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グリグリ  作者: 明兎
プロローグ
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プロローグ

 「目の前にすごい力を手にすることが出来るチャンスがあるとするじゃん」


 荒廃した街を歩きながら少女は横にいる男に尋ねた。

男は言い飽きた答えを口にすることすら躊躇い、無言で二度頭を縦に振る。

それに少女は知ってたと呟くと道端に落ちていた空き缶を蹴飛ばしつまらなさそうに欠伸をした。


 「あるとするな」


 「マルコだったらそれを手にする?」


 「なにもデメリットがないなら」


 つまんない答えだね、と少女、松木花火まつき はなびは砂を蹴り上げる。

上げられた砂はすぐに風に乗り空気中に混じり見えなくなった。


 「なわけないじゃんか。例えばそれを手にしたら記憶が無くなるとか、例えば……人間じゃなくなるとか、そんなデメリットがあるんだよ」


 「じゃあ手にしないな。ハイリスクハイリターンは俺には合わねえ」


 さらにつまらない答えだ。

と花火は淡々と呟く。

面白かったことなんてないけどね、と続けようとする前に男、十崎丸子とざき まるこが背中に蹴りを入れた。

予想していなかった花火は前にバランスを崩しながらも言葉を紡ぐ。


 「痛いなあ!? なにさ!?」


 「あの日の夢でも見たのかよ」


 核心を突いた質問に花火は視線を別の方向へと向けた。

隠し事が出来ない性格だなあ、と自嘲の意味を込めながら笑い、そうだよと返す。

だろうな、と予想通りの返答にマルコは小さく笑った。


 あの日。

5年前、2人の幼馴染が消えることになった原因はそんな名前の果実だった。

誰がつけたのか、誰が最初に発見したのかは定かではないがいつの間にかそんな名前で人々に知られている。


 ――――その果実を口にすれば願いが一つ叶う。

小学生だった2人を含めた幼馴染グループは今のどうしようもない状況から抜け出すためにどこにあるかもわからないその果実を探していた。

見つかればラッキー、見つからなくても自分たちは現状にあらがう為の努力をした、なんて自己満足混じりの行動だが、力のない彼らにはそれくらいしか出来なかったのだ。

あるかもわからない奇跡に縋る他はなかった。


 そして訪れたあの日――――。


 「……い、おい花火!」


 「うるさいなあ……。聞こえてるよ」


 「バイラスだ」


 マルコが指差した方向を花火が見るとそこには人影があった。

いや、正確には半人半異の影だった。


 それはバイラスと呼ばれる化け物で、元は人間である。

人間にバイラスの王と呼ばれるやつらのボスが欲望の種を植え付けることでそれは生まれる。

見た目は人間なのだが体に動物の腕や尻尾などの人間ではありえないものが備わっていることが特徴だ。


 発症するとただ一つの方法を除き元に戻すことは不能。

そしてそのまま放っておくと更に悪化し、異形としての割合が増していく。

これがいま世界を悩ましている病気だ。


 「雑魚が……30匹って所か。チョロいじゃんよ」


 「じゃあ今日もどっちが多く治せるかの競争だな」


 普段から見慣れている二人はその外見を見ても驚くどころか、その次のことまで考えている。

ゲーム感覚。

2人がバイラスを相手にするのはその言葉が何よりも一番あてはまるだろう。

それほどに二人はバイラスを相手にするのを慣れていた。

バイラスを相手にすること、バイラスになった人間を救うただ一つの手段。

つまりグリードパッチと呼ばれる対バイラス武器で欲望の種を破壊することにだ。


 「さあ、"治療"の始まりと行こうじゃねえか!」


 二人は体にあるゲートからそれぞれのグリードパッチを取り出した。

少女はダイナマイトや手榴弾と言った、爆発物。

男は二挺のハンドガン。


 グリードパッチの形は様々だ。

少女や少年のように「爆弾」や「ハンドガン」と言う大まかな括りもあれば、「竹箒」なんていう指定のものまである。

形は違えど全ての武器の目的は「欲望の種を破壊する」と言う一つのみ。


 どうやって開発されたのか。

そもそも誰が発見したのか。

数々の謎が明かされていないグリードパッチと言う武器が世界中で流通しているのは、バイラスに対するほぼ唯一の対抗手段と言う面が大きいだろう。

未知の化学に手を出してでも人類は未知の侵略者に抗いたかったのだ。


 それから五分もしないうちに二人はグリードパッチを人工ゲートに戻した。

言うまでもなくそれは全てのバイラスの治療が終了したことを現している。

マルコはいつも通りに懐から携帯を取り出して電話を掛けた。


 「こちらマルコ。治療した人間たちの保護頼む」


 「同じく花火も保護よろしくー!」


 「別に俺のと一緒で良いだろ」


 「とか言って私の分の功績まで取るつもりでしょ?」


 なんのことやら、とはぐらかすマルコ。

それに花火は頬を膨らませながら不満を表していた。

何年も前から変わらない、いつもの光景だ。


 二人が所属しているのはバイラス対策部隊と呼ばれる、文字通りバイラス治療の専門部隊。

隊員全員がグリードパッチを所持しており、今の世界ではヒーローのような存在だ。


 対策部隊の目的はバイラスの王全ての討伐である。

世界で現在6匹確認されているバイラスの王。

いずれもサイズ自体は普通の人間と大差ないものだが、他のバイラスにはないバイラスを生み出す能力や特殊な力を持っているため討伐にはかなりの被害が出ている。

過去に甚大な被害を受けながらも倒せたバイラスの王もいた。

しかし、数年、短ければ数日の間を開け復活しており、いくら倒しても人類の勝利は見えていなかった。


 「ん、これ俺が倒したやつじゃねえの?」


 「違うわ馬鹿マルコ! 私が倒したやつだっつーの!」


 「花火ちゃんが倒したのはあそこで倒れてる数人だけだろ?」


 「ちーがーうー!!」


 夕陽が落ちる街を背に二人は言い争いを続けた。

毎日のようにしてきたなんら変わりのない喧嘩。

いつまでもこれが続かないと知っているからこそ2人はくだらない言い合いを続けるのだ。


 いつか、バイラスが消えるその日まで。


 ――――これは世界を襲う感染症に抗う人間たちの話。

――――病気から、少女を救い出すお話。


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