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〜の裏で

作者: 黒鷺
掲載日:2026/04/26

サクッと読めるムナクソエピソードの風刺小説です。


夕方の駅。

人の流れが絶えず続く改札前で、三人の男が壁際に立っていた。

年齢は二十代後半から三十代前半。

服装はラフだが、全員が同じようにスマホと小型カメラを持っている。

胸元にはピンマイク。

「今日も一本、稼ごうか」

男の一人がニヤつきながら言う。

彼らは動画配信サイトでそこそこ名の知れた“私人逮捕系YouTuber”だった。

表向きは、盗撮犯や痴漢を取り締まる正義の味方。

動画のコメント欄には称賛の言葉が並ぶ。

だが、実際に彼らが探しているのは犯人ではない。

炎上しそうな映像。

怯えた顔。

金になりそうな相手。

それだけだった。

「今日のタイトルどうする?

“駅で現行犯逮捕、犯人逆ギレ”とか伸びそうじゃね?」

笑い声が漏れる。

正義を語る口調とは裏腹に、その目は獲物を探す捕食者のそれだった。

少し離れた場所に、スカートを気にしながら歩く女性がいる。

「空気できてるな」

男が口元を歪める。

女性の不安そうな様子すら、こいつらにとっては撮れ高でしかない。

その背後を、スーツ姿の男性が通り過ぎた。

ただ、それだけ。

「行くぞ」

次の瞬間、カメラが回る。

「今、何撮ってた?」

突然腕を掴まれた男性は、何が起きたか分からず立ち尽くす。

その様子を至近距離から撮影するスマホ。

「カメラ回ってるからな。言い逃れできないぞ」

もう一人が横から煽る。

周囲の視線が一気に集まる。

男性の顔から血の気が引いていく。

「やってません」

「じゃあスマホ見せろよ」

命令口調。

拒否すれば、動画の中で“怪しい行動”として切り取られる。

やっていなくても、やったように見せる編集は簡単だ。

それをこいつらは知っている。

「警察呼ぶ?会社にも動画回るかもね」

脅し文句は慣れたものだった。

正義の仮面を被った恐喝。

最低なのは、それを自分たちで正義だと思い込んでいることだ。

結局、男性は金を差し出す。

「これで今回は示談ってことで」

男は薄く笑う。

カメラはその場面をわざと映さない。

映すのは男性の怯えた顔だけ。

後で動画にはこう載る。

“盗撮犯を私人逮捕しました”

真実などどうでもいい。

再生数が伸びればそれでいい。

広告収入、投げ銭、メンバーシップ。

人の人生を踏み台にして得る金で、こいつらは生きていた。

夜。

高級居酒屋の個室。

テーブルには食べきれない料理が並び、男たちは昼間の映像を見ながら笑っている。

「この顔やばい、めっちゃビビってるじゃん」

「サムネこれで決まりだろ」

他人の恐怖を見て酒が進む。

吐き気がするほど下劣だった。

その席には女子高生もいる。

制服の上にパーカーを羽織り、場違いな空間で札束を受け取っていた。

「ほら、今日の分」

一万円札を数枚、無造作に差し出す。

「ありがとー。マジ助かる」

彼女は金の出どころを気にしない。

男たちも説明しない。

騙し取った金で豪遊し、気に入った相手にばら撒く。

それが自分たちの価値だと思っている。

だが実態は空っぽだ。

正義を語る資格もない。

誰かを守る意思もない。

弱そうな相手を選び、

カメラを武器にして追い詰め、

嘘を編集して世間に流し、

その金で笑う。

ただのクズだった。

翌日もまた、同じ駅。

同じ柱の陰。

「次のカモ探すか」

その一言に、こいつらの全てが詰まっていた。

犯人を探しているわけじゃない。

正義でもない。

ただ、他人の不幸に群がるハイエナ。

“私人逮捕系YouTuber”という看板だけをぶら下げた、最低なクソ野郎どもだった。


拝読ありがとうございました。

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