるはずだ。
「確かに貴女の家から電話が来たときは驚いたけど。
貴女なら心配無いって判断して『今お風呂に入ってます』って誤魔化しといたわ」
「ありがとう。お詫びに何でも一つ言うこときくからそれでチャラにして」
まぁ委員長なら無茶な事しない………と思うからコレくらい大丈夫。
「でも………トラブルに巻き込まれて無いよね?」
「………うん。大丈夫だから」
団長の事をこの委員長は見透かしてる様で恐かった………でも気にしてもらえた事が嬉しかった。
普通に回答出来たと私は思う。
委員長とは旧知の仲って事もありウソがバレやすい。だからこそ普通でいないと駄目なのだ!
「そ。なら今度本当にお礼して貰うからね♪」
「わかった」
はふっ。他の人と話すより緊張するわ。
でもお蔭で団長の呪縛から離れる事が出来た。流石委員長さまさまです。
放課後、クラスメートの何人かが校門前に居る美女の話をしている。
───門の前にいる美人って!
───何かの撮影だって誰かから聞いたよ。
───なら芸能人なの?ダレダレ?
私は気にも止めずに帰り支度をしたお姉さんの家に寄るからだけどね。
昇降口を出て正門前まで向かうまでに幾人かの集団が遠巻きで校門の外を見ていた。
多分噂の美女さんなのだろう。
脇をすり抜ける様に校外へ一歩踏み出した時。
「遅かったね学生さん♪」
何気安く話し掛けてんですか!この団長!女誑しのレイプ魔!
「そんなに邪見にしないで欲しいなーお姉さん傷ついちゃうよ?」
「どの口がそんな事言うんですか!」
「だって私達キス以上………」
慌てて団長の口を手で押さえて黙らせる。
「解りました。ここじゃなんですから何処かに移動しましょう」
私は目立つのは好きでは無いのに………明日学校でどんな噂がたつのやら………とほほ。
「それで話ってなんですか!」
「今日はこの前のお礼に良いところに連れていってあげる」
簡易駐車場には軽BOX停車している。
「乗って」
ここで車なんて乗ったら何をされるのか知れたものではない。警戒心を私は強めた。
「そんなに警戒しないで。コレを見て判断しても悪くないわよ」
一枚のチラシを渡してきた。小劇場で興行している劇団の物だ。
「ウチの劇団の公演なんだよね。脚本の処に注目してみなよ」
タイトルは『マシンメイドの呪縛』脚本は────
「…………お姉さん!」
「みたい?みたいよね!」
お姉さんの仕事場に入れるなんて思いもよらなかった。
見たいに決まっている!
「見たい?」
「………見たい………です」
「なら招待する変わりに一つ質問いい?」
「エッチなのは答えませんからね!」
私の団長に対する信用度はワールドクラスに駄々下がりである。
「学生さんは私の事が嫌いよね?」
「『嫌い』じゃないです。『大嫌い!』なんです!」
「そう良かった♪ふふふ」
「何が可笑しいんですか!嫌われてるんですよ?」
『大嫌い!』と言われてるのになんで団長は嬉しそうに笑うのだろう?
ただ彼女の笑顔には人を惹き付ける何かがある。
「嫌いじゃ無くて大嫌いと言われて最高に嬉しいんだよね。正直ワンチャンあるって期待に胸が熱くなるよ!」
「勝手に期待しないで!私にはお姉さんがいるんですから」
「だからだよ………大嫌いと言われた時に学生さんはお姉さんより私の事を真剣に考えてくれてたんだなって嬉しくなった」
「ち、違う……」
「嘘はダメよ」
そのまま団長の運転で小劇場に向かう道中考えたが解らなかった………。
確かに朝からずっと団長の事を意識していたのだから。
頭を振ると考えを否定して団長の横顔を見る。
鼻筋が通って凛々しい……パーツだけみたら男性的でもあるけど長い睫毛が彼女も一人の女性なのだと思った。
「学生さんどうした?」
「黙っていたらさぞかしモテるんでしょうね」
何を言ってるの私!
「素直になってくれたのは嬉しいけど到着だ」
小劇場にお姉さんは居る。
気持ちは昂っている。
「チケットのお金幾らですか?」
団長はダッシュボードから赤い紙を渡してきた。
『rank:A free』と表記された紙だ。
「それシールだから胸でも腕でも誰かに見えるように貼って入れば楽屋まで行ける素敵アイテムだ!」
「頂いていいんですか?」
「ダメな物を見せびらかす趣味は無いぞ。開演まで少し時間があるから中を案内するよ」
駐車場から裏口まで距離はなかったが『関係者入口』と書かれた扉の前で私は臆してしまった。
団長は扉を開けて私の来るのを待っている。
胸の中に空気を取り込むと一歩踏み出した。
エロい場面を期待した方には申し訳ない。
40回を迎えた練習帳の記念に始めた連続物なので3回で終わらせる予定だったのですが学生さんには暫くシーソーゲームの真ん中ポジションをキープして貰いましょう。
では、次回。