白の世界からの訪問者
空から降ってくるのが美少女ではなく厳ついおじさんとおばさんだったら誰だって全力逃げるだろう。
2メートルを軽く越した巨体が俺の体に容赦なく落ちてきて圧迫死しなかったのは神様のプレゼントなのか、それより俺の体に落ちてこないように設定しろよっ、と感謝した神様に全力で批判するが虚しく、追撃をするかのように念願の美少女が降ってきた。
「古谷さん、大丈夫ですか!?」
「そう思うならどいてくれませんかね」
俺の声に反応するように即座に乗っかっていた体からどくのだか重さの原因になっている二人は仕方がないと言わんばかりにノロノロと俺の体から降りる。
身体的にも精神的にも疲れている体にムチを打ちその場から立つ。
あの空間から出た俺たちがいた場所は筋トレをしていた場所、古谷家の庭に降りた訳だ。
空中一メートルから落ちた訳で四人の人、しかもオーガとほぼ同じくらいの体型の二人が落ちるとなると当然音が鳴り響く訳で家からドタドタと乱暴に走る音がする。
「兄さん、大丈夫!ってどちら様!?」
慌ただしく走ってきたのは右手にフライパン、逆の手にはお玉とスライムにも負けそうな装備をしているのは我が妹のフルーラだ。
「えっと、取り敢えず中に入れてくれ。精神的にも身体的にも疲れたんだよ・・・」
「わかったけど、そちらの人も入りましょう?」
シロガミと運慶、快慶はフルーラの言葉よりも家から漂う食事の香りに引きずられ中に入って行った。
フルーラにあの空間のことを大方話すと半信半疑だったが一応納得したようだ。
「兄さんがいきなりいなくなって探してたら外から大きな音がしたと思うと真っ白な女の子とオーガに似たでっかいおじさんとおばさんが現れるし、わけがわからないよ」
普通に考えて見るとひどいよな。
この話題の張本人の三人はフルーラの用意し夕御飯に夢中で食べ、まるで人の話を聞く気がないとばかりに無言で食いまくっている。
結局、ご飯を四合食い上げるとようやく話すことにしたのか俺らの方に顔を向ける。
「ごちそうさまでした。ご飯っていうのを初めて食べてみたけどすごく美味しかったよ!」
「シロちゃんはその空間でご飯を食べなくても平気なの?」
「お腹が減ったことがなくてね」
フルーラはなんとも羨ましいとばかりにシロガミのことを見るが本人はなんのことかわからずキョトンとしていた。
俺の方はシロガミは一体何者か考える。
創成者級の力を持ち、運慶快慶の人間離れした身体をした二人、そして空腹が起こらないとなるとますます謎が深まるばかりだった。
「フルーラさんはエルフ?なんですか?」
「うん、兄さんとはいろいろあって義妹なんだよ」
フルーラは過去に家族、オヤジが奴隷狩りから救出したらしい、らしいというのも詳しいことはわかないが小さい頃からいるのでよそよそしくすることはなかった。
金色に輝く髪はポニーテールで、俺とは違いすくすくと身長は伸び、とっくに背は抜かれ一四歳の時点で170センチに届く。
女子二人はワイワイと女子特有のガールズトークに入り俺が話に入る余地はなく、一人寂しくお茶を啜るだけだった。
「古谷殿」
肩を指先でつつかれ振り向くと顔がヤクザ風のおじさん運慶が礼儀正しく正座をして話しかけてきた。
「少し話があるのですが」
「ここじゃ話しにくいことか?」
「ええ、まぁ」
「それじゃ庭に出るか」
運慶快慶を連れ歩くが後ろから見るとヤクザの親子にしか見えないのは言うまでもないだろう。
「姉さんはワシらがあの空間にいる時から少なくとも10年はあの場所から出たことがないのです」
「意識だけ出れるのに気がついたのもつい最近のことで・・・」
「回りくどい、さっさとシロガミお姉さんが心配ですーって言えよ。」
図星とばかりに黙り込む、実際フルーラとは仲良く話しているし、学校の方も創成者なら向こうから入ってくださいと頼むほどなので心配はいらない。
だが、いくらあの空間から意識だけ出ていてきたとは言えこの二人からすれば知らない世界に何も持たず放り出されたのと同じものだろう。
「会って全然時間とか経ってないし、信用とか出来ないかもしれないけどよ。
お前らだってこの世界に興味くらいあるだろ」
「シロガミだってちゃんと見る、フルーラもいるし。取り敢えずここで住んでみないか?」
そう言うと俺は両手を出す。
「「これは?」」
「握手だよ、握手。改めて自己紹介するけど、俺は古谷由馬。よろしく」
出した手に大きくていかにも頼もしいが両手に握り返される。
「姉さんの・・・家族、運慶だ」
「同じく家族の、快慶だ。」
目を家の中に向けると疲れたのか仲良く寝息を立て二人で横になっている。実に微笑ましく思わず笑ってしまった。
シロガミがフルーラの豊満な胸に顔に突っ込んで苦しそうにしていた。
なんともうらやまけしからん状況だが早く助けてやらないとほんとに窒息しそうだ。
「ようこそ、古谷家へ」
二人の表情は変わらないように見えたが少しだけ表情が柔らかくなっていたのは気のせいだとは思わない。