幼なじみの妹
今日彼女に結婚を申し込もうと思う。
その前に少し思い出に浸っても悪くないだろう。
彼女との出会いはまだ私は高校2年で当時は一つ下の幼なじみと付き合っていた。
彼女には年の離れた妹がいてその時はまだ四歳になったばかりで一緒に祝った。
私も独りっ子だったから、自分の妹の様に彼女を可愛がった。目に入れても痛くないほどにだ。
付き合っているとはいえ、幼なじみの家は複雑で彼女の母親は随分前から親としての機能を果たしていなかった。
つまりネグレクトってやつだ。
だから彼女と妹は一緒に私の家で食事をしてから家に帰る生活を繰り返してきた。
彼女の母親も何も言わなかった。
月日も経ち、私が大学に入る頃彼女に変化が出てきた。
妹を邪険にするように成ってきた。
私は妹を庇うと余計に反発するようになった。
「ねぇ私たち付き合ってるんだよね!なんでデートも妹同伴なの?私だって甘えさせてよ!」
私は何も言えなかった。
そもそも私にそれを言える権利なんて何処に有るのだろうか?
ただ翌日の朝食には妹しか来なかった。
「これ無くさないでね」
家の合鍵を妹に渡した。
妹はソレを宝物の様に胸の真ん中でギュッと握った。
「無くさない………絶体に無くさないから」
それから彼女との関係は心も身体も離れていくばかりだったが寂しくは無かった。
いつも妹は家にいた。
「あの人大学に受かったらしいよ」
妹からそんな話を聞いたが、大学に受かったのは私も知っていた。
それに、サークルやゼミの楽しさを覚えた彼女は家に帰る日が少なくなり幼なじみ姉妹の仲は劣悪な状態になってしまっていた。
ある夜に酔っ払った彼女が家に来た。
「どうしたの?最近の貴女にはついていけないわ………妹だって淋しがってるわ」
「寂しがる?私を見ればまるで汚いものでも見て………姉を姉と思わない態度!………口を開けば『アンタ……アンタ』ってウンザリ………私が自由になったらダメなの?ねぇ」
変わったのは彼女でも妹でも無い。私だ。
だから。
だから。
「もうお仕舞いにしましょうか」
私は彼女を自由にする言葉を出した。
「そう!そんなに妹が良いならあげるわよ!」
私は言葉の選択を間違えたのだろう。
だけど何故か不思議と安心した。
それから妹は実家には帰らずに私の家から学校に行き私の帰りを待つようになった。
徐々にだけど家事を妹は覚えていき今では私より料理が上手くなっている。
「ねぇ妹。そろそろお姉さんを許してあげない?」
「まだあの人に未練あるんだ?」
「………ごめんなさい」
「分かればよろしい!今夜は大好きな煮物を出してあげるからね?」
煮物で私の身体は反応してしまった。
我が家では煮物の出る日は合図なのだ。
妹………いや、年下の彼女は期待した目で見つめてくる。
私はキッチンに向かう彼女を呼び止めて、テーブルに婚姻届とケースに入ったペアリングを置いた。
「私なりのケジメなんだけど………ダメ?」
「ご免なさいまだ受け取れません」
振られたか。
かなりショックだな。
「明日、お姉ちゃんに会ってきます。そしたら指輪を受け取ってもいいですか?」
私の目から熱いものが流れ落ちて止まらない。
「なんでプロポーズした方が泣くんですか………私まで泣けてきます」
「でも……でも………嬉しくて」
口付けをした。
いつもより、暖かくて、優しくて、そしてしょっぱかった。
カッコ悪いけど一回り違う彼女を大事にしたいから元カノ……いや彼女の姉さんに私も会いに行こう。
そして二人で笑って新生活を迎えようと思う。
上手く伝える技術がまだ掛けてますが、こんな百合はどうですか?