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嘘の代償。

「これからは姉妹で力を合わせて生活していきましょうね。お姉ちゃん頑張るから」


 これは5年前に葬儀の場で私が姉に言われたことだ。




 私達の両親は他界してしまっている。でもいっぺんに亡くしたわけでは無い。

 父は私が小学生の時に通勤電車の事故だった。

 少しの間は鉄道会社の慰謝料と父の保険があったのだけど母はそれには一切手をつけずに女手一つで私達姉妹を育ててくれた。

 その母も今から5年前に過労で倒れてそのまま不帰の客となった。

 私はただ涙したのに対して、二つ離れた姉は気丈にも喪主を務めていた。

 葬儀が終わり参列者が消えて、暗い闇が静寂を落として姉妹二人だけの時間が流れてから初めて姉は私を抱き締めて嗚咽をあげた。その日久々に姉妹で肩を寄せあって眠った。

 私はこの日から姉に家族以外の何かを感じている……ご飯を食べる時のほっぺ。本を読む指先。お風呂の時のうなじ。寝ているときの唇を見ていると私が私でいられなくなるほどドキドキする。

 この気持ちがどういうものか知るには、当時の私はまだ幼すぎたのだ。



 それからは二人の生活の中で、時々私は姉を想うと胸の辺りがフツフツともどかしい感情が漏れる。


 ―――姉を食べたい。




 あれから5年経ち仏間で私は信じられない場面に出くわしていた。

 私の対面に座る姉の横に同僚と名乗る男がいる。


 ―――お姉ちゃん………誰……この男?


「あ、あのね……」

「僕から話すよ」


 姉の言葉を遮り男は私に話しかける。


「彼女……お姉さんとの結婚を許して欲しいのです……突然の事で驚いてるとは思いますが」


 ―――何を……話して……いる……の?


 姉の手に被せる様に男の手は乗せられていて姉も満更でも無い感じで頬を染めて俯いている。


『これからは姉妹で力を合わせて生活していきましょうね』


 ―――お姉ちゃんの嘘つき!


「お、お姉ちゃんもひ、人が悪いよ……い、いつからつ、つ、付き合ってた……の?」

「ごめんね。一年程前からなの」


 ―――一年も私を謀っていたの?……嘘つき!


「……そ、そうだ!お、お、おいわい……しなきゃね!お買い物に行かなきゃね!……そうしましょ!」

「ならお姉ちゃんも手伝うよ♪」

「買い物なら僕が車を出すよ……いいかな?」

「お姉ちゃん達は主役なんだからユックリしてて欲しいんだけど……車を出してもらえるのは助かります……お姉ちゃん、お義兄さんを借りても良い?」

「それならお姉ちゃんも一緒に行くよ」


 私は姉の傍まで行くと部屋の飾り付けをお願いして、不本意ながら男と二人で買い物に出掛けた。

 大人しめの外見に似合わず男の乗る車は日常とは離れた感じの赤いスポーツカーだった。

 タクシーとかとは違い少し低い車高同様、中のシートも低めに設計されているのか座ると体がスッポリと埋め込まれた感じで不思議な気持ちだった。


「好きなんですか?……車」

「好きって……うん、好きなんだろうね……以前は仲間とレーシングチームもどきに力入れてたから」


 車はマニュアルらしく、ギアを動かす度に何処からかシュルルルルンと鳴いて地面を滑るように幾つものビルを置いていく。


 私はこの地面スレスレを走ってる感じが少し怖かったがそれも暫く走っていたら慣れた。


「『以前は』ってことは今は違うってことですか?」

「そうだね。今は車より夢中になれることが見つかったからかな……君のお姉さんなんだけとね!……キザだったかな」


 本当に照れてるのか鼻の頭を指一本でコリコリと掻いている。


「本当にキザですね」

「そうかなぁ」

「そうですよ……キザついでに理想郷ユートピアはあると思います?」

理想郷ユートピアはどうかは分からないけど彼女おねえさんとなら近いモノは作れる気がするよ」

「それがウートポスで無いと良いですね」

「ウー何ですか?」


 私は少し黙ったがすぐに次の言葉を滑らせた。


「いえ……良いです姉を幸せにしてください」

「はい!約束します!」




 車で向かった先は国道に面した大型ショッピングセンターだった。

 駐車場は一階と三階にあり休日だったせいか一階は満車で男は渋々三階の駐車場にノロノロ運転で向かった……私の気分が少し晴れた。


 一階で食料品をまとめて購入すると隣接したドラッグストアに入り睡眠導入剤と咳止めシロップを購入した。

 それを見た男は『眠れないの?』なんて聞いてきたなんてデリカシーの無い奴!



 その後帰宅してからは私はお姉ちゃんの為に腕を奮った、初めは手伝うと言ってきかなかったが『料理は私の仕事だからアルバムでも見せて彼氏をもてなしていなさい』と言うと恥ずかしがりながらも男の方へ行った。


「……本当に行っちゃった」

「なあに?」

「何でも無いって早く行ってあげなよ!淋しがってるよ」

「手伝う事あったら呼んでね♪」


 私は離れて行く姉の後ろ姿に心の距離を測った。




 次々と料理を食卓へ運び机の上は私の料理でいっぱいに成っていく。


「短時間で凄い品数!凄いね君の妹さんは!」

「凄いだけじゃ無いのよ!私のより美味しいの!それに、あなたの妹にもなるのよ!これからね♪」

「あんまり変な事言わないでよお姉ちゃん」


 三人で食事もお父さんが居た頃以来だから、何年ぶり何だろう。


「あっ!お祝いにワインあるの飲んで」

「でも彼運転あるから」

「今日は停まっていってくださいますよね?」


 二つのグラスにたっぷりワインを注ぐと二人の前に置いた。


「さぁグラス持って持って!せーのかんぱぁーい!」


 二人は慌てて私にグラスを当てた。

 私は二人がワインを口にするのを暫く眺めた。


 カシャーンとグラスが落ちて割れる音が部屋に拡がる。

 最初に倒れたのは男の方だ。

 男は床に流れ落ちる様に崩れた。


「ねぇ……だいじょう………」


 男に心配する声を掛け終える前に姉も倒れる。

 倒れる時にテーブルクロスを掴んだ為に料理の幾つかは姉の頭や腰に落ちて……被害は男の頭上にも厚手の透明ガラスの器が落ちて鈍い音がした。


「あはは……お姉ちゃんごめんね……私、私が知らなかったから……こんな男に騙されちゃったんだよね」


 私は男を無理やり椅子に座らせて縛り上げてから口の中にジョウゴを突っ込むと、中ジョッキに咳止めシロップとウォッカを入れて混ぜた液体を流し込んだ……これはお姉ちゃんを騙した罰なんだ!


 ―――お姉ちゃんには私だけがいればいい……悪いけど


「お呼びじゃないのよね」




 一部の咳止めシロップにはジヒドロコデインリン酸塩が含まれた物が存在する。通称コデインである。

 これはアルコールとの相性はすこぶる悪く、ある種の依存症を残す事がある。

 偏頭痛と吐き気だけでも通常まともの考えなど出来るはずもなくただ恐怖に呑まれていく。


 男は時々ゴバッと液体を逆流したが私は構わずに中ジョッキ一杯を流し込んだ。

 コデインとアルコールのダブルは男の精神を今頃喰いあさってるのだろう。



「おまたせ……お姉ちゃん!」



 姉の身体には料理のいくつかが付着している。


「……このままじゃ気持ち悪いよね」


 ソファーベッドまで姉を連れていくと、彼女の肌に傷が付かない様に丁寧に丁寧に着ている物を剥がしていく。

 裸になっても姉は美しく寝たままでも女性の象徴たる二つの球体は重力を無視して隆起していて今は薬で眠っているから触れても起きることは無かった。

 姉の体臭と柔らかな肌に我を失いそうになるのを一喝してソファーベッドの下の隙間を使い姉の左手首と右足首、右手首と左足首を固定した。

 そして姉の頭にはアイマスクをしてその上から手拭いで縛った。


「お姉ちゃんが悪いのよ……嘘をつくから」


 男の食事は時間毎に咳止めシロップを二種類混ぜ合わせて与えた。

 男は抵抗もなくそれを飲み干した。

 昼頃、姉に変化があった。覚醒したようだ。


「おはよ、お姉ちゃん」

「……随分暗いけど……今何時?」

「お腹すいてる?私、何か用意しようか?」

「ねぇそれよりも私の身体、動かないんだけど……」


 姉が両手を動かす度に足が開いていくのを私は眺めた。


「お姉ちゃん無理しちゃ駄目。怪我しちゃうよ?……彼が!」

「……!……ねぇ……彼、そこにいるの?」

「ちょっと呑みすぎたみたいで、一寸ヤバそうだよ……ほら、お姉ちゃんが心配してくれてるんだからなんか話しなよ!」


 椅子を軽く蹴飛ばして返事をさせる。


「……もう、や、辞めるんだ………こんな事」

「お願い、彼に酷いことしないでぇ!」


 私は椅子を蹴るのを止めて姉の近くに行く。


「なんで彼がこんな目にあってるか解る?」

「なんで?だってお祝いして……」

「……お姉ちゃん好きだよ」

「私も好きよ……」


 私は近くにあった花瓶を床に叩きつけた。


「嘘だ!」

「ほ、本当に、お姉ちゃんはあなたが大好きよ」

「そうなのね。お姉ちゃんも同じ気持ちなんだね……ならお姉ちゃんは被害者なんだよね!それで良いよね!いいんだよね!」

「ま、まって……何を言ってるの?」


 私は足音をたてて男の方に歩く。


「愛し合う二人の生活に土足で上がって!」


 椅子を蹴る。

 椅子に縛られているから受け身も出来ずに倒れる。


「ハァ!……お姉ちゃんを、……お姉ちゃんを傷付けて」


 椅子を蹴る。


「だましたんだぁ!!」


 私の蹴りは椅子から外れて男の肩に当たる。…・気持ち悪い!

 それは男も同じだったのか口から吐瀉物が流れる。


「ねぇ……私、謝るから……彼に酷いことしないで……お願い」

「お姉ちゃんは悪く無いのよ!被害者なんだから」

「ば、罰なら、お姉ちゃんが受けるから……ね?ちゃんと謝るからね?」



 それから暫く姉は私に従順だった。

 毎日時間を問わずに肌を重ねて姉の弱点も理解した。そんな姉に私はご褒美としてソファーベッドからの束縛を解き後ろ後手で縛り直した。

 アイマスクが外れた時の姉の「……眩しい」は録画してある。


「お姉ちゃん、あの男に私達姉妹の仲の良さを見せてあげましょうね!」

「……はい」


 座る私に覆い被さるように姉は口付けをする。後ろ後手で縛られているから安定が悪くグラグラする度に胸に縛った鈴が哀しげに鳴る。

 それでも姉は舌を滑り込ませて艶やかな息を洩らす。


 共同生活も一週間目に入る夜に私は物音で目をさました。


「お願い……お願い…お願い」

「……君も一緒に」


 男の束縛を噛みきって姉は男を逃がそうとしていた。


「お姉ちゃん何を……」

「お願い逃げてー!」


 姉は自身を盾に男を逃がそうとする。


「お姉ちゃん、罰を受ける覚悟があるんだよね?」

「……はい。私、罰を受けるよ」


 私はまず姉の束縛を解き一緒にお風呂に入った。

 姉の身体を洗いながらも両腕についた縄跡をみた。


「お姉ちゃん跡残っちゃったね」

「………うん」


 何故か姉は縄跡を眺めて頬を赤らめていた。

 姉の髪を洗いながら私は幸せを感じた。


 風呂から上がるが姉は服を着るのを嫌がった。


「お姉ちゃんはこのままでいいのだぁー♪」

「お姉ちゃん走ったら危ないって」


 姉は床に寝そべると私が近付くのを待っているみたいだった。


「ねぇ」

「なに?お姉ちゃん」

「……お姉ちゃんお腹すいたの」


 少し心配だったけど姉は椅子に大人しく座って料理が運ばれるのを待っていてくれた。

 材料は無かったが姉の好物ばかり作り食卓に並べた。


「お姉ちゃん食べて食べて♪」

「いただきます」


 姉は箸を持とうとする度に指からするりと抜けて落ちる。

 淋しそうな瞳で私を見つめてきた。


「お姉ちゃん、口移しが良かった?」


 彼女は恥ずかしそうに下を向きながら首を少し動かした。


「ねぇお腹すいたの」


 私は口に含むと姉の舌に滑り込ませた。

 私は以前に想っていた柔らかな頬っぺたも、魅力的なうなじも、ふくよかな胸も私の物になったと全身を震わせて悦びを噛み締めた。


「あのね、お願いがあるの……もっと貴女を感じて食べたいの……だめかな?」

「……もっと咀嚼する?」

「……うん。お願い♪」


 私はご褒美とばかり口に入れると咀嚼して姉に与えた。





 ここ一週間彼の食事には常にコデインが含まれていた。コデインはモルヒネの一種たからこれだけ摂取していれば立派なジャンキーに成っているばすだ。

 たとえ私から逃げても男の身体はコデインの過剰摂取による中毒症状に加えて精神は誰も信じない光も届かない仄かな海の底を彷徨っていることだろう。

 それでも逃げ出した彼は今頃車から黒煙を上げて事故を起こしているだろう。

 車の燃料タンクには砂糖水に中性洗剤を混ぜ合わせた液体を流しておいた。よく燃料タンクに砂糖を混ぜるとエンジンが焼けると言われてるがナンセンスだ。精々フィルターで止まってエンジンが掛からないだけだが、砂糖水に中性洗剤ならガソリンに浸透しやすくなるから途中で再結晶化の恐れは少ない。


「例え事故で死んでいなくても残りは警察が何とかしてくれる……うふふ」



 案の定、夜のニュースでは近所の事故を放送していた。

 男は生きていたが、警察の調べで薬物反応が出て逮捕されたらしい。

 まぁコデイン中毒のまま外へ出たのだから仕方ないよね。



 私は姉の髪を手で透きながら幸せを感じていた。



 男が捕まって暫くして姉と外出をしたが彼女は私の後ろにピッタリ引っ付いて離れようとしないで私以外には目も耳も向けない程だった。

 これで姉の笑顔とか総ての感情は私の……私だけの物になった。





 私はお姉ちゃんが本当に大好きです。



いつもの軽い雰囲気が好きな方には申し訳無い。


今回かなり危ないネタがありましたが、決してまねをしないでください。

確実に犯罪ですから。


久々の更新。

ヤンデレは楽しい。


では。

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