〜の裏で
サクッと読めるムナクソエピソードの風刺小説です。
夕方の駅。
人の流れが絶えず続く改札前で、三人の男が壁際に立っていた。
年齢は二十代後半から三十代前半。
服装はラフだが、全員が同じようにスマホと小型カメラを持っている。
胸元にはピンマイク。
「今日も一本、稼ごうか」
男の一人がニヤつきながら言う。
彼らは動画配信サイトでそこそこ名の知れた“私人逮捕系YouTuber”だった。
表向きは、盗撮犯や痴漢を取り締まる正義の味方。
動画のコメント欄には称賛の言葉が並ぶ。
だが、実際に彼らが探しているのは犯人ではない。
炎上しそうな映像。
怯えた顔。
金になりそうな相手。
それだけだった。
「今日のタイトルどうする?
“駅で現行犯逮捕、犯人逆ギレ”とか伸びそうじゃね?」
笑い声が漏れる。
正義を語る口調とは裏腹に、その目は獲物を探す捕食者のそれだった。
—
少し離れた場所に、スカートを気にしながら歩く女性がいる。
「空気できてるな」
男が口元を歪める。
女性の不安そうな様子すら、こいつらにとっては撮れ高でしかない。
その背後を、スーツ姿の男性が通り過ぎた。
ただ、それだけ。
「行くぞ」
次の瞬間、カメラが回る。
「今、何撮ってた?」
突然腕を掴まれた男性は、何が起きたか分からず立ち尽くす。
その様子を至近距離から撮影するスマホ。
「カメラ回ってるからな。言い逃れできないぞ」
もう一人が横から煽る。
周囲の視線が一気に集まる。
男性の顔から血の気が引いていく。
「やってません」
「じゃあスマホ見せろよ」
命令口調。
拒否すれば、動画の中で“怪しい行動”として切り取られる。
やっていなくても、やったように見せる編集は簡単だ。
それをこいつらは知っている。
「警察呼ぶ?会社にも動画回るかもね」
脅し文句は慣れたものだった。
正義の仮面を被った恐喝。
最低なのは、それを自分たちで正義だと思い込んでいることだ。
—
結局、男性は金を差し出す。
「これで今回は示談ってことで」
男は薄く笑う。
カメラはその場面をわざと映さない。
映すのは男性の怯えた顔だけ。
後で動画にはこう載る。
“盗撮犯を私人逮捕しました”
真実などどうでもいい。
再生数が伸びればそれでいい。
広告収入、投げ銭、メンバーシップ。
人の人生を踏み台にして得る金で、こいつらは生きていた。
—
夜。
高級居酒屋の個室。
テーブルには食べきれない料理が並び、男たちは昼間の映像を見ながら笑っている。
「この顔やばい、めっちゃビビってるじゃん」
「サムネこれで決まりだろ」
他人の恐怖を見て酒が進む。
吐き気がするほど下劣だった。
その席には女子高生もいる。
制服の上にパーカーを羽織り、場違いな空間で札束を受け取っていた。
「ほら、今日の分」
一万円札を数枚、無造作に差し出す。
「ありがとー。マジ助かる」
彼女は金の出どころを気にしない。
男たちも説明しない。
騙し取った金で豪遊し、気に入った相手にばら撒く。
それが自分たちの価値だと思っている。
—
だが実態は空っぽだ。
正義を語る資格もない。
誰かを守る意思もない。
弱そうな相手を選び、
カメラを武器にして追い詰め、
嘘を編集して世間に流し、
その金で笑う。
ただのクズだった。
—
翌日もまた、同じ駅。
同じ柱の陰。
「次のカモ探すか」
その一言に、こいつらの全てが詰まっていた。
犯人を探しているわけじゃない。
正義でもない。
ただ、他人の不幸に群がるハイエナ。
“私人逮捕系YouTuber”という看板だけをぶら下げた、最低なクソ野郎どもだった。
拝読ありがとうございました。




