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1-2

 今僕達は誰よりも早くに立ち直った要の提案により職員室に向かっていた。鞄は邪魔だからという理由で置いてきている。僕達のいた教室は東棟五階の一年四組。職員室は東棟一階にある。周りの教室にはあまり生徒が残っていなかった。部活がある生徒以外は残っていないのだろう。しかし窓から見る限り文化部が西棟にちらほらと、運動部が運動場と体育館にたくさんいるようだった。

 さっきの拳銃に関しては僕と明日香が持つ事になった。要は俺は下手だからいらないと言い、沙智は私はこれがありますからと自分の肩にかけている弓を主張した事から、必然的にそうなったのだ。 拳銃と言っても種類はいくつかあるのだが、これはスプリングフィールドXDというもので、16発弾が入っている。セミオートだからそのまま引き金を引けば撃てると要に言われた。こいつなんで銃が苦手なのにこんなに知っているんだとは言わない。出来ないからこそ憧れるというものもある。

 「なぁ。銃とかモンスターとか妙にゲームらし過ぎておかしくないか?」

 「俺もそう思った。あの放送といい、箱といい、まるで遊ばれているみたいでムカつくわ。でも何もかもがおかしいけどよぉ。受け入れるしかないだろ、今は」

 要は自分もわからないことだらけだろうに僕の質問に答えてくれた。自分が情けなく思う。僕は生き残れるのか。そもそも生き残れる人なんているのだろうか。

 後ろには沙智と明日香がいる。二人とも沈痛な面持ちだがしっかりとついて来ているを確認した。 せめて何かやってやる。

 銃を持つ手に力を込めた。


 

 「……え?」

 明日香が声を漏らした。僕も沙智も要も同じ気持ちだった。別にあり得なく無い話なのに希望が消えたような気がして何も言葉に出す事は出来なかった。心のどこかで考えないようにしていたのかもしれない。

 首が綺麗に切断された死体。胸に穴の空いた死体。下半身が無い死体。死体。死体。死体。職員室は教師達の死体で溢れてかえっていたのだった。

 子供達にとっては絶対である大人。頼るべき大人。その大人は全員すでに死んでいた。ぞろぞろと他の所からも生徒が来ては、この風景を見ては絶望している。一様にへたり込んだり泣いたりしている。中には体操着に血のかかっている生徒もいた。命からがら化物から逃げてきたのだろうが、しかし縋ろうとしていた物が無くなり生きる気も失せてしまっているようだった。

 ーーッ!僕は走り出したくて一杯な心を静め叫んだ。

 「おい! 逃げるぞ! 化物達も直ぐにやってくる!」

 それとほぼ同時に三匹の狼が校舎の中に入ってきた。運動場にいた人達がここにいるという事は化物達もここに来るという事である。なんでもっと早くに気付かなかった!自分を殴ってやりたい気分だった。

 「ひぃぃぃっ!」

 悲鳴。焦燥。他の人を押しのけてまで逃げようとする人々。いや、あれは他の人を囮にしようとしている。倒れて化物の餌になっている生徒もいる。

 僕は一番ショックを受けて尻餅をついている明日香の手を引っ張った。要と沙智を見る。どちらもかなり深刻な顔つきだが、しっかりと自分の足で立って、こちらを心配している。僕はそれに頷きで答えた。そして僕達は走り出す。どこに向かっているかも分からないが、とにかく上へ。三匹の狼は先ほど殺された生徒を咀嚼していてまだこちらを追ってきていない。

 このまま上がっても追い詰められるだけだ。そう思った僕は渡り廊下を通り西棟へ。こちらなら人もまだいるはずだ。自分たちが食われる可能性は低くなる。そして西棟三階のとある教室にさっきの赤い箱があるのを見つけて、その教室に飛び込んだ。あとから入ってきた要が扉の鍵を占めている。僕も反対側の扉の鍵を占めた。

 一瞬の静寂。しかしその後一斉にまるで今まで息を止めていた様な大きなため息を吐いた。

 


 入った教室は西棟三階化学室だった。沢山の薬品が置いてある。強酸もたくさんあるし、探せば反応性の強いナトリウムなどもあるかもしれない。けれど僕達には役立ちそうもなかった。もしかしたらここにあるもので爆発物などが作れるのかもしれないが、ちゃんとした容器のない今では取り扱いが難しく何かの拍子で誤爆してしまう事だってあり得る。それよりも今は箱の方だ。

 三人とも今は落ち着いているが、しかし疲れきっているようではぁはぁと息を切らすだけで全く動こうとはしていない。僕は箱に近付いた。この前と大体同じ大きさの箱。恐る恐る開けてみると、中には手榴弾5個とサバイバルナイフが一本入っていた。これじゃあまるで本当にゲームだ。装備を整えて、モンスターを倒す。ふざけている!けれどこれで確かにモンスターは倒しやすくなった。

 喜びや怒り、心配などが僕の心でぐちゃぐちゃに混ざり合っていた。

 皆に箱の中身を教える。要がナイフと手榴弾を二個を持ち、あとの手榴弾は三人で一つずつ分ける事にする。それを各々ポケットにしまいんだ。

 僕も皆も大分落ち着いてきてはいる。けど誰も口を開かない。時計を見る。あれから何分経ったのだろうと。

 ーー教室に掛けられた時計は午後五時を示していたーー。

 時間はこれっぽっちも進んでいなかった。要達も僕の視線を追い、時計に気付いた。

 「時間進んでませんね」

 沙智はもうこの様な異常に慣れきってしまったようだった。

 「携帯電話はどう?」

 僕は半ば諦めきったように聞いた。要が即座にポケットから出すが画面を見て首を振った。

 「こっちも五時だ。それに圏外。」

 何をすればいいのか分からない。皆動きかねている。しかし要が悔しがるように自分の思いを吐き出した。

 「このまま落ち込んでるだけだと俺達もただ死ぬだけだ。放送で言ってたろ。メタモルフォーゼとか今は意味わかんねぇけどとにかく、化物を殺さなくちゃいけないってことだ。武器もある。危なくてもやるしか無い」

 あぁ…要は本当に強い。僕達の進む道を示してくれているようだ。

 「うん。武器持っている人なんてあたし達以外いないかもしれないし」

 明日香も賛同した。

 そうだよ。このまま死ぬだけなんてごめんだ。僕は銃を持っていたのにさっきはビビって撃とうという考えさえわかなかった。次こそはやらなくちゃいけない。やらなくちゃいけない。

 僕の心に再起の炎が宿ったようだった。沙智の顔も決意に満ちている。

 僕は静かに立ち上がった。

 なんだ。簡単じゃないか。いつも通りやれば恐れる事なんて何もない。大丈夫。今なら分かる。肉球が地面につく音。毛の擦れる音。風を遮る音。口についた血の匂い。そして僕達の生命を脅かす気配。明日香が教室に入る前にその存在に気付いたように、クレーの位置が手に取るようにわかったように、扉の向こうにもうすぐあの狼が来る事が手に取るように分かる!要達が僕を不思議そうな顔で見ている。けど今は何も気にならない。ただただ狼だけを感じていた。

 

 僕はドアの五メートル前まで移動する。

 ーー狼がこちらに気付いたーー

 

 僕はわざとらしく足音を出し、もう一メートル前へ進む。

 ーー狼がこのドアを押し開けるために身を屈めたーー


 僕は静かに、けれどしっかりと銃を正面に構える。

ーー狼が扉に向かって体当たりをしたーー


 車が衝突したような衝撃音と共に扉がこちらに向かって倒れてきた。けれど扉は二メートルほどでここまでは届かない。

 扉に隠れて狼が見えない。けれどその音が、その匂いが僕に居場所を教えてくれる。

 大丈夫。僕はやれる。失敗する要因なんて一つも無い。

 そしてそのまま引き金を引いた。

ーードンーー

鈍い音が響き渡った。

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