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狼は急に失速し、そして僕の足下に落ちてきた。ぴくりとも動かない。当たり前だ。僕の放った銃弾は狼の眉間をしっかりと貫いていたのだから。僕は未だ銃を降ろさない。ただただ後の余韻に浸っていた。要達は驚いた顔でこちらを見ている。
あぁ、僕はやれたのか。
体は全能感で溢れている。
僕も要みたいに皆に道を示す事ができたんだ。
目の前に白い靄がかかっているように見える。
この感じ前にもあったような気がするーーそうだ、小学生のころに初めて出たサッカーの試合の時と同じなんだ。
全然活躍できなかったけど、凄く気持ち良かった覚えがある。あの時の感覚に近い。アドレナリンが大量に出ているのだろうか?疲れなんて感じられない。拳銃の重みも感じられない。今なら100メートル走を10秒切れるような気がする。
成功して良かった。本当に良かった
……ってあれ?本当に拳銃が軽い。今までは一キロは無いにしてもそれに近い重みを感じていた。けど今なら100グラムと言われても信じてしまうぐらい軽い。手をひょいひょい動かせる。なんでこんなに筋力が上がってるんだ?と首を傾げる。
「ーーあっ」
一つこのような現象に心当たりがあった。モンスターを倒したら能力が上がるって言ったらあれしかないじゃないか。まるで馬鹿げている。ゲームってのはこんなにサービスされていたのかと。そして僕は錆び付いたネジのようにギコギコと首を要達を動かし言った。
「僕もしかしたらレベルアップしたかも……」
「……は?」
要達は僕の言葉に口をぽかんと開けた。
結果。レベルアップと言ってはいいのか分からないが僕の筋力は確かに上がっていた。何言ってるんだこいつという目で見ている皆に証明しようと、全力で垂直跳びをしたら頭を天井にぶつけてしまい皆驚いていた。僕も驚いた。走ってもかなりのタイムを出せるような気がする。けれどお決まりのように「ステータス」や「ステータス閲覧」と思ったり実際に言葉にしてみたりしたのだが、何も変化が無かった。それと狼は死んでから一分と経たずに徐々に透明になっていき終いには跡形も無く消えた。床に着いた血の跡さえ無い。命を冒涜しているとしか思えないがいつまでもここにあったらこっちが困る。お金や武器を落としてくれたらなお良かったんだが。
「まさかレベルアップまであるとはな…。どこまでゲームのつもりなんだか」
要は呆れている。
「そういえばなんで海斗はあの狼が来るって分かったの? あたし全く気づかなかったんだけど」
「あぁあれな。なんて言えばいいのかな…なんか歩いてる音とか匂いとかでか知らないけどあれの様子が手に取るように分かったんだよ。昔からよく人の気配とかに敏感だったんだけどあそこまで分かったのは初めてだな」
「へぇー。それじゃ近付いてきたら教えてくれよ。一例を見れたからな。次は俺も倒してやる」
「うん。多分次は私も大丈夫だと思う。流石に一人だと無理かなって感じだけど、四人いるんだし」
明るさが戻ったようだった。やっぱり倒せる相手だと分かった事が大きい。少し心配なのがあまりにもたくさんの死を見過ぎて、先ほどの狼の死に何も思わなかった事か。
「沙智は大丈夫か?」
そういえば要の心配通り先ほどから沙智は一言も喋って無かったような気がする。
「あ、はい。先程のを見て、大分落ち着きました。ただあの蝙蝠みたいなのはともかく近くにいる狼達に先程の発砲音でこの場所が気付かれたんじゃないのかと思いまして……」
「……」
沙智の意見は最もだった。逆になんで今まで気付かなかったのかとい分からない。
「三匹近くにきた。今北側の階段登ったところ。」
ここは北側の階段から数えて3つ目の教室。間には二つしか教室が無い。僕達は即座に警戒のために武器を構えた。
僕の銃には15発、明日香の銃には16発ある。沙智の矢筒には矢が8本しか入っていないが、しかしその分再利用できる。装備は大丈夫だ。
僕達三人は先ほどの僕の立ち位置に横一列で並んだ。要は僕達の右斜め前にいていつでも狼を切りつけられるようにナイフを構える。
「銃を持ってる二人は二発ずつ発砲してくれ。沙智は一発で十分だ。それでまだ生き残りがいたら俺が横から切りつける」
要の指示に僕達三人は頷きそれぞれ構えた。緊張が走る。教室二個分などあの狼達にとってはあっという間だ。
まず一匹目が見えた。
まだ狼がこちらに向かって曲がりきれてないところで明日香の銃から一発弾丸が発射された。それは見事に狼の脇腹に着弾。それだけでは狼を殺す事は出来ないが動きを止める事は出来た。狼はこちらを睨んでいる。そこに沙智が矢を放った。的はいつもよりずっと近い。そして動きも止まっている。沙智が外すはずも無く、矢は狼の目を貫通し脳に突き刺さり絶命させた。しかし休んでいる暇も無く狼が二匹同時に来た。僕は二発とも発砲した。片方は頭を貫く事は出来たが、もう片方は肩に当たるだけだった。続けて明日香の発砲。辛うじて足にかする。しかし殺すには遠く及ばない。
狼はこちらに飛びかかってくる。
「ひっ!」
明日香から悲鳴が漏れる。その悲鳴をかき消すように要の咆哮が聞こえた。
「うおおぉぉぉぉ!」
要は横から飛び出すように出てきた。そして狼の背中に向けて両手でナイフを刃先を下にして振り下ろす。
「ギャイン!」
狼が鳴き声と共に床に落ちた。けれどまだ生きている。頭を破壊する以外で怪物を殺すには相当な力が必要らしい。要は何度も何度もまるで狂ったようにナイフを振り下ろした。ナイフが刺さる度に狼から血が噴き出す。その痛みのせいで狼は満足に動く事が出来ない。何回目かの時に狼の首にナイフが刺さり、今までにないほどの血が吹き出る。そしてやっと狼は力尽きた。
要は少し手が震えていた。それもそのはず。僕達は遠くから攻撃をしただけ。獲物を殺す感触は無いに等しい。けれど要は違う。何回も肉にナイフを差し込み、引き抜き、そしてまた差し込んでいた。肉の感触など嫌というほど味わっただろう。血も大量に浴びている。けれどそんな弱気を僕達に隠すようにこちらを向いて微笑みながら言った。
「結構手こずっちまったな」
要は強い。僕とは比べ物にならないくらい強い。僕は改めてそう実感した。




