第7話 「初陣・魔王軍」
急行だった。
王都から国境まで、馬を駆って三日。
だが、クロードが魔法で空飛ぶ船を用意してくれた。
「魔力を大量に消費する。だが——」
「一刻を争う状況だ」
「ありがとうございます!」
俺たちは船に飛び乗る。
風を切って、北へ。
エリシアが、地図を睨んでいる。
「グランベルク砦……国境の要所ですわ」
「ここが落ちれば、魔王軍が内地に侵攻できます」
「なんとしても守るぞ」
リオンが、剣の柄を握る。
俺も頷く。
「絶対に、守りきるっす!」
ミーシャが弓弦を確かめる。
「グロちゃん、初めての実戦だよね」
「緊張してる?」
「……そりゃあ、ちょっとは」
本音だ。
演習とは違う。
本物の戦場。
「でもまあ!」
俺は笑う。
「やるしかないっしょ!」
「その意気よ」
ザックが、肩を叩く。
「俺が後ろで支える」
「思い切り暴れてこい」
「おう!」
空飛ぶ船は、さらに速度を上げた。
◆
到着したのは、夕暮れ時。
だが——
「うわ……」
砦は、地獄だった。
炎が上がり、煙が空を覆う。
城壁は崩れ、魔物の群れが兵士たちを追い詰めていた。
「間に合ったか!」
リオンが叫ぶ。
「全員、戦闘準備!」
「エリシア、空から援護!」
「承知しましたわ!」
エリシアが杖を構える。
「ミーシャ、狙撃!」
「了解!」
「ザック、負傷兵の回収と治療を!」
「任せろ!」
「グロッグ——」
リオンが、俺を見る。
「お前と俺で前に出る」
「魔物の群れを叩く!」
「了解っす!」
俺は剣を抜く。
【ソードマスター】
スキルが、全身に満ちる。
「行くぞ!」
「おう!」
船から飛び降りる。
地面に着地し——
「グオォォォ!」
魔物の群れが、襲いかかってきた。
「オークがァ!」
「人間の手先かァ!」
ゴブリン、オーガ、ヘルハウンド。
数は、五十を超える。
「へっ!」
俺は笑う。
「どんとこいっす!」
剣を振るう。
一閃。
ゴブリン三体が、吹き飛ぶ。
「はあああっ!」
リオンも斬り込む。
華麗な剣技で、オーガを倒す。
「エアロブラスト!」
上空からエリシアの魔法。
風の刃が魔物を薙ぎ払う。
「やった!」
ミーシャの矢が、ヘルハウンドの眉間を貫く。
「よっしゃ!」
俺は前に出る。
オークの巨体を活かして、突進。
魔物を蹴散らし、城壁の前まで辿り着く。
「大丈夫っすか!」
兵士たちが、驚いた顔をする。
「お、オークが……」
「なんで助けに……」
「細かいことはいいっす!」
俺は笑う。
「今は仲間っしょ!」
剣を構える。
「俺が守るっす!」
「下がっててください!」
兵士たちが、後退する。
その瞬間——
「グオオオォォォ!」
巨大なオーガが、斧を振り下ろす。
「っと!」
俺は横に跳ぶ。
地面が砕ける。
「でけえ……」
「だが!」
俺は踏み込む。
【ソードマスター】
最適な軌道が、見える。
「せいやあっ!」
斬り上げる。
オーガの腹が、斬り裂かれる。
「グ……ガァァ……」
倒れる。
「やったっす!」
だが。
「まだいるぞ!」
リオンが叫ぶ。
次の波が、来る。
ゴブリンの群れ、三十体以上。
「くっそ……」
息が上がってきた。
さすがに疲れる。
「グロッグ!」
エリシアが叫ぶ。
「一旦下がりなさい!」
「魔法で吹き飛ばしますわ!」
「了解っす!」
俺は後退する。
エリシアが詠唱を始める。
「凍てつく風よ——」
だが。
その時。
「——おや?」
声がした。
低く、冷たい声。
「これはこれは」
空気が、変わる。
圧力。
明らかに格が違う。
「オークが……」
「人間の手先をしているとは」
「笑止千万だな」
炎の奥から、男が現れる。
黒い鎧、赤い瞳。
角が二本、額から生えている。
「魔人……」
リオンが呟く。
「まさか、幹部クラスか!」
「ご明察」
男は嗤う。
「魔王軍四天王の一角——」
「ベルザードと申す」
「よろしく」
そう言って、剣を抜く。
巨大な黒剣。
「オークよ」
ベルザードが俺を見る。
「貴様、恥ずかしくないのか?」
「同胞を裏切り——」
「人間に尻尾を振って」
「……っ」
言葉が、胸に刺さる。
だが。
「裏切り……?」
俺は首を傾げる。
「いや、そもそも」
「俺、オークとして生まれたばっかっすけど」
「同胞とか言われても」
「ピンと来ないんすよね」
ベルザードが、眉を顰める。
「……なに?」
「だって!」
俺は笑う。
「俺、転生者っすから!」
「前世は人間っす!」
「だから——」
剣を構える。
「俺は仲間と戦ってるだけっす!」
「人間も、オークも関係ねえ!」
「俺の仲間を守る!」
「それだけっす!」
ベルザードが、一瞬驚いた顔をする。
そして——
「ハハハハハ!」
笑い出した。
「面白い!」
「実に面白いぞ、オークよ!」
「ならば——」
剣を構える。
「その信念、試させてもらおう!」
地面を蹴る。
速い!
「っ!」
俺も剣を合わせる。
キィィィン!
火花が散る。
「ほう……」
ベルザードが、目を細める。
「【ソードマスター】……か」
「なるほど、これは——」
「確かに本物だ」
「ッシャ!」
俺は押し返す。
距離を取り、構え直す。
「グロッグ!」
エリシアが魔法を放つ。
「邪魔だ」
ベルザードが剣を振る。
魔法が、弾かれる。
「なっ……」
「相手は俺だけにしろ」
俺は踏み込む。
斬り込む。
ベルザードが受ける。
「遅い!」
カウンター。
「ぐっ!」
肩を斬られる。
痛い……!
「まだまだ!」
だが、俺は止まらない。
斬り返す。
【ソードマスター】が、最適解を示す。
「ほう……」
ベルザードが、防御する。
「良い目をしている」
「だが!」
蹴りが飛んでくる。
「うわっ!」
吹き飛ばされる。
地面を転がる。
「グロッグ!」
ミーシャが叫ぶ。
「くそ……」
立ち上がる。
血が流れる。
「やるっすね……」
「当然だ」
ベルザードが歩いてくる。
「私は魔王軍四天王」
「貴様如きに——」
「だったら!」
俺は叫ぶ。
「もっと本気で来いっす!」
剣を構える。
深呼吸。
【ソードマスター】
全スキルを解放する。
「——見せてやるっす」
踏み込む。
速度が、違う。
「なに!」
ベルザードが驚く。
斬り込む。
弾かれる。
だが——
すぐに次の一撃。
さらに次。
連続攻撃。
「くっ……」
ベルザードが、後退する。
「やるな……」
「まだっす!」
俺は踏み込み続ける。
【ソードマスター】が、全ての隙を教えてくれる。
そこだ!
「せいやああっ!」
斬り上げる。
ベルザードの肩を、斬り裂く。
「ぐああっ!」
血が飛ぶ。
「やった……」
だが。
「……まさか」
ベルザードが、呟く。
「このベルザードが……」
「オーク如きに……」
そして——
「覚えておくぞ、オークよ」
後退する。
「次は——」
「もっと楽しませてもらう」
闇に消える。
撤退した。
「……勝った?」
俺は剣を下ろす。
「勝ったっす!」
「やったあああああ!」
その瞬間——
「オークの勇者、ありがとう!」
兵士たちが、叫ぶ。
「助かった!」
「ありがとう!」
「お前が守ってくれたんだ!」
「え……」
俺は、驚く。
兵士たちが、近づいてくる。
オークの俺に。
「本当に、ありがとう」
隊長らしき男が、頭を下げる。
「あなたがいなければ——」
「全滅していました」
「いや……」
俺は照れる。
「当然のことっすよ!」
「仲間っすから!」
「仲間……」
兵士たちが、笑う。
「ああ、そうだな」
「仲間だ」
「ありがとう、グロッグ!」
「グロッグ!」
「グロッグ!」
名前を呼ばれる。
オークの俺の名前を。
「……っ」
なんか。
泣きそうになる。
「グロッグ」
エリシアが、微笑む。
「お疲れ様ですわ」
「よくやったな」
リオンも、頷く。
「グロちゃん、かっこよかったよ!」
ミーシャが、抱きつく。
「ったく……」
ザックが、治療魔法をかけてくる。
「無茶しやがって」
「へへ……」
俺は笑う。
「勝ったっすよ」
「みんな」
「ああ」
リオンが、剣を鞘に収める。
「これで——」
「お前の名は国中に知れ渡るだろう」
「オークの勇者、として」
「おう!」
俺は拳を上げる。
夕日が、砦を照らす。
炎は消え、兵士たちが喜びの声を上げる。
「やったっす!」
この瞬間。
俺は確信する。
ここが、俺の居場所だって。
◆
だが。
魔王城。
「面白いオークがいる」
ベルザードが、報告する。
「【ソードマスター】を持ち——」
「人間と共に戦う」
「名は、グロッグ・ブレイドハート」
「……ほう」
玉座に座る男が、目を開ける。
魔王ゼルギウス。
「オークでありながら——」
「人間の勇者か」
「興味深い」
「陛下……」
「次に会ったら——」
魔王が、笑う。
「話をしてみたいものだ」
「そのオークと」
冷たい笑みが、魔王城に響く。
新たな物語が——
動き出そうとしていた。




