しんのしょゆうしゃ
わたしは帰宅してすぐに冷蔵庫に直行した。昨日の夕飯のデザート甘露堂の限定ふわとろプリンをユックリ堪能する為だ。
「ふわとろプリンよ!わたしは帰ってきた!」
冷蔵庫を開けると有るはずの物が無い!
甘露堂限定ふわとろプリンが忽然と無くなっていた。
「お姉ちゃんお帰りなさい」
「ただいま………ってなんで、わたしのプリン食べてるの?」
「『わたしのプリン』って言うけどお姉ちゃん証拠はあるの?」
「だって昨日アンタ食べてたじゃない!」
妹は昨晩プリンを食べてるのを見たのだから間違いようがない。
「昨日私がプリンを食べてたからって今日も食べないとは限らない。それにお姉ちゃんのだと名前書いた?」
「………書いてないけど普通夕飯でわたし以外みんなプリン食べたのだから残りは自分のになるよ」
「それはお姉ちゃんのただの思い込みであって名前が書かれていない以上家族なら誰でも食べる権利はあるよね………違う?」
確かに名前は書かなかったけど…………。
「………でも!」
「やれやれ………幼稚園児でも出来る所有物に名前も書けないお姉ちゃんにワタシ名義のプリンを分けてあげるよ」
妹はビニール袋からプラスチックの容器に入ったプリンをテーブルの上に置いた。
蓋には妹の名前がマジックでデカデカ書かれている。
「プリン~♡」
「よかったねお姉ちゃん♪」
「うんうん♪ありがとぅね♡」
蓋を開けてプリンを食べる。
とても美味しかったが、得心いくはずもなかった。
だって三連プリンの1個だけじゃん!
値段にして180円の内の1個じゃん!
わたしが待ってたのは陶器に入った278円の限定プリン!
でも、プリン美味しかったよ~♡
――――
――
―
「――――って事があったのよ~」
次の日の昼休みに友達に泣きついた。
「アンタね………たまには妹さんにガツンと言ったらどうなの?」
「言ったわよ!『最近お姉ちゃんに対して意地悪がお座成りじゃない?』って厳しく言った!」
「…………そこ?」
わたしには重要なのに友人は呆れた顔をしている。
「友人としては、三連プリンと限定プリンは等価交換出来るはず無いでしょ?………それに妹からのヘイトスピーチすら讃美歌に聴こえるのなら相談相手アタシは無理」
「………うん、ごめんね」
「じゃあ姉の威厳を取り戻す為に頑張ってみようよ!」
威厳を取り戻すと言われても、困った。
「じゃあ………妹が風呂上がりに楽しみしてるおっぱいアイスをわたしが食べちゃうとか?」
「おっぱいアイス…………まぁそれでアンタが納得するなら」
「………大胆な行動、わたしに出来るかなぁ?」
「その程度が出来なければラオシャンロンは倒せないわよ!」
「………ラオシャンロン?」
「まぁ………頑張りなさい!」
わたしは相談にのって貰った友人に笑顔で感謝の声をあげた。
「ありがとぅね♪」
「………アンタのその笑顔はズルいよ」
最近友人は相談の後はきまって顔を赤らめて俯いてしまう。暫く眼も合わせてくれない。
その日の夜妹がお風呂に入ってる間に計画を実行した。
先端のゴム部分を刺激すると中から溶けたアイスが噴き出す。夢中になってわたしは吸いきる。
手にはシオシオになったゴムの先に白い滴が付いてる程度残った。
「………本当に食べちゃった」
取り返しのつかない事をした実感で背筋がゾクゾクした。
妹の悲しむ顔を今だけは見たくなかった意気地無しなわたし。
風呂上がりの妹と入れ替わって風呂に入った。
「………妹の匂いがする」
風呂場は微かに妹のシャンプーの薫りが残っていた。
お風呂の残り湯は純度100%の入浴剤『妹の湯』が出来ている。
今日1日お疲れ様わたし!そして………。
「………ごめんねぇ妹ぉ………ブクブク」
風呂上がりにキッチンに行ったけど妹には会えなかった。少し安心した。
今は妹に会わせる顔が無いから。
普段は妹と駄弁って就寝だったけど、今日は早めに部屋に戻って横になった。
罪悪感が精神を疲弊させていたのだろう。墜ちるように眠りについた。
その日の夢は変な始まりだった。
わたしは妹に全てをさらけ出している。そう、全てだ。
入浴後に着たアヒル柄の黄色のパジャマも身体を締め付ける下着も無い。
…………心地いい。
本当に楽な姿。身体が軽い。
でも、わたしの意思では腕一本動かすことが出来ず、四肢は蔦の様な物に絡め取られている。
時々唇が湿った何かに押さえつけられて口で息が出来ない。
鼻腔をくすぐる何処か懐かしい………大好きな匂い。
でも…………口で息は………無理。
何が起きたか頭が、動物大好きパニッシャー!
いやいや………パニックだよ!
ワンワンでもワニワニでも無いパニックだよ!
暫く大人しく押さえつけられる間々にしていたら唇が解放された。
「………が悪いんだからね………」
口で大きく息をしろと肺が求めてくる………身体の反応に逆らえるわけがない。
わたしが息を吸うのを見計らってたのか肺一杯に空気を取り入れた瞬間。
左胸が吸い込まれそうになる。
わたしの口から静かに流れ出るはずだった息は嬌声となって溢れだした。
今度は口は自由なのに………息継ぎが出来ない…………恐いよぅ。
「……け……て……たすけて………妹ちゃん…………おね………がい」
「……けてあげる………んちゅ………お姉ちゃん」
こんな時にも妹の声が聴こえて安心するわたしがいる。
あぁ………わたし助かったんだ………ごめんね…………アイス食べちゃった………悪いお姉ちゃんを………ゆるして………。
後は、助けに来た妹が何かを言っていたが上手く聞き取れなくてただ頷く事しか出来なかった。
翌朝姿見に映るわたし自身に何が起きたのか理解した。
わたしの両方の胸にはマジックで妹の名前が書かれている。
「これからは私の許可無く身体を赦したらダメだからね………お姉ちゃん♡」
「お風呂は?」
「お姉ちゃん自身も触るのは禁止だからね!」
下半身も見ろとばかりに妹に言われて下をみる。
…………下半身も妹の名前が書いてある。
「自分の所有物ににはちゃんと名前を書かなかったお姉ちゃんが悪いんだからね♡」
いつから何だろうね所有物に名前を書くのを恥ずかしくなったのってさ。
物置小屋を整理していたら昔使っていた衣類があって…………下着にまで名前が書いてあったんだよな(笑)
……………無くすわけ無いじゃん!
でも小学校の時グランドに何故かパンツをくわえた犬が出没したよなぁ。
時代かな(泣)
では。