真っ白な世界で
辺りを見渡すと目に飛び込んでくるのは白で埋め尽くされた公園にあるような滑り台やブランコなどの遊具だった。
しかもひとつふたつではなく何百、何千とごちゃごちゃと乱暴に置かれていた。
俺は何をしていた?
何時ものようにランニングをし、筋トレを一時間ほどしてそれから・・・・ダメだなんにも思い出せない。
「まず、どこだよここ」
盛大に溜息を吐くが自分の妙に高い声しか響かない。考えた末フンコロガシがまとめた様な遊具の山に向かうことにした。
が、おかしい?いつまで歩いても距離が近づかず変わらないのだ。
とにかく自分のスタミナが続く限り走り続けるが変わらない距離が永遠に続くばかり。
「「いつまで続くんだよクソがっっ!」」
自分の後ろから全く同じ声、トーンまで全く一緒の声が無機質な空間に鳴り響く。
「っ!」
思わず振り向くがそこには先ほどと変わらない真っ白な風景がうつるだけだった。何なんだよ早く帰ってたい焼きが食いたいのに、ともう一度前を向くと
「やっほ!」
気軽に透き通った声で俺に声をかけてきた。
頭から尋常じゃないくらい血を流したチリチリパーマのおばさんが。
「いやぁぁぁぁぁああああっっ!!!!」
走る、過呼吸になってもおかしくない呼吸で、足がもつれてコケても、懸命にハイハイで手足を動かす。
しかし、今度はいきなり空から上半身裸の刺青を入れた厳ついおじさんが降ってくる。
「ちょっと、冷静になれって」
「無理言うなよ!」
いきなり変な空間にいて、自分と同じ声をして、チリパー筋肉モリモリのおばさんと道で見たらば自然に道を開けてしまうヤクザ風でまたもや筋肉モリモリのおじさんが空から降ってくる状況で冷静になるのは無理であろう。
そんなことを考えているうちに二人の姿が迫ってくる。あまりのことに腰を抜かしてしまいペタンとすわりこんでしまった。
(こんなことならたい焼き食っておけばよかったっ!)
思い返せば、たい焼きと筋トレと学校の奴らとバカしかやってなかったと、走馬灯にしてはやたら短い内容だが覚悟を決め、目を瞑る。
「ちょい、待った!」
二人の豪腕が頭ギリギリでピタッと止まる。
「だめだよ、運慶、快慶。その人は私のお客さんなんだから」
その声の持ち主は下から聞こえ、プールから上がるときの様な動作で白色の地面から姿を現す。すると運慶、快慶と呼ばれた二人は地面に跪く。
「「しかし姉さま!こやつはワシらの遊具に勝手に当たろうとしたのですよ!」」
姉さまと呼ばれた人は一言で言えば、ガラスの様な、それも触れれば簡単に壊れてしまいそうな。
推定10~12歳くらいの少女だった。
髪はこの空間と同じくらいに透き通る真っ白な髪だ。それと対称に瞳は赤く、マグマのようにドロドロとした暗い赤、ダークレッドと言えばいいのだろうか深い色をしていた。
身長は・・・うん、まだ俺の方が上だ。高校生にもなって160ぴったりの俺だが流石に小学生には負けてないと思う。
「でもダメだよ!その人あと少しでハンバーグの素だよ!」
「・・・はぁ、かたじけない」
運慶、快慶は上げていた顔をさっきよりもっと頭を下げる。
「いやぁー、すみません。あの二人が迷惑をかけまして」
「大丈夫だよ、命には別状ないから」
俺は立ち上がり目の前にいた少女と同じ目線になる。
「そうだ、自己紹介が遅れたね。私はシロガミと言います、よろしくね」
シロガミは律儀にお辞儀をしてきた。腰を折りすぎて白いワンピースから慎ましい胸が見えそうになる。
見ようとして首を伸ばすと跪いていた運慶と快慶に鬼のような表情でにらまれて思わず変な声が出そうになる。
「あのー?」
「は、はい!俺は古谷由馬高校1年生です、よろしく!」
無駄にでかい声がこの空間に鳴り響く、それにびっくりしたシロガミが小さく悲鳴を上げると同時に運慶
快慶が即座に立ち上がり、またもや俺の前にゴツゴツした拳が鼻の数センチ前に現れる。
「貴様ぁ!姉さまを何驚かしとんじゃハゲぇ!」
ヤクザも飛んで帰りそうな威圧感に思わず歯をカチカチと震えさせる。
普通に2メートルを越す人間?に言い返すこともできず、ただ立ちすくんでいた。
「こら、二人共ダメでしょ。今度やったらクシャクシャの刑だからね!」
シロガミが小学生の兄弟が叱るような感覚で言ったのだが、二人は顔を真っ青にして跪くどころか体育座りをし、顔を伏せてしまった。
「ごめんね、だいぶ脱線しちゃったね」
少し照れくさそうにシロガミは頬を染めながらこちらを向いてはにかむ。
「それでね、こんなところに連れてきて申し訳ないんだけど一つ頼み事を聞いてくれる?」
「まぁ、許容できる範囲ならいいけど」
するとシロガミは、ぱぁっとまるで向日葵のような笑顔でガッツポーズをし、小さく跳ねる。それを見て俺は顔が熱くなり思わず目線を逸らしてしまう。
(俺はロリコンじゃない、ノーマルなんだ、好きなタイプはメイド服が似合う、うなじのラインが綺麗なお姉さんなんだっ!)
頭の中で何度も暗示をかけるように小さい頃に拾ったお宝を思い浮かべ念じてはさっきのシロガミの表情を思い出しては念じると、傍から見れば熱を出して頭痛で痛がってる子供にしか見えないのだが
「それで頼みごとっていうのは・・・」
さっきまで変な動きをしていたのをすぐに戻し、聞く体制に入り喉に溜まっていた唾を飲み込む。
「私をここから出して欲しいの!」