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 あれから全員少し放心していたが狼に刺さっていた矢が地面に落ちた音で僕達は我を取り戻した。銃を撃つだけならショックが少なかったんだろうが、要のあれを見ると流石に心に来る物がある。要の制服はさっきまで血がしたたり落ちていたのが嘘みたいにシミ一つ無くなっていた。正直今回だけは消えてくれてくれてありがたかった。

 三人ともレベルアップしたようだ。狼を殺していない明日香もレベルが上がっていることから、殺した物だけが経験値?を貰えるわけでは無いようだった。基準は分からないがこれも恐らくゲームと同じで貢献度とかの可能性が高い。MMORPGのようにパーティーなどがない事から平等に分散されているわけではないだろうが。

 「なんか自分の体じゃないみたいに軽いのに思い通りに動くんだな」

 僕が沙智の矢を回収していると要は納得しかねるように言った。

 「その気持ちはわかります。弦などもいつもと同じ感覚で弾けますから上限が上がったという感じでは無いでしょうか。あ、海斗くん。ありがとうございます」

 僕は沙智に矢を渡した。この矢が狼を殺したからだろう。沙智は少し躊躇していたが、そんな事を言ってられない事は分かっているのかすぐに気を取り直して受け取ってくれた。

 「でもあたしは嬉しいかな。得はあっても損は無いんだし」

 「んまぁな。しかしどうするよ?このまま閉じこもってて化物共を誘い込むか、自分達で殺しに行くか。幸い海斗が敵が近付いてくるのが分かるんだから、移動してもそこまで危険ってわけじゃねぇだろ」

 「そうだけど…僕はもう少しここにいたいかな」

 「うん。私もここで待ち伏せするのが安全だとは思うけど……でもやっぱり他の生徒の事が心配だよ」

 もしかしたら助けられる人がいるかもしれない。けれどその分リスクは大きい。

 「さっき見た限りですと、あの狼達は最低でも10匹近くはいました。それにあの目の蝙蝠も6匹程度いましたしいくら気付いても囲まれてしまったら勝てないのでは無いでしょうか?」

 僕は外に目を配る。窓はしまっていて音は聞こえないが中庭で狼二匹に殺されている男子生徒が見えた。けれど遠い。拳銃では当てることが出来ないだろう。東棟の廊下を歩いている生徒はいない。下の二つの階では狼が2匹歩いているのが見えた。三階とここより上の階は壁に隠れてしまって見えなかった。

 「ただ弾が心配だな。残り銃弾の方は合わせて27発。さっきは距離とか相手が曲がるために失速してくれてたお陰で二発で一体を殺せたがよぉ。それでも全部の化物を殺すのには足りない。弾を集めに移動すれば状況によって変わるが一体仕留めるのに倍の四発程度かかるだろうしなぁ」

 要を別に痒くも無い金髪の頭を掻いている。皆も思案顔だ。

 「今どれくらいの人数生き残ってると思いますか?」

 「多分だけど元の人数の六分の一生きてれば良いほうだろうよ。なぁ明日香、大体部活何人ぐらいやってたか分かるか?」

 明日香は要の問いに少し顔を俯かせた。

 「正確には言えないけど多分100人ちょっとだと思う」

「そうか……」

 要も明日香もあまり間違っていない数字だろう。先生達と僕達のように残っていた生徒合わせて大体130人程度。それの六分の一。約20人。そしてさらに今もなおその数を減らしている。

 「行こうよ。どうせいつかは外に行かなくちゃいけないんだからいつ出ても一緒だよ。もしかしたらあたし達の知らない情報が手に入るかもしれないし」

 明日香は勇気を振り絞り言った。移動するということに恐怖は感じているだろう。手を硬く握りしめているが微かに震えている。

 僕と要は顔を合わせて己の不甲斐なさに笑った。女の子に頑張らせて自分は何やっているんだ、と。これじゃ男として失格だ。

 「行こうぜ。まぁなんとかなるだろ」

 「うん。明日香と要の言う通りだ。行こう!ここでうじうじしていたらさっきと何も変わらない。沙智もいいよね?」

 「はい。そうですね。行きましょう。お仲間が増えたほうが心強いですし」

 僕は沙智に了承をとったが、沙智もさっきの明日香の言葉で決心がついたらしく笑顔で返答してくれた。

 僕は集中して、回りの状況を把握する。この階には僕達以外動いているものはいないことはわかるが他の階のことは探れない。流石に距離があったり床、天井で遮られているせいだ。

 「この階には化物も人もいない。どこに向かう?」

 「やっぱり極力人がいるところだろ」

 「東棟は人はあんまりいないかと。西棟は少ないですが確実に人はいるでしょう。運動場は流石に抜かして……あとは体育館と中庭ですね」

 「海斗ってどれくらいの範囲が分かるの?それによってじゃない?」

 「ん?あ、僕?動いていてる物だったら自分達のいる階ぐらいのことは分かるよ。でも止まってたりしたら匂いは血で逆にわかりにくくなっちゃってるし、音も息ぐらいしか聞こえないからそれなりに近くにいないとわからないよ」

 「呼吸さえ聞こえてたのかよ……。まぁ普通に西棟を回るのが得策だろ。明日香、今日文化部の活動がどこか覚えてるか?」

 「えーと……今日は水曜だから……吹奏楽部と文芸部かな。あとは調理部も今日だったような気がする」

 「んじゃあそこを回ってこう。あとは生徒会で残ってる人もいる可能性もあるから生徒会室も行くって事で決まりだ」

 要の方針に全員承諾した。



 「ルートは勝手に俺が決まちまってもいいか?」

 「別に構わないよ。どうせ僕達だって大体同じルートを考えてると思うから」

 「まぁそうだな。極力最短を意識して行こう。現在位置は西棟三階の北寄りにある化学室だ。まず北側の階段を登り四階の真ん中付近にある生徒会室へ行く。次に四階南側の階段を登り、登ってすぐの音楽室へと行く。そんで北側の階段を使って一階まで降りて、降りてすぐの調理室に行く。最後に一階の南側にある文芸部の部室に行く。こんな流れだ。あとは体育館にも近いし、東棟に行っても良い。それはその時決めよう。これでいいか?」

 「大丈夫です。移動する時はどういう陣形を組みますか?」

 「ん?あぁそうか。それじゃ俺は前確定で、あとは三人の中で一番銃が得意じゃない明日香も前かな。そんで正方形になろう。沙智は右利きだったよな。だったら弓を番いやすいように右側で。俺も右利きだから明日香が邪魔にならないように右側にしよう」

 「ちょっと!その言い方あたしがいらない子みたいじゃん!」

 「ふふん。まぁあながち間違っては無いけどな」

 「むー!」

 いつも通りの風景だった。話している内容はとても通常とは言えないが、けれど確かに僕達の心の中にも余裕は出来てきているらしい。また笑い合いたい。そのためには生き残らなければいけない。狼は大丈夫。あとはあの目玉蝙蝠だけだ。

 「行こう!」

 「おう!」

 「うん!」

 「はい!」

 ーーここからが僕達の反撃だーー

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